New Album Review  Perfume Genius 「Ugly Season」

 Perfume Genius 「Ugly Season」

 

 

 

Label: Matador 

 

Release: 2022年6月17日 

 

アメリカのソロアーティスト、パフューム・ジーニアスの新作「Ugly Season」は正直なところ批評が難しい。つまり、解きほぐし難い音楽のひとつである。それはなぜなのか、以下で説明していきたいと思う。

 

最新アルバムは、アート・ポップの最前線を行くもので、このソロアーティストの命題「同性愛者としての苦悩」がかなりリアルに描き出されている点では、センセーショナルな雰囲気を持つ。この作品「Ugly Season」は、多くの人に、そういった社会問題を提起されるような喚起力が込められている。

 

海外だけでなく、日本のリスナーの間でも、既に、様々なアーティストとの比較、ビョーク、デビッド・ボウイといったアーティストとの比較もなされているが、それらは、このミュージシャンの数々の魅力・・・数奇なスター性、そして、カリスマ性を端的に表していると言えるかもしれない。

 

パフューム・ジーニアスの場合は、大衆音楽のアバンギャルド性を引き継ぎ、現代音楽、モダンジャズといった表現に踏み込んでいく。アルバムは、パフューム・ジーニアスの多彩な音楽の背景を伺わせ、壮大なチェンバーポップ、プリペイド・ピアノをシンセサイザーを駆使し、ポピュラーミュージックとして組み直したものまでかなり幅広い表現が見いだされる。「Pop Song」では、北欧のポップスにも近い作風に挑戦する。その中には、爽やかな質感を持った把握しやすい楽曲も収録される一方、このアーティストらしさのある内省的な趣のある曲がそれらと対比的に並置されている。

 

いつものことながら印象論になって恐縮ではあるけれど、パフューム・ジーニアスのボーカルを聴いていると、内省的という印象を越え、ときに、内面的な閉塞感の息苦しさのような思いまで感じ取られる場合もある。これは、パフューム・ジーニアスにとっての同性愛者としての生き方が、社会として、辛く、閉塞感にまみれていることを表している、依然として、LGBTといった概念が世界的に普及したとしても、その考えが一般に浸透しておらず、奇異な存在として見られている、という困惑のような思いを音楽を介して表現しているように感じられる。おそらく、多分、パフューム・ジーニアスの目の向こうに広がる世界はすごく未完成で、すごく息苦しいものなのだ。

 

最新作のパフューム・ジーニアスのボーカルを聴いていると、何かに近似しているように思える。それは、同性愛者の画家として活躍したアイルランドのフランシス・ベーコンのアートである。


フランシス・ベーコンの絵も奇妙で、幼少期から喘息を患っていたせいもあってか、作品群には常に閉塞感が漂い、感覚的な息苦しさが籠もっている。時に、マイノリティーにしか理解し得ない抽象的表現は、本当に、絵の中に、奇妙なガラス、存在を取り巻く膜のような事物として描かれる。閉所恐怖症でない鑑賞者にとってこれは、かなりグロテスクで奇妙に思えるが、理解出来る部分も少なくない。その閉塞性は、絵の中に実存する「誰か」を常に苦しめる。けれども、こういった閉塞感のようなものは、どの世界にも、普遍的に存在するものではないだろうか??

 

パフューム・ジーニアスの音楽は、フランシス・ベーコンのデフォルメの絵画に近い雰囲気が込められている。壊れやすく、薄い、四方の鏡のようなものに包まれている。表向きには、きわめてセンシティヴだが、反面、奇妙な癒やし、共感性がこのアルバムに感じられるのもまた事実なのだ。

 

全ての表現が研ぎ澄まされているとは言いがたい。ときに奔放すぎるため、乱雑な印象を聞き手に与える。しかし、肯定的な見方をすれば、パフューム・ジーニアスは、感覚的な形而下の概念を音楽として表そうとするから、どうしても現時点ではそういった表現性にならざるをえないとも言える。

 

作品全体には、アルバムジャケットに描かれる感覚的な実存のゆらめきのようなオーラが空間を漂い、その中心に奇妙なギザギザした棘が突き出ている。それはこのアーティストが存在として社会の中でせめぎ合う姿が表れ出ている。それは、世の中の徹底的な偏見や無理解に対する諦観にも似たやるせなさなのか・・・、それでも、これこそ、このアーティストの持つ最大の魅力である。もちろん、それは、パフューム・ジーニアスと同じく、LGBTQの境遇に置かれていないリスナーにとっても何らかの共感を呼び覚ますものと思われる。束縛感のある息苦しい社会に前向きに生きようとするアーティストの感覚的な力強い表現がこのアルバムでは最大限に引き出されている。またそれは同じような苦しみ持つ人たちに大きな勇気をあたえるものであると思う。


critical rating :

80/100

 

 


Buy on Matador Records :   https://store.matadorrecords.com/ugly-season