The Chats 『Get F××××d』
Label:Bargain Bin
Release: 2022年8月19日
Review
Josh Price,、Matt Boggis、Eamon Sandwithによって St. Teresa's Catholic Collegeのミュージッククラスで結成されたThe Chatsは2016年に結成されたパンクロックバンドである。彼らは自分たちの音楽を説明する上で、「Shed Rock」というジャンルを掲げ活動している。
The Chatsのオールドスクール・パンクロックは、表面上では、ワシントンDCの”Discord”の最初期のバンド、Teen Idlesのように、若さにまかせてドドドドッと突っ走るような泥臭いロックンロールスタイルである。他にも、UKの1970年代にBBCのジョン・ピールが入れ込んだパンクロックバンドのような初期衝動性を持ち合わせた、実にドライブ感のあるパンクがこのトリオの音楽の下地にはあるようにも感じられる。彼らの音楽をやる上での動機というのは、ただ単に自分たちが気持ちのよい音楽を奏でることに違いない。自分が最大限に楽しむこと、他方、不思議なことに、それは無数のオーディエンスの気分をよくさせるものにもなるのだ。
聴けばわかる通り、Teen Idlesのような新鮮で疾走感のある痛快きわまりないパンクロックソングがこのアルバムには一貫して収録されている。
しかし、US、UKのパンクバンドと明らかに異なるのは、ザ・チャッツのパンクロックソングには、オーストラリアのロックの伝統的なブルースの要素、古いブギースタイルの影響が奥底に眠っているということである。
実際、トリオの音楽は、Discordを始めとするアップテンポのオールドスクール・ハードコア、UKのオリジナルパンク、それから、Oiパンクの影響を感じさせるが、彼らは、オーストラリアからイギリスに拠点を移して成功を収めたAC/DC、ガンズ・アンド・ローゼズの最初期の音楽性にインスピレーションをもたらしたRose Tatooといったオーストラリアのロックンロールバンドを影響が色濃い、と説明している。つまり、ザ・チャッツのパンクロックは、パンクロックが下地になっているわけではなく、上記の2つのバンドのようなブルースの影響を色濃く反映したブギースタイルのテンポを極限まで早めた音楽と形容することが出来るのかもしれない。そして、またオーストラリアのロックバンドらしく、からりとしたていて、陽気で、すこぶるご機嫌な雰囲気がアルバム全編には漂っている。
個々の楽曲について、くだくだしく説明することほど無粋なことはない。難しい言葉を使わず、難しいことを表現するのがパンクロックの本義であるのだ。チャッツは「6L GTR」にはじまり、クロージングトラックの「Getting Better」に至るまで、ソリッドなロックンロールを頑固一徹に押し通す。そして、オーストラリアのトリオは、あっというまに過ぎ去ってしまうこれらの十三曲のパンクロックソングを通じ、言葉を極限まで削ぎ落とし、洗練させ、そこに鳴っている音を、純粋に心から楽しむことの重要性を示唆してみせている。
このアルバムは、仕事の後、ふらっとスタジオに入り、ビールを飲みながら、パンク・ロックを気楽に奏でた音をそのまま録音したような愉快さ。レコーディングの音は作り込まれておらず、一発録りに近いラフさがある。それがゆえ、アルバム『Get Fucked』はライブ感、ドライブ感に溢れている。ザ・チャッツの音楽は、「難しいことを考えず、音を心から楽しみ、踊れ」と物語っているように思える。それはまたパンクロック/ロックンロールの重要な本質とも言える。
72/100