New Album Review Weired Nightmare 「Weired Nightmare」

 Weired Nightmare 「Weired Nightmare」

 

 


 Label : Sub Pop

 Release: May 20th,2022

 

 

Weired Nightmareは、カナダのロックバンドMETZのギタリスト、Alex Edkinsによるソロ・プロジェクトで、今作は、彼の記念すべきデビュー作となる。サブ・ポップのホームページに掲載された紹介文によれば、「The Amps(キム・ディールのバンドプロジェクト)がBig Sarをカバーしたような、あるいは、Guide By Voicesクラシック時代の華麗でヒスキーなミニチュア叙事詩とCopper Blue時代のSugarの豪快さを組み合わせたような、耳にした瞬間にゾクッとするタイプの曲であり、大量の赤い線のディストーションをカットしたような、そんなイメージである」と書かれている。


また、以下のような説明が付け加えられている。この10曲は、すでに確立されたエドキンスのソングライティングの新しい側面を示しているが、『Weird Nightmare』の大部分はCOVID-19の流行中に録音されたにもかかわらず、その曲のいくつかはデモの形で2013年にまでさかのぼる。

 

「Weired Nightmare」は、およそ、9年間という長い歳月にわたってソングライティング、レコーディングが行われた作品である。

 

 

このデビューアルバムについて、アレックス・エドキンスは、どのように考えているのだろうか。

 

「フックとメロディーは常に私の作曲の大きな部分を占めていましたが、今回は本当にそれがメインになりました "と彼は説明します。"自然に感じられることをやるということだった"。

はっきり言って、『Weird 『Nightmare』は「パンデミックアルバム」ではなく、長い間温めていたアルバムで、たまたまパンデミックの間にレコーディングされたものなのです。

 

「これらの曲を完成させるつもりだったが、METZのツアーに参加できず、ロックダウンを余儀なくされたことが背中を押してくれた」。

 

息子のために家庭学習をした後、エドキンスはMETZのリハーサル室に車で行き、夜遅くまでこれらの曲の偽りのないシンプルな構造と豊かで静的なテクスチャーをいじっていたのだ。「それは私にとって天の恵みでした」と彼は創造的なプロセスについて述べています。

 

「時間が経つのも忘れて、音楽に没頭してレコーディングしていた。それは美しい逃避行だった」

 

しかし、そういった九年という製作期間の長さについて考え合わせたとしても、実際のアルバムを聴いた印象としては、それほど労作という雰囲気は滲んでいない。それに、長いという印象もほとんど感じられない。音楽は、アレックス・エドキンスの子供のように夢中になって楽しんだ美しい時間が瞬間的に流さっていくのだ。デビューアルバムに収録されている全10曲は、例えば、SuedeのUKポップを下地にした、心楽しい純粋なギターロック・ナンバーがずらりと並んでいる。オープニングトラック「Searching For You」からノイジーなパワー・ポップが遊園地のジェットコースターのようにめくるめくさまに通り抜けていき、それほど時代性を感じさせない、痛快なギターロックの王道が芯のように底流に通っている。リリース日を伏せて聴くと、1990年代のブラー、オアシスのアルバムを聴いているような錯覚すらある。そして、歌い方自体も明らかに、ブリット・ポップを基礎においているのも興味深い点といえるか。

 

このデビューアルバムの収録されている中で、最も痛快なのは、The Whoの「The Kids Are Alright」を彷彿とさせる「Lusitania」ではないだろうか。ここでは、往年のロックの名曲が、半ばヤケクソまみれで展開される。しかし、そこにAlex Edkinsの純粋なUKロックに対する並々ならぬリスペクトが滲んでいるため、曲自体はきらりと光り輝き、奇妙な痛快さを滲ませているのだ。

 

作品全体の解釈としては、 ギターロック/ブリットポップの再定義という印象を受けるのだが、そこには、パワー・ポップに近いメロディーの甘さが滲んでいるのが、ワイアード・ナイトメアの最大の長所であるといえるかもしれない。さらに、ここには、サブ・ポップが説明しているように、The Amps、Big StarといったUSのインディーロック/パワー・ポップに対するリスペクトも感じられる。その他、狂乱的な雰囲気の中にひっそり隠れるような形で、初期のベル・アンド・セバスチャンのように瞑想的なインディーフォーク「Zebra Dance」が収録されている。 こういった緩急のあるギターロックナンバーが嵐のように過ぎ去っていった後、アルバムのフィナーレを飾る「Holding」だけは、作品の中で異彩を放っている。ここには、甘さの後にやってくるガツンとしたスパイスのようなものが感じられ、例えば、1990年代終盤から2000年代にかけてのGuide By Voice周辺の音楽を一つ残らず聴き込んできた、というようなAlex Edkinsの流儀のようなものが最後のさいごで提示されている。そして、その意思表明のようなものが、このアルバムの印象を力強くしている。それは例えば、モグワイが「Young Team」を提げてスコットランドから劇的な登場を果たした時のような力強さが込められているのだ。

 

アレックス・エドキンスのソロプロジェクト、ワイアード・ナイトメアの音楽は、新奇性を衒ってはいない。しかし、近年のミュージックシーンの象徴的な意味合いを持つような作品である。一般的な、世界の社会情勢としては国際的なグローバル化は終焉を迎えており、瓦解が進んでいき、西洋とその他地域の分裂化が進んでいるのにもかかわらず、その社会情勢に反して、世界の音楽シーンを俯瞰してみると、アーティストのグローバル化が進んでいるような事実性が最近の複数のアルバム、特に、「Weired Nightmare」には込められているように思える。もはや、サブスクリプションが普通となった時代において、音楽における地域性という要素は、薄められつつあるのか? この後、音楽の「単一化」と「分裂化」、世界のいたる場所のミュージックシーンにおいて、こういった対極的な流れが出来ていくと思われるが、少なくとも、エドキンスがこのデビュー作で生み出したのは前者であり、つまり、言ってみれば、彼が今作で生み出したのは「世界音楽」といえる。「Wired Nightmareー奇妙な悪夢」・・・、それは、この年代の音楽を知る人にとってはノスタルジアを感じさせもし、もちろん、この年代のインディー音楽を知らない世代にとっても、奇妙なロマンチシズムを感じさせる作品となるはずだ。

 

 75/100

 




Listen/Buy: https://www.subpop.com/releases/weird_nightmare/weird_nightmare