Young Guv 「Guv Ⅳ」
Label: Run For Cover
Release: 2022年6月24日
「Guv
Ⅳ」はYoung
Guvの名を冠して活動を行うベン・クックの通算4作目のアルバムとなる。本作は、アルバムのアートワークも三作目の方向性を引き継いでいる。デザイン、色合いがよく似ているが、目だけのジャケットが三枚目。目から涙がこぼれている方が四枚目のアルバムとなる。追記として、発売レコード盤としては、Ⅲ作目とⅣ作目を取りまとめた12インチ「Young Guv Ⅲ&Ⅳ Yellow」が発売されているのでファンとしてはこちらが狙い目となるか。
さて、ベン・クックは、前作のアルバムのレコーディングをニューメキシコの砂漠で行ったが、四作目では、LAに制作拠点を移している。そのことが作品に対して何らかの影響を及ぼしたかまでは言及できないが、今作では、ベン・クックらしいパワー・ポップ、ブリット・ポップ、スコットランドのネオ・アコースティックを融合したようなギター・ロックが展開される。 エレクトリックギターのバックトラックに薄くアコースティックが重なるという点では、現代的なアメリカのインディー・ロックではある、アップテンポの曲からミドルテンポの曲まで幅広いアプローチが図られているので、じっくり聴き込めるような何かを本作に感じ取ってもらえるだろうと思う。
そして、このアルバムでは、ベン・クックらしい甘いメロディーが満載され、それがエッジの効いたインディーロックへと昇華されている。これは彼がハードコアのシーンから出てきたという理由にあるかもしれない。ベンクックのギターロックサウンドには、力強いドライブ感があり、どっしりとした迫力も感じられる。最近のNu gazeの音楽性と近似するものもあるが、前作に引き続き、ベン・クックが求めるのは、1990年代の英国のブリット・ポップの空気感、ノスタルジアにある。 アルバム全体にはスミスを始めとするマンチェスターサウンド、その後のブリットポップの時間が流れている。今や背後に過ぎ去った時代の空気感を堪能してもらえる一枚となるはず。
オープニングトラックを飾る「Too Far Gone」、4曲目の「Overcome」では、シャーラタンズを始めとするブリット・ポップの影響を色濃く滲ませ、深いリスペクトを示している。その他、「Nowehere」では、ベン・クックのメロディーセンスが発揮され、甘くせつないパワーポップソングが生み出されている。「Cold In Summer」ではモダンなシンセポップにも挑戦している。
もちろん、よく言うように、ただの懐古主義というわけではない。Partimeのようなレトロなエレクトロ・ポップからの影響を滲ませているのが特徴で、近年のLAのローファイシーンからの影響も受けているかもしれない。ただ、面白いのは、いくつかの音楽、ブリット・ポップ、ギターロック、ネオ・アコースティック、ローファイ、それがベン・クックの手にかかると、上手い具合にこのアーティストの個性に溶け込み、完全なオリジナル曲になってしまう。この作品に収められている楽曲は、既存の音楽の単なるオマージュでもなければ、イミテーションのように思えなくなるのだ。
「Guv Ⅳ」は、「Ⅲ」に続いて、2020年代のパワーポップの隠れた名盤として後にひっそりと語り継がれるようなアルバムになるか。派手な音楽ではないものの、ひそかにギターロックマニアの間で人気の出そうな作品である。これを時代遅れと捉えるのか、新鮮みがあると捉えるのかは、聞き手の感性によりけり。少なくとも、新しさと古さの両側面を持ち合わす奇妙なアルバムで、パワーポップ、ブリット・ポップの最盛期をリアルタイムで味わったリスナーにとってはもちろんのこと、また、そうではないリスナーにとっても、このアルバムの音楽は後味の良さをもたらすだろうと思われる。
Critical Rating:
74/100