Label: Warp
Release: 2022 9/30
Review
近年、クラークは、イギリスからドイツに移住し、昨年には、クラシックの名門レーベル、ドイツ・グラモフォンと契約を交わし、モダン・クラシカルの領域を劇的に切り開いた、最新アルバム「Playground In A Ground」をリリースしています。また、その他にも、ポピュラー・ミュージックとも関わりを持ち始めており、ニューヨークの人気シンガーソングライター、Mitskiとのコラボレーション・シングル「Love Me More」のリミックスを手掛けたり、と最近は、電子音楽にとどまらず、多岐に亘るジャンルへのクロスオーバーに挑戦しています。Clarkは、いよいよ、Aphex TwinとSquarepusherとの双璧をなすテクノの重鎮/ワープ・レコーズの看板アーティストという旧来のイメージを脱却し、新たなアーティストに進化しつつあるように思える。
クラークのデビューから十数年にも及ぶバック・カタログの中で最も傑出しているのが、2008年のハード・テクノの名盤『Turning Dragon』、そして、デビュー作としてダンスフロアシーンに鮮烈な印象をもたらした「Body Riddle」である。おそらく、このことに異論を唱えるファンはそれほど少なくないだろうと推察されるが、特に、前者の「Turning Dragon」は、ゴアトランスの領域を開拓した名作であり、クラーク、ひいてはテクノ音楽の真髄を知るためには欠かすことのできないマスターピースといえますが、そして、もう一つ、後者の「Body Riddle」もクラークのバックカタログの中で聴き逃がせないテクノの隠れた傑作の1つに挙げられる。
そして、今年、遂に、「Body Riddle」 が未発表曲と合わせて、ワープ・レコーズからリマスター盤として9月30日に再発された。これは、クラークのファン、及び、テクノのファンは感涙ものの再発となる。この再発に合わせて、同レーベルから発売されたのが「05−10」となる。こちらの方は、クラーク自身が監修をし、未発表曲やレア・トラックを集めたアルバムとなっています。
最近では、ハードテクノ、ゴアトランスのアプローチから一定の距離を置き、どちらかと言えば、それとは正反対にある上品なクラシック、そしてテクノの融合を試みているクラークではあるが、テクノの重鎮としての軌跡と、ミュージシャンとしての弛まざる歩みのようなものを、このアルバムに探し求める事ができる。次いで、いえば、このアーティスト、クラークの音楽性の原点のようなものがこのレア・トラックス集に見出せる。アルバムの序盤に収録されている#2「Urgent Jell Hack」には、エイフェックス・ツイン、スクエアプッシャーに比するエレクトロの最盛期を象徴するドラムン・ベース/ドリルン・ベースに重点をおいていることに驚愕である。
さらに、デビュー作硬質な印象を持ちながらも抒情性を兼ね備えた「Body Riddle」とハードテクノ/ゴアトランスに音楽性を移行させて大成功を収めた大傑作「Turning Dragon」との音楽性を架橋するような楽曲も収録されており、ミニマル/グリッチ、ノイズ・テクノの実験性に果敢に取り組んだ前衛的なエレクトロの楽曲も複数収録されている。元々、クラークは前衛的な音楽に常に挑戦するアーティストではあるものの、そのアヴアンギャルド性の一端の性質に触れる事もできなくはない。そして、近年の映画音楽のように壮大なストーリー性を兼ね備えたモダン・クラシカルの音楽性の萌芽/原点のようなものも#6「Dusk Raid」#8「Herr Barr」、終盤に収録されている#11「Dusk Swells」#12「Autumn Linn」に見い出すことができる。
おそらく、「05−10」というタイトルを見ても分かる通り、クラークの2005年から2010年までの未発表曲を収録した作品なのかと思われるが、このレア・トラックス集では、これまで表立ってスポットを浴びてこなかったクラークの音楽性の原点が窺えると共に、このアーティストらしいハードテクノの強烈な個性をこのアルバムには見出すことが出来るはずです。
また、驚くべきなのは、このアーティストしか生み出し得ない唯一無二のハード・テクノは、2022年現在になっても新鮮かつ前提的な雰囲気を放っている。それは現時点の最新鋭のモダンエレクトロと比べても全然遜色がないばかりか、しかも、2000年代に作曲された音楽でありながら、時代に古びていない。「なぜ、これらのトラックが今まで発売されなかったのか??」と疑問を抱くほど、アルバム収録曲のクオリティーは軒並み高く、名曲揃いとなっています。
『05−10』は、レア・トラックス集でありながら、クラークの新たなオリジナル・アルバムとして聴くことも無理体ではなく、全盛期のエイフェックス・ツイン、スクエア・プッシャーの名盤群の凄みに全然引けを取らないクオリティーをこのレアトラック集で楽しむことが出来る。このアルバムは、クラークの既発のカタログと比べても、かなり聴き応えのある部類に入ると思われます。さすが、ダンス・エレクトロの名門、Warpからのリリースと称するべき作品で、もちろん、テクノミュージックの初心者の入門編としても推薦しておきたい作品となっています。
87/100
・ Featured Track「Dusk Raid」