Wu-Lu 「Loggerhead」
Label: Warp Records
Release: 2022 7/8
REVIEW
Wu-Luは、イギリスのクラブミュージックの最前線サウスロンドンを拠点に活動するプロデューサー。
「Loggerhead」をリリースするに際してイギリスのダンス/クラブ・ミュージックの名門レーベルWarp Recordsと契約を交わした。このアーティストは、サウスロンドンのロイル・カーナーと並んで、最注目するべきラッパーである。また、ウー・ルーは、リチャード・D・ジェームス、スクエア・プッシャーに続いてのワープレコーズの大型新人アーティストの台頭といえる。これまでに、Fader,Mojo,Crack,Quietusといった現地のメディアが手放しに絶賛したアーティストである。
このデビューアルバム「Logger Head」は、CD/LP,カセットの三形式で昨日に発売された。先行シングルとしてリリースされていた「South」を初め、いくつかの既発シングルがアルバムの中に収録しなおされている。
「Loggerhead」の制作は、バックバンドのメンバーと共に、ウエストロンドンのパブ、ノルウェーにあるレコーディング・スタジオ「Betty Fjord Clinic」で録音がなされている。レコーディング/マスタリングの段階においては、実際のバンドのジャム・セッションを元にサンプリングを駆使し、音形の断片を繋ぎ、再演奏を繰り返しながら制作が行われている。ウー・ルーがノルウェーからイギリスのロンドンに帰国した際に、この作品は既にほぼ完成間近であったという。
Wu-Luの縦横無尽で奔放なアプローチについては、近年、流行のクロスオーバーというより、ジャンルレスを志向しているような印象を受ける。アルバム全体の一部分だけを捉えると、苛烈な表現もあるが、よく聴き込めば、冷静な一面を垣間見え、全体としてはバランスの良い作品に仕上がっている。
ジャケットのアートワークに示されるように、このプロデューサーの不安、罪悪感がテーマに掲げられ、その概念を元に、このプロデューサーの多面性が性質が音楽を通じてひときわクールに表現されている。ここには、ウー・ルーというアーティストの外交的な人柄が垣間みえたかと思えば、その正反対の内省的な一面が、曲の流れの中、入れ替わり立ち替わり姿を現すように感じられる。この多面性のようなものが「Logger Head」の大きな魅力といえるのかもしれない。
このアルバム『Loggerhead』はきわめて多彩な音楽性が繰り広げられる。ハイライトのひとつとなるLex Amor(ノースロンドンの女性ラッパー)をゲストボーカルに迎えた「South」では、ギターのローファイなサンプリングを元にし、ヒップホップ、グランジを融合させたアヴァンギャルド・ラップの領域に踏み入れる。さらに、アルバム発売の告知に合わせて最初の先行シングルとして発表された「Blame」では、ドリルンベースとロンドンの多彩なヒップホップを巧みに融合した実験的なサウンドを提示している。また、その他にも、現代的なダブ・サウンドをヒップホップに組み入れた「Ten」も収録されている。これらは、このアルバムの世界観を形作る一部にとどまるが、このアーティストの内面性を様々な音楽を介して取りまとめたようにも思える。
このアルバムの中で、もうひとつ注目しておきたいのが、サウスロンドンのクラブシーンの最前線を行くサウンドが示されている「Slightly」となる。ローファイ、ヒップホップ、アシッド・ハウスを組み合わせたこの曲で、ウー・ルーはプロデューサーとしての類い稀なる才覚を示している。ギターの演奏をサンプリングし、スライスし、リズムトラックと掛け合わせて、断片的なスクラッチサウンドをループさせることで、実にきわどいグルーブ感を生み出している。ウー・ルーは、この秀逸な楽曲において、グライム、ガラッジ、ベースライン、その他、様々なサウスロンドンのクラブシーンの系譜にあるリズム性を組み入れた音楽をクールに提示しているのが見事だ。
95/100
Featured Track 「South」
Warp Records Official Store :
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