Black Midi 「Hellfire」

 Black Midi 「Hellfire」

 



Label:  Rough Trade

Release: 2022年7月15日

 

REVIEW


今年の12月に単独来日公演が決定しているブラック・ミディ。今やアヴァンギャルドロックバンドとして最も注目を浴びるトリオ。

 

今週、金曜日にリリースされたばかりのファン待望の最新作「Hellfire」は、よりバンドとしてのキャラクター、バンドのアプローチが明らかになった作品と呼べるかもしれません。最初期は、ポストパンクバンドとしてみなされる場合も多かったブラックミディですが、今作で明らかになったのは、バンドが1970年代のサイケデリックロック、Yes、King Crimsonのようなプログレッシヴロックを志向していることです。

 

アルバムのリリース以前には、実際にキング・クリムゾンの名曲「21th Century Schizoid Man」を単発のシングルとしてリリース(ヴォーカルの雰囲気はなぜかフランク・ザッパにそっくりだった・・・)してますが、これは明らかに、これまで海のものとも山のものともつかなかったロックバンド、ブラック・ミディの音楽がプログレに根ざしたものであると決定づけたリリースでした。


前作から実験的にサックス奏者のKaidi Akinnibiをツアーメンバー、レコーディングメンバーとして参加させ、それは前作のオープニングトラック「John L」に象徴されるようにフリー・ジャズの色合いをもたせ、一定の規律を与えるようになっている。今作では、「Cavalcade」でエンジニアを務めたMartha Salogniを抜擢することにより、前作で成功を見たチャレンジ性をより先鋭的に突き進めようという、バンドの意図のようなものも見て取れるかもしれません。


アルバムを全体的に見渡すと、既に海外のメディアのレビューで指摘されているように、速さを感じる作品ではあります。しかし、よく聴くと、「Hellfire」を初め、ミドルテンポの中にスラッシュ・メタル、グラインド・コアのような高速テンポを持つ要素を取り入れているので、実際的には速さを感じるのと同時にどっしりした安定感も随所に感じられる。また、このアルバムで明らかになったのは、このバンドが直近の二作で目指すのは、キング・クリムゾン、そしてYESの代表的な傑作『Close To The Edge』のように変拍子を多用したテクニカルなプログレッシヴ・ロックで、その基本要素の中に、ロック・オペラ、スラッシュメタル、サイケ、フォーク、ジャズ、と、このバンドらしい多種多様な音楽性がエキセントリックに取り入れられている。


さらに、前作で出尽くしたのではないかと思えたアイディア、クリエイティヴィティの引き出しはこの最新作でより敷衍されたように感じられる。ブラック・ミディの三者のクリエイティヴィティが作品の中で溢れ出た作品であり、それがl,これ以上はないくらい洗練された形で提示されている。末恐ろしいことに、彼らの創造性はその片鱗を見せたにすぎないのかもしれません。また、ボーカリストのジョーディー・グリープのヴォーカルスタイルが曲ごとに七変化し、曲のスタイルごとに俳優であるかのように、役柄をくるくる変えてみせるのも興味深い点です。

 

本来、文句をつけたくはないんですが、残念な点を挙げるとするなら、先行シングルの段階で、アルバムの重要曲がほとんど発売前にリリースされていたことでしょうか。これらの強烈なキャラクターを持つ楽曲の印象が強烈なものであったため、実際のアルバムが到着した時、先行シングルほどの鮮烈な印象をもたらすには至らなかった。アルバム到着とともに明らかとなった後半部には、爽やかなボーカルが活かされたジャズに触発された曲が見受けられ、前半部と対称的なメロウな雰囲気を漂わせながら、ラストを飾る「27 Question」ではアヴァンギャルドロックで「地獄の業火」の壮大かつドラマティックな物語はクライマックスを迎える。

 

このアルバムは、バンドの近作の中で最も野心的な部類に入り、また、実際のライブでどのような演奏が行われるのかとファンに期待させるものであると思われます。『Hellfire』は、先行シングルの際、ジョーディー・グリープがプレスリリースを通じて例示していたように、ダンテの『神曲』の地獄編のような幻想的で壮大なストーリーが描かれている。しかし、難点を挙げるなら、演奏力における創造性の高さが発揮されている一方、あまりに間口をひろく設けているため、音楽として核心にある「何か」が見えづらくなっている。最初の印象はかなり鮮烈なアルバムですが、聴くごとに印象が反比例するかのように薄れ、重点がぶれていってしまう。

 

しかし、Black Midiのサードアルバム「Hellfire」の最大の魅力はそのどこに行くか分からない危うさ、定点を置かない流動性にあるとも言える。これから彼等がどこに向かうのか、それは誰にも分からないが、少なくとも、本作は、YESの「Close To The Edge(危機)」、King Crimsonの「In The Court of the Crimson King(キングクリムゾンの宮殿)」に比肩するようなアバンギャルド性、アグレッシブさ、また凄まじい迫力を持った雰囲気のある大作であることは間違いありません。

 

Critical Rating:

 82/100  

 

 

Featured Track 「Hellfire」

 

 



Listen/Stream official:

https://blackmidi.ffm.to/hellfire

 


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