Gently Tender 「Take Hold of Your Promise!」
Label: So Young Records
Release: 2022年8月26日
Review
Gently Tenderは、元Palma Violets、The Big Moon 等のメンバーで結成された5人組バンドで、今作「Take Hold Of You Promise!」は、So Young Magazineが主宰するSo Young Recordsからの記念すべきデビュー作となります。
この最初のシングル公開時に、アルバムのテーマについて、ヴォーカリストのSam Fryerは以下のように話している。
この曲は、最初のロックダウン時に書かれました。多くの人々と同じように、私はパンデミック以前の私たちの存在の一体感を何時間もかけて考えていました。パンデミックによって閉じられただけでなく、今は空っぽのスペース、特に音楽会場のことをよく考えていたんだ。だからこの曲は、そういった場所へのちょっとした哀悼の意を込めたんだ。
これらの言葉に表れているとおり、このアルバムは独特な空虚感を擁するインディーロックの作風となっていますが、そこにはパンデミック以前の世界、人々が一体感を持って暮らしていた時代への恋焦がれのようなものもほのかに残映している。ジェントリー・テンダーの音楽は、ゆったりとしたテンポで繰り広げられ、ロックの他にも、フォーク、ソウル、さらにミュージカルのような音楽性も取り入れられている。その他にも、サビのコーラスでは、ソウルよりさらに古いゴスペル的な影響をうかがわせる場合もあり、5人組の幅広い音楽性が様々なアプローチを交えながら繰り広げられています。
常にアルバムの楽曲は、まったりしていて、サム・フライヤーのボーカルは節がきいていて、迫力があるだけでなく、ほのかな哀愁が漂っている。音程(Pitch)が不安定でよれているのは、意図してのことなのかそうではないのかはわかりませんが、これらのボーカルも、上記の彼の言葉にあるように空虚な時代性、1980年代のモリッシーの時代のようなニヒリズムをあらわしているようにも思え、それらのUKのバンドらしい、哀愁、メランコリアを十分堪能することが出来るでしょう。
アルバムの中で着目すべき楽曲は、「True Colours」が挙げられます。ここで、ジェントリーテンダーはスミスのモリッシーを彷彿とさせるような渋く、哀愁の漂うミドルテンポのアンセムソングを生み出している。 ここで、サム・フライヤーはじめ、バンドは1980年代終わりのブリット・ポップ誕生前夜のノスタルジアへ踏み入れており、スミスの「Hand in Glove」を始めとするダブに親しい雰囲気を持つマンチェスター・サウンドの影響が色濃いように思える。
その他にも、ゴスペル風のコーラスを込めた「This is My Night of Compassion」、「The God Didn't Leave The Factory」を始めとするバンドの明るい気風を歌おうという姿勢は、イギリスの政治に対する現実的な社会の空虚感に対する平和的な牧歌(フォーク)とも読み取れる。彼らのスタンスは常に現実的な混沌に対し、穏やかなフォークで対抗しようと試みているのかも知れません。
このアルバムは、イギリス国内に登場した気鋭のインディーロックバンドの個性を対外的に示しています。ただ、ひとつ気になるのは、サビのコーラスのリズムが一本調子であるため、単調な曲が続いているような印象を僅かに受けます。この辺りのリズムにおけるヴァリエーションが加われば、バンドとして更に心強くなるだろうと思われます。しかし、少なくとも、何かしら非凡な才質を秘めたバンドであることに疑いはありません。この独特なマンチェスターサウンドの系譜にあるバンドサウンドが、今後、どのように様変わりし、大きく成長していくかに期待していきたいところです。
78/100
Featured Track 「True Colours」