F.S Blumm 「Kiss Dance Kiss」
Label: blummrec
Release: 2022年9月16日
Review
ドイツ国内のダンスミュージックシーンで異彩を放つF.S Blummは、Nils Frahmとともにベルリンの芸術集団に属していることでも知られる。
F.S.ブラームは、この最新作「Kiss Dance Kiss」で、ダブ、レゲエ、エレクトロと多彩な音楽性に挑戦を試みています。2000年代、元来、王道のエレクトロニカに近い作風のアルバムを制作していましたが、2021年のニルスフラームとのコラボレーションアルバム「2×1=4」のリリースを契機にレゲエ/ダブへ傾倒を見せるようになっていった。このアルバムが何らかの触発、インスピレーションをこのアーティストに与えたことはさほど想像に難くはない。
F.S.ブラームのDUBのアプローチは、アンディ・ストット、ダムダイク・ステアといった、現代のマンチェスターのダブステップ勢とは明らかに趣を異にしており、リー・スクラッチ・ペリーの古典的なレゲエの要素を多分に包含している。その点は、この最新作「Kiss Dance Kiss」でも変わらず、ドラムのスネア/ハイハットにディープなディレイ・エフェクトを加え、その素材をループさせることにより、サンプリング的な手法で重層的なグルーブを生み出していく。
つまり、上記したようなF.S.ブラームのダブの手法は、本人は意図していないかもしれないが、どちらかといえば、ヒップホップの最初期のDJのサンプリングに近い技法となっている。一見、それは古びているように思えるかもしれないが、このアーティストは、ラップに近い手法に、ラテン、カリブ音楽に近い性格を卒なく込めているため、そのアプローチは、かなり先鋭的な気風が漂う。ブラームは、トラックメイク/マスタリングにおいて、ディレイを駆使し、前衛的なリズム/グルーブを生み出している。本作は、レゲエ・ファン/ダブ・ファンを納得させる作品となるに違いない。
最新アルバム 「Kiss Dance Kiss」は、レゲエ、ダブ、スカ、ダンス・ミュージックの本来の楽しさを多角的に追究している。前作EP『Christoper Robin』において、リゾート感を演出した、というF.S.ブラームの言葉は今作のテーマにも引き継がれている。ここでも、彼が言ったように、リゾート地の温かなビーチの夕暮れどき、海の彼方を帆船が往航する様子を眺めるような、何とも優雅な雰囲気が醸し出されているのだ。
オープニング・トラック「Kauz」は、近年のマンチェスターのエレクトロに近いアプローチが取り入れられている。名プロデューサー、リー・スクラッチ・ペリーのダビングの手法を最大限にリスペクトした上で、クラウト・ロック、インダストリアルの雰囲気を加味し、スカに近い裏拍を生かしたエレクトロ・トラックを生み出している。
古典的なジャマイカのレゲエサウンドに依拠した2ndトラック「Ginth」は、近年のブラームの作風に実験性が加味され、ほかにも、ギターロックの影響がほのかに垣間見える。「Zinc」は、ジャムセッションの形をとったフリースタイルの楽曲で、オルガン、ギター、ドラムのアンサンブルを介してモダン・ジャズ的な方向性を探究している。
「Mage」において、F.S.ブラームは、トーキング・ヘッズの傑作「Remain In Light」で見られたようなイーノのミニマルミュージックの手法を取り入れ、ダンサンブルなロックに挑む。「Nimbb」は、現代的なエレクトロニカの雰囲気を演出しており、ここで、ブラームは、Native Insturument社のReaktorに近いモジュラーシンセを取り入れつつ、実験的なエレクトロを生み出している。
「Mioa」は、「Zinc」に近い、ジャズセッションの形を取ったトラックで、Tortoiseのように巧みなアンサンブルを披露している。反復フレーズを駆使したギター、しなるようなベース、シンプルなドラムとの絶妙な兼ね合いから生み出される心地よいグルーブ感を心ゆくまで堪能することが出来る。
「Nout Vision」ー「Nout」は、前作のEPの続編のような意義を持つ楽曲で、一対のヴァリエーショントラックとなっている。ジミー・クリフの精神性を彷彿とさせる古典的なレゲエ・サウンドを、モダン・エレクトロの側面から再解釈しようとしている。ここでは感覚の鋭いダブサウンドとトロピカルな雰囲気が絶妙に融合されている。
さらに、フィナーレを飾る最後の収録曲「My Idea Of Anarchy」ではシカゴのSea And Cakeを彷彿とさせる「Nout Vision」のボーカルバージョンが収録されている。おしゃれで、くつろいだ簡素なジャズ・ロックは、上記のインスト曲と聴き比べても楽しい。
最近、F.S.ブラームはインスト曲にこだわらず、ボーカルトラックにも挑戦するようになっていますが、ボーカルは適度に力が抜けており、心地良さが感じられる。このラスト・トラックを聴き終えた後には、リゾート地に観光した時のように、おだやかで、まったりとした余韻に浸れるはずです。
84/100
Featured Track 「KAUZ」