シェフィールドのロックバンド、アークティック・モンキーズは、UKロックを代表する『Whatever People Say I Am, That's What I'm Not』の先行シングル「I Bet You Look Good On The Dancefloor」の大ヒットにより、2000年代初頭にメインスターダムに躍り出た。さらに快進撃は続き、2ndアルバム「Favorite Nightmare」で彼らは完全に世界を収めることに成功した。以来、アークティック・モンキーズは、多くの同世代のどのインディーズバンドよりも長い活躍をし、2022年現在もUKシーンで最も尊敬されるトップランナーであり続けている。
「The Car」の先行曲として8月の発表された「There'd Better Be A Mirrorball」聴くかぎりでは、Arctic Monkeysの今度のスタジオワークは、これまでで最も新奇なものになりそうな予感もある。
アルバム「The Car」は、The Beatles,Led Zeppelinのように、往年のヴィンテージのレコーディングスタイルにヒントを得たという趣旨をアレックス・ターナーは語っている。これはうろ覚えではあるが、かつてZEPが、『Led Zeppelin Ⅳ』の時代に、イングランドの田舎地方の屋敷を借り切り、そこに拠点を置き、レコーディングを行ったことを示唆していると思われる。
フロントマンのアレックス・ターナーの言葉にある通り、最新シングル「There'd Better Be A Mirrorball」は、「AM」に近いゴージャスなスタイルが取り入れられながらも、より古い音楽への原点回帰を感じさせる。豪華なストリングス・アレンジ、カクテル・ジャズ風のドラム、そしてアナログのテープループが古き良き時代のグラマラスな雰囲気を醸し出している。しかし、既存のアークティック・モンキーズ作品とは少し趣が異なることを、熱心なファンはきっとお気づきになられただろう。指摘をしておくと、アレックス・ターナーが2011年に発表したロマンティックな映画のオリジナル・スコア「Submarine」の方向性、そして、さらに、バンドの2013年のアルバム「AM」をダイナミックに融合したような作風となる可能性がきわめて高い。
さて、今回、spotify上で公開されたアレックス・ターナーが選りすぐりの曲を集めたプレイリストは、アークティック・モンキーズの次回作「The Cars」の音楽性を計る上で重要な手がかりになるかもしれない。このプレイリストには60-70年代の名曲が中心に取り上げられている。
最初の曲として選出されたレナード・コーエンの「Is This What You Wanted」は、実は、2016年にアレックスと彼のラスト・シャドウ・パペッツのバンドメイト、マイルズ・ケインがカバーしていることでも知られる。コーエンのアルバム『New Skin For Old Ceremony』に収録されたこの曲は、シャーリー・ジャクソンの小説のような心理的複雑さで煮えたぎっている。ーーこれが、あなたが望んだことなのか?ーーレナード・コーエンは、女性バック・ヴォーカルに包まれ、さらにーー私とあなたの幽霊が取り憑いた家に住むことーーとミステリアスに歌っている。
さらに、マーヴィン・ゲイの「I Want You」で、近年のアークティック・モンキーズの作品のR&B寄りの指向性が顕著に伺える。その他、モッズシーンの象徴的な存在、ポール・ウェラー率いるスタイル・カウンシルの「It Did't Matter」も通好みのかなり渋いセレクションと言える。
また、ターナーは、フランスの名作曲家/プロデューサー、ゲンスブールの官能的な雰囲気に包まれたアルバム『Magnificat L'histoire de Melody Nelson』も、このプレイリストの中に選んでいる。フレンチ・ポップの立役者であるゲンスブールが手がけた『L'histoire』は、史上最も陶酔的なカルトアルバム、マスタークラスである。ギター、ドラム、ベース、ボーカル、ストリングス、すべてのレコーディングが完璧に洗練されている。特に、「l'hotel particulier」でのジャン=クロード・ヴァニエのストリングス・アレンジは、これ以上ないほど見事なものである。
プレイリストの最後のトラックとして、アレックス・ターナーは、Wu-Tang Clanの「I Can't Go To Sleep」は、Isaac Hayesの「Walk On By」のようなオーケストラ・アレンジを選出している。これまた、次作アルバム「The Car」の音楽性を知るための重要な手がかりになる。
Alex Turner Playlist Selection :
- ‘Is This What You Wanted’ – Leonard Cohen
- ‘I Want You’ Marvin Gaye
- ‘The Hurt’ – Yusuf
- ‘L’hôtel particulier’ – Serge Gainsbourg
- ‘Ain’t Had No Lovin” – Connie Smith
- ‘In my Room’ – Nancy Sinatra
- ‘It Didn’t Matter’ – Style Council
- ‘Main Title’ – John Carpenter
- ‘New England Crows’ – Hamilton Leithauser
- ‘This Is Your Life’ – Glaxo Babies
- ‘Waiting for an Inivtiation’ – Benji Hughes
- ‘I Can’t Go To Sleep’ – Wu-Tang Clan