New Album Review Rina Sawayama 『Hold The Girl』

 Rina Sawayama  『Hold The Girl』

 

 

Label:  Dirty Hit

Release : 2022年9月16日



 

Review


アルバムのアートワークにかこつけて言うと、ロンドン在住のシンガー、リナ・サワヤマは、このセカンド・アルバム「Hold The Girl」において誰も予想しなかったような劇的な進化を遂げている。この二作目で、リナ・サワヤマはデビュー・アルバム「Rina」におけるハイパーポップ性を引き継いだ上で、センセーショナルな曲を複数書き上げたのです。

 

リナ・サワヤマは、世界のポップ・アイコンになることを目指し、このアルバムのレコーディングに取り掛かり、そして苦心をし、最終的に、その完成形を生み出した。それはアリーナ級のポップ/ロックソング、刺激的なバラード、さらにフォーク、他にもエレクトロと多岐に渡るアプローチがこの作品には取り入れられています。これまでに存在しえなかった独自流のスタイルを模索しつつ、これまでに存在したポップソングの形式を、どのように現代風にエディットしていくのか、このアルバムには、このアーティストの苦心の跡がはっきりと伺えます。そういった新たなスタイルに取り組もうとするチャレンジ精神は大いに称賛されるべきであり、この作品自体も、2020年代の「最新鋭のハイパーポップ・アルバム」と好意的に受け入れられるべきでしょう。

 

このアルバム「Hold The Girl」に収録された楽曲は、軒並みエンターテインメント性が高く、現実の苦難を忘れさせるような、陶然とした雰囲気に包まれています。一方で、そのエンターテインメント性、享楽性が長く持続するのかまでは、現時点で言及することは難しいように感じられる。それはなぜかといえば、楽曲の旋律進行、フレージングに、僅かに既視感があるという理由です。

 

しかし、一作品としては問答無用に素晴らしい。リリース告知の最初期に発表されたタイトルトラック「Hold The Girl」はもちろんのこと、他の先行シングル「Catch Me in The Air」、「Phantom」、「Hurricanes」といったポップアンセムは、アルバム全体にダイナミックな効果を及ぼし、実際のボーカルにも強烈な自負心が宿っている。これは、デビュー作からおよそ5年の歳月をかけて、自分の姿を成長させていったこのアーティストの足跡がこれらのトラックに反映されたと言えるでしょう。

 

さらに、リナ・サワヤマは、現代ポピュラーアーティストのボーカルスタイルを基調としつつ、平成時代のJ-POPの"エイベックス・サウンド"をハイパー・ポップやニュー・メタルの中にさり気なく取り入れようとしている雰囲気が伺える。おそらく、リナ・サワヤマは、『Hold The Girl』で、無意識的であるにせよ、意識的であるにせよ、自身の日本の音楽のポピュラーミュージックの奥深いルーツを探りたかった、言い換えれば、自己のルーツのようなものを音楽を介して探し求めようというのかもしれません。ヨーロッパ社会でアジア人として勇敢に生き抜くこと、そのことをふと考えた時に、「ホールド・ザ・ガール」/ーー自己を抱きしめるーー」という素晴らしい主題が、実際の音楽から明瞭に浮かび上がってくるような気がするのです。

 

作品自体の完成度はずば抜けて高く、収録曲の配置も完璧。シンガーとしての歌唱力についても強烈な迫力が込められており、申し分のないものとなっている。さらに、現代のハイパー・ポップ隆盛の時代の音楽としても聴き応えがある。メロ、サビの構成も、日本のポピュラー・ミュージックに近いため、普段、邦楽しか聴かないリスナーにとっても心に響く作品になると思われます。

 

 

92/100

 

 

Featured Track 「Hurricanes」