Sobs 『Air Guitar』
Label: topshelf/inpartmaint
Release: 2022年10月21日
Review
ボーカリスト、セリーヌ・オータム(Vo)を中心に、ジャレッド・リム(Gt)、ラファエル・リム(Gt)からなるシンガポールの新時代のインディーポップバンド、Sobs!!
2017年のデビューEP「Catflap」は米国のメディアにも高評価を受け、 続く、2018年にはデビュー・アルバム「Telltale Sign」を発表している。現在、人気急上昇中のアジアのホープである。
近年、アジア圏では、シンガポール、マレーシアを中心に魅惑的なミュージックシーンが形成されつつある。これらの国では、都市圏を中心に、米国のポップスや、日本のシティ・ポップに影響を受けたバンド、アーティストが活躍する。
Sobsもまた、最近、盛り上がりを見せている東南アジア圏のミュージックシーンの活況を象徴付けるような勢いのあるインディーポップ/オルタナティブポップ・グループのひとつに挙げられる。
Sobsは、カナダのAlvveysや、米国のミシェル・ザウナーのソロ・プロジェクト、Japanse Breakfastとの比較がなされることからも分かる通り、キュートな雰囲気を持ったセリーヌ・オータムのボーカル、とジャングルポップに近い親しみやすいバックバンドで構成されている。ほかにもUKのSarah Midori Perry擁するKero Kero Bonitoのキャラクター性にも近い雰囲気がある。
特に、上記のアーティストの中で、Sobsの音楽性は、J Brekkieやbeabadoobeeに近いように感じられる。ドリーミーなボーカル、シューゲイザーやドリームポップの音楽性をどのように現代風のポピュラーサウンドに組み替えるのか模索し、若者の心に共鳴するような音楽を提示するという点で、ミシェル・ザウナーと同様であると思われる。二作目のアルバムとなる『Air Guitar』はローファイなギターロックの影響を感じさせながらも、ファニーなポピュラー・ソング、そして、セリーヌ・オータムのメロディセンスの才覚が遺憾なく発揮された快作となっている。
#1のタイトルトラック「Air Guitar」で、Sobsは、派手な親しみやすいポップバンガーでリスナーの心をグッと掴んでみせる。楽曲自体は、近年流行のインディーポップの王道を行くものであるが、どことなくメロディーの節々には、アジアンなテイストが込められており、またノスタルジアも感じられる。最近の米国のインディーポップの影響と取り入れつつ、卒なく渋谷系のおしゃれさを取り入れている。そのほか、このトリオのパンキッシュな一面を伺わせる「Lucked Out」は、ポップバンガーとポップパンクを絶妙に融合してみせた傑作である。この曲はカナダのAlvveys、NJのThe Bethの音楽性に近いなにかを感じさせるが、もしかすると、それよりもパワフルでドラマティックかもしれない。メロディーの運びについてはポップパンクのアプローチが図られ、また変拍子が取り入れられたり、EDMを始めとするダンスビートを卒なく導入したりと、自由自在に多様なジャンルをクロスオーバーしており、非常に新鮮な気風を感じる。
さらに中盤にも、聴きごたえのある曲がいくつか見受けられる。「Burn Book」では、シューゲイズに近いアプローチを図っており、歪んだディストーションギターに、ポピュラーな旋律を持つボーカルと、このジャンルらしい方向性が取り入れられているが、セリーヌ・オータムのボーカルは相変わらず、ファニーなキュートさを維持し、メロディーはパワーポップのように甘くせつなげな空気感を擁する。派手でポピュリズムに根差した楽曲ではあるものの、その中には繊細なエモーションが込められている。単なるポップバンガーと称するには惜しいような一曲だ。
終盤にさしかかかってもこのアルバムはダレることはなく、聴き応えのある曲でリスナーの集中力を維持する。「LOML」では、ドリーム・ポップとハイパーポップの中間にある新鮮な楽曲で聞き手を見事にその世界観の中に留まらせる。イントロではレトロさを感じさせるシンセポップのアプローチは、クライマックスに至ると、ダイナミックなハイパーポップに様変わりする。この曲で前半部と異なるニュアンスを示すことにより、アルバム全体に多彩な印象性を与え、さらに強烈な印象をリスナーに与える。このエバーグリーンでエモーショナルな楽曲は、東南アジアの若者の日々の暮らしにまつわる個人的な思いがそのまま表されていると言える。
二作目のアルバム「Air Guitar」を聴くかぎりでは、Sobsは、Beabadoobeeに比するソングライティングの実力を持ち、J Brekkieのようなファニーさを併せ持っている。現時点では大きな知名度には恵まれていないものの、今後、世界的なバンドとなっても不思議ではない刮目すべきグループだ。
追記として、日本盤のアルバムの10曲目には、Rocktship(ロケットシップ)の「I Love You Like The Way That I Used To」のカバーが収録されている。また、『Air Guitar』は日本国内でCD化されている。アートワークについては、フィリピンのイラストレーター、ミッチ・セルヴァンデスが手掛けている。
92/100