Beth Orton 『Weather Alive』
Label: Partisan Records
Release: 2022/9/23
Review
ベス・ オートンの新作アルバム『Weather Alive』は実をいうと、先週リリースされた中で注目すべき良盤と言える。ベス・オートンは、トリップ・ホップ、フォークトロニカの始祖と見なされる場合があるようだが、この作品では、ブリストルサウンドの妙味を受け継ぎ、それを淑やかな聴き応え十分のアルバムとして仕上げている。
このアルバムを解題する上で大変重要となってくるのが、ベス・オートンがカムデン・マーケットで実際に購入したという、古ぼけたピアノだ。ベス・オートンは、このアルバムの殆どの曲で、この古ぼけたピアノをトラックメイクに導入している。オートンのボーカルは、まさにブリストルサウンドを受け継いでおり、悲哀と暗鬱さ、そしてアンニュイな雰囲気に満ちている。この独特な艷やかなボーカルは、他のどのアーティストにも醸しだしえない作風となっている。
アルバムの収録曲は、ーーポップス、ジャズ、フォーク、ヒップ・ホップーートリップ・ホップの主要な音楽性を綿密にかけ合わせたものとなっている。ムーディーな曲風に乗せられるオートンのヴォーカルは、トム・ヨークのスタイルに類しており、外側の世界を押し広げていくというよりか、 内面の世界を歌をうたうたびに徐々に掘り進めていくかのようでもある。ベス・オートンのボーカルは、夜更けの口笛のような悲哀性と孤独性を兼ね備え、内的感情を絞りだすような質感がある。この作品は、抽象的かつ感覚的な音楽が展開されていくが、全く不安定ではなくて、何かしらどっしりした安定感すら感じられるのに驚くばかりだ。それはきっと、このソングライターの曲作りにおける精度の高さが作品そのものに反映されているからなのだ。
先述したように、このアルバムには、ホーンセクションやマレットの豊潤なアレンジとピアノのシンプルではありながら情感あふれるアレンジが導入されているが、オートンはヒップホップ/ローファイ風のサンプリングを活用し、ポーティス・ヘッドやビョークの全盛期を彷彿とさせる質の高い楽曲として昇華している。オートンのソングライティングの印象は、ポピュラーミュージックを志向していると思われるが、その中にも、様々な要素が込められており、ファンク、R&B,ジャズ、フォーク、と、UK・ポップスらしい多様性を味わえる。ジェイムス・ブレイクのようなクールな雰囲気を持ち合わせる「Forever Young」は、このアルバムのハイライトと言えるだろうか。
今作は、ホーンのスウィープ、ピアノのシンプルな旋律進行、オートンの内省的でソウルフルなボーカルが絶妙にマッチしたアルバムとなっている。トリップポップの初心者にとっても最適な入門編となるだろう。
85/100
Featured Track 「Forever Song」