First Aid Kit 『Palomio』
Label: Columbia/Sony Music Entertainment
Release: 2022年11月4日
Review
デビュー・アルバム『The Big and the Blue』から12年、スウェーデンのソダーバーグ姉妹のデュオ、ファースト・エイド・キットは、穏やかなフォーク/カントリーミュージックを自分たちなりの方法で探究してきました。
最初期はナチュラルかつオールドスタイルの音楽を主眼に置いていましたが、5thアルバムとなる『Palamio』では、シンセ・ポップを絡めた華やかな音楽へとシフトチェンジを果たしています。
さらに、この姉妹デュオがリスペクトを表している、フリートウッド・マック、そしてホラー映画「ストレンジャー・シングス」で再度復活を遂げたケイト・ブッシュ、トム・ペティといった古き良きポップス/ロックをファースト・エイド・キットは今作でよりモダンに再現しようとしています。
オープニングを飾る「Out Of My Head」では、デビュー当時には見られなかったようなポップバンガーを提示しており、アルバム全体に華やかな質感をもたらしている。続く、「Angel」では、チェンバロのアレンジを交えて、70年代のポップスをより親しみやすい形に再現しています。これらのノスタルジックな音楽性を強固にしているのは、姉妹ならではの息の取れたボーカルのハーモニーであり、ソダーバーグ姉妹は、ケイト・ブッシュやジョニ・ミッチェルをはじめとする往年の名曲の影響下にある楽曲を、華やかで淑やかなコーラスで彩っている。他にも「Turning Onto You」では、フリートウッド・マックのフォークとロックの中間にある爽やかでありながらブルージーな楽曲に挑戦。ハミングのハーモニーは爽やかな雰囲気をこの曲にもたらしています。
これらの新しい試みに加え、活動最初期からの特性だった新旧のフォーク/カントリーの混在させた楽曲性も維持されている。「Fallen Angels」では、シンプルなベースライン、曲の雰囲気を損ねないソフトなギターライン、そして、ケルトフォークの牧歌的な雰囲気をストリングスのアレンジにより演出しています。ソダーバーグ姉妹のボーカルのハーモニーは曲の雰囲気を重視しつつ、息の取れたコーラスワークによって楽曲の性格に華やかな色を添えている。さらに、続く「Wild Horses」は、もはやタイトルとしてもカントリーの定番となっていますが、デュオはそれらの全時代のカントリー音楽のコードやビートを踏襲しつつ、中盤からはシンセサイザーのアレンジを通じて、ワイルドかつダイナミックな迫力を持つ展開へと繋げられていきます。
それから、淑やかでまったりとした雰囲気を擁するオルタネイティヴフォークの楽曲が続いた後、タイトルトラックのダイナミックなフォーク・ロックで、このアルバムは幕引きを迎えます。この曲での姉妹のボーカルの兼ね合いは円熟味すら感じさせ、コーラスの妙味は熟練の領域に達している。イントロのフォーク・ロックのテイストから、曲展開が段階的に様変わりしていき、曲のクライマックスにかけて、チャントのような雰囲気をもった清涼感のあるボーカルを体感出来る。ここに十二年の活動の集大成のようなものが体現されています。
アルバム全体としては、牧歌的なフォーク/カントリーが一貫して展開されていますので、それほど音楽の難易度は高くなく、多くのリスナーの共感を得る作品になるだろうと思われます。そして、これらの楽曲では、ソダーバーグ姉妹は最新鋭の音楽ではなく、遠ざかった時代のポピュラー/ロックの名曲群の音楽の懐かしさや、その音楽の持つ温和さを再現させようとしているように感じられます。
作品全体としてみると、先行シングルのMVを見ても分かる通り、ソダーバーグの姉妹が掲げているサウンドスケープのテーマがリスナー側に今ひとつ伝わりにくく、もう一歩何かあればよかったという感もありますが、他方、この作品には姉妹の人間関係の良さが表れており、温和な空気感が通っているのも確かです。もしかすると、聴くごとに本質が滲み出てくるような長く愛聴出来る作品になるかもしれません。
82/100
Featured Track 「Out of My Head」