New Album Review Pale Waves 「Unwanted」

  Pale Waves  「Unwanted」

 



Label:  Dirty Hit

Release:  2022年 8月12日


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Review


イギリスで現在、最も注目されているインディペンデントレーベル”Dirty Hit”からリリースされたペール・ウェイヴスのサード・アルバム「Unwanted」は、ジャケットの暗鬱でゴシックな雰囲気とは正反対の軽やかで爽快なポップパンクの雰囲気に彩られています。Zack  Carviniの迎えて制作されたことからも分かる通り、このアルバムは軽やかなポップパンクに彩られた痛快な作品となっています。

 

ペール・ウェイヴスのフロントパーソンでありボーカリストであるバロン・グレイシーは、このアルバムの『Jealous』において、女性の嫉妬というテーマを掲げてはいるが、それはむしろ爽快な形のポップパンクソングとして昇華されている。スタジアムのアリーナでぜひとも聴きたくるような、また、観客として歌詞を歌いたくなるような、キャッチーでアンセミックなソングがこのアルバム、ペール・ウェイヴスの音楽性の核心にはある。オープニングの『Lies』、さらにはタイトルトラック「Unwanted」で、このペール・ウェイヴスの心地よく、耳障りの良いポップアンセムの虜になってしまうことは確実でしょう。不思議なことに、このバンドは、リスナーを自分たちのフィールドに引き込むカリスマ性のようなものを持ち合わせているのです。

 

元々、個性的なキャラクターを持つペール・ウェイヴスは、イギリス国内を中心にクイアのファンベースを獲得することに成功しています。それはこのバンドのドラマー、シアラ・ドランがクイアであるという理由によるものかもしれない。少し前、性別の転換手術を受けたというドラマーのシアラ・ドランの演奏は、このバンドのキャラクターとなり、楽曲に力強さをもたらしている。シアラ・ドランのクールな演奏はきっとクイアの人々を元気づける力を持っている。

 

このアルバム『Unwanted』において、シンガーのバロン・グレイシーは、嫉妬をはじめとする様々な人間の感情を通して、アイデンティティを探しもとめ、自己受容の過程を捉えようとしている。それらの表現は純粋な眼差しにより捉えられているため、聞き手にも同じような自己受容の力を与える。バロン・グレイシーとバンドメンバーは、それらの感情表現において多くの人が楽しめる形を見出し、力強いポップパンクとして昇華している。これが、アリーナでも熱狂の渦を巻き起こすパワフルな楽曲として体現されています。ペール・ウェイヴスに夢中になる若者は、この曲に共に参加し、シンガロングしたい、という欲求にかられるに違いないでしょう。

 

このバンドの生み出す表現はどこまでも純粋なものが貫かれています。ポピュラー音楽の使命とは、聞き手に肯定感を与えることに尽きる、という話を聞いたことがありますが、それを飾らない形で体現されているのが「Unwanted」といえそう。アヴリル・ラヴィーンを彷彿とさせるバロン・グレイシーの歌声を中心に、バンドメンバーがその歌声を後ろから支えることにより、練度の高いバンドサウンドが生み出されています。「Alone」「Clean」に象徴されるように、アートワークからは想像できない、むしろ、そのファーストイメージを覆すことを想定したかのような明るくパンチの聴いたひねりのないポップパンクソングが、アルバムの一番の聞き所といえるでしょうか。他方、それと対極にある繊細で内向的なバラード・ソング「The Hard Way」「Witout You」も聞き逃すことは出来ない。アルバムは、全体的にこれらの外交的な側面と内省的な側面がバランスよく混交されることにより、相応に聴き応えのあるものになっています。

 

このバンドのフロントパーソンであるバロン・グレイシーは、ダーティー・ヒットのプロデュースの手法について、「それほどバンドの音楽に干渉することなく、常にバンドの考えを尊重してくれている」という趣旨を話してますが、のびのびとした気風がこのサードアルバムは反映されている。メンバーは自由に演奏しており、楽曲としても伸びやかな表現性が繰り広げられています。

 

『Unwanted』は、いかにもダーティ・ヒットからのリリースらしい作品で、ポピュラリティを前面に打ち出しているものの、それは必ずしも安っぽいものではなく、その核心には大衆を惹きつけるパワーが込められていて、多くの共感を誘うものとなっています。さらに各々の楽曲は、パワフルで鮮烈なエネルギーを放つように感じられる。新時代を行くポップ・パンクのアンセムソングをリスナーは、この新作アルバムで、十分に、いや、十二分に堪能できるはずです。

 

Rating:

76/100

 

 

Featured Track 「Clean」