Hot Chip 「Freakout/Release」
Label: Domino
Release: 2022年8月19日
UK,ロンドンのエレクトロ・ポップバンド、Hot Chipの先週の金曜にリリースされた最新アルバム「Freakout/Release」は、心楽しいテクノ/ファンク/R&Bサウンドが軽妙かつノリノリに展開されている。
ニューヨークのLCDサウンド・システムとの比較もなされる、これまで良質なリリースをつづけてきたこのバンドは今作においてもやることは何ら変わりはない。ダンサンブルなポップス、軽快なテクノチューンによってフロアシーンを熱くするようなサウンドを繰り広げている。
オープニングを飾る「Down」で、ホット・チップはディスコやR&B調のサウンドスタイルを取り入れ、そこにヒップホップ的なループスタイルを作り上げている。ここでは、ソウルミュージックへのコアな興味が示されており、同国のソウルデュオ・Jungleに近いスタンスが採られている。彼らは、常にフロアにいるオーディエンスを踊らせることを念頭において曲を生み出しているものと思われるが、このトラックでこのバンドを知らないリスナーの心をしっかり鷲掴みにしてみせる。
他にも、LCDサウンド・システムのように、デトロイト・テクノに触発されたシンプルでありながらエネルギーに満ちたダンサンブルなビートが軽快に展開されているが、タイトルトラック「Freakout/Release」ではボコーダーを使用し、往年のクラフトワークのようなロボット風のテクノにも挑戦している。ホット・チップの楽曲は、最初期のカサビアンのようなパンチを持ち合わせており、オーディエンスを熱狂に導くようなパワー、そしてビートを与える強いグルーブ感を持ち合わせているため、これらのサウンドは自宅でのリスニングに最適なだけではなく、実際のライブパフォーマンスでも彼らのサウンドを聴いてみたいと思わせるものがあるはずだ。
特に、Hot Chipはそれらのダンサンブルな性格だけでなく、良質なメロディーセンスを持ち合わせている。「Broken」では、ソフト・ロック風の爽やかなポップスに挑戦しているが、これらは大人な味わいを漂わせており、実に通好みのトラックと言える。 さらには「No Alone」や「Time」では、Tychoを思わせるようなモダンテクノサウンドにもチャレンジしている。これらは、純粋なエレクトロ/テクノサウンドにとどまらず、軽快なポップスとの融合を果たし、次世代のUKエレクトロが生み出されている。これらの楽曲には、軽妙さを損なわせない、しなるようなビート感が存在する。ビートを与えるだけではなく、聞き入られせる魅力を併せ持っている。
さらに、ラストトラック「Out Of My Depth」では、他の曲とは性格の異なる古き良きUKポップスを彷彿とさせるバラードソングでこのアルバムは幕引きを迎える。淑やかなストリングスアレンジが込められた映画のサウンドトラックのようなトラックではあるものの、しかし、単なるポップス/バラードと侮ることはできない、ここには、やはりホット・チップらしい新旧のテクノミュージックに対するリスペクトが込められているのである。
『Freakout/Release』は、実のところ、私にとって最初のホット・チップの刺激的なリスニング体験となった。本作は、表向きのバンドのイメージよりも大きな価値を持つアルバムといえる。大衆性とこのバンドのテクノに対する深いリスペクトが偏在する一作ではあるものの、決してそれは軽薄なポピュリズムに堕しているというわけではない。信じられないことに、ホット・チップのメンバーは、それらの軽妙でチープな雰囲気を、あえて演出してさえいるのかもしれない。これは無類のテクノ・フリークが生み出したエレクトロポップの快作と呼べる。
84/100
Featured Track 「Freakout/Release」