Frankie Cosmos 「Inner World Peace」
Label: Sub Pop
Release: 2022年10月21日
Review
NYを拠点とするインディーロックバンド、フランキー・コスモスは、同時代を生きる多数のバンド、アーティストと同様、パンデミックの難局に直面した。この間、フロントパーソンのグレタ・クラインは、家族と暮らしながら曲を書き溜めていた。その後、他のバンドメンバーと合流し、およそ500日ぶりに出会い、書き溜めたデモを何らかの形にしようと試みました。NYのFigure 8 Recordingで、フランキー・コスモスは、Nate Mendelsohn,Katie Von Schleicherというプロデューサーの助けを借り、『Inner World Peace』の制作に取り掛かったのです。
グレタ・クラインはこのアルバム『Innner World Peace』について、「私にとって、このアルバムは知覚について表すものです。 私はだれかという疑問、その答えが重要なのかどうかといこと。量子的な時間、目に見えない世界の可能性について、このアルバムは、新しい文脈の中で浮遊する自分自身を発見するためのものです」とプレスリリースを通じて説明しています。つまり、この言葉から、このアルバムは、以前、4ADからデビューした米国のインディーロックバンド、Throwing Musesのような可愛らしさのあるインディーロックのアプローチが取り入れられながら、いくらかそこには内的な空間の神秘性に詩や音楽を通じて迫るような意図が込められているわけです。つまり、フランキー・コスモスは、素朴な質感をもった親しみやすいオルトロックを通じて、内的な世界の平和を描き出そうと試みているようにも感じられるのです。
今回のアルバムの制作時には、カプコンの格闘ゲーム『ストリート・ファイター』の「K.O」の画面のキャプチャ、そして、Mad Magazineの表紙がバンドが制作を始めるにあたって作った巨大スライドに映し出されていたとプレスリリースには書かれている。これは、バンドから提示されたあらかじめの設計図であり、それらの一見何ら関係のないように思われるシュールなコンセプトの融合は、しかし、『Inner World Peace」の全編に通じている要素でもあるわけです。
本作には15曲というボリュームを擁する曲数が収録されていますが、決して飽きさせるような長さではありません。グレタ・クラインが持ち込んだデモ曲を、実にバンドは見事な形でアンサンブルとして昇華させ、二人のプロデューサーはそれらを秀逸なインディーロック/パンクソングとして仕立てています。それらは、オーストラリアのThe Bethにも近い雰囲気を持ち、バンドが強い影響に挙げる1960年代のポップス、サイケの色合いを持ったかなり奥深い世界がこのアルバムには満ち広がっている。それは表面的なファニーな印象とは裏腹に、行けども行けどもたどり着くことのない、無限のオルタナティヴ・ワールドに足を踏み入れるようにも思える。
これらの収録曲は、中学生からの同級生であるというグレタ・クラインとマーティンのボーカルの絶妙な兼ね合い、そして、ハモンド・オルガンやシンセサイザーを活かしたノスタルジックなインディーロック/ポップソングの要素が前面に押し出されており、それらは先述したようにいくらかのサイケデリックな色合いを擁する。
しかし、これらの音楽は、耳の肥えたリスナーの興味を惹きつけるだけにとどまらず、より幅広い一般的なリスナーの心に共鳴する普遍性が込められています。それは、フランキー・コスモスが、これらのサウンドの中に内的な平和というテーマを掲げ、それが懐かしく、温かな雰囲気のあるインディーロックとして昇華されているからなのです。もちろん、彼らは内的な平和こそ最も尊い概念であると知っているのです。なぜならそれは明日の平和を生み出すに至るのだから。
量子学においては、内的な世界は必ず外的な世界とどこかでリンクします。内的な争いは外側の争いを別の場所で生む。その逆も然り。フランキー・コスモスの最新作『Inner World Peace』は、それらの物理学の根本的な真実を物語るのみならず、この世を照らす温和な明るい光でもある。
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Featured Track 『F.O,O.F』