New Album Review Cavetown 『Worm Food』

Cavetown 『Worm Food』

 



 Label: Sire Records 

 Release 2022年11月4日


 

 

Review 

 

 UKのシンガーソングライター、Robin Skinnerは、2015年にデビューを果たした若いアーティストなのだが、既に膨大なバックカタログを有しており、多作なミュージシャンとして知られる。もともとyoutubeを通じて音楽をアップロードしていたところに、人気に火が付き、大ブレイクを果たしている。既にspotifyでは、総ストリーミング再生が2億5千回を越えており、ストリーミング界隈では世界的な知名度を持つミュージシャンとしての地位を確立している。

 

しかし、これらの話題先行のアーティスト像を先入観に入れて、ケイヴタウンの音楽を耳にすると意外の感に打たれると思われる。ロビン・スキナーの楽曲は、鋭い感性に裏打ちされた親しみやすいポップスであり、しかも聴き応えと説得力を兼ね備えている。現時点で、ベッドルームポップ系のアーティストの最高峰にあり、その繊細なアーティスト像とは裏腹に、ポスト・エド・シーランと称しても差し支えないような大きなオーラを持つミュージシャンなのである。

 

このアルバムは、TikTok世代のミュージシャンとして、若い世代の心に共鳴させる何かが込められている。ロビン・スキナーは、LGBTを公言するアーティストではあるが、それらの固定化された性のアイデンティティに対する何らかの怒り、そして戸惑いのようなものもこれらの楽曲には音楽的な表現やときには詩の表現として多角的な視点を持って捉えられている。ロビン・スキナーの楽曲は、既に与えられた固定概念から心を開放させてくれる癒やしがある。それはこのミュージシャンが固定概念を超える考えを持っている証拠でもある。

 

アルバム全体を見ると、細部まで緻密に作り込まれた楽曲が際立つ。オープニングを飾るタイトルトラック「worm food」は本作のハイライトの一つであり、繊細でソフトなポップスをロビン・スキナーは提示しているが、面白いことに彼の楽曲は非常にストイックである。 口当たりの良いポップスを演じつつも、曲の小さな構成部分に目を凝らすと、エレクトロニカのドリルンベースの要素も取り入れられている。しかし、それらはエイフェックスのようにエクストリームな表現にはならず、あくまで、口当たりの良いポップスの範疇に留められているのである。

 

このアルバムの中には、若い世代として生きる人間として、今ある世界と、また目の前の日常とどのように接していくのか、その戸惑いのような感覚がひとつずつ歌詞や音楽という表現を介して繊細かつ叙情的に発露していく。


それらは、ぽっと目の前で発光したかと思うと、ふっとその光はたちどころに立ち消えてしまい、次の情景や感覚へと絶えず移ろい変わっていく。それはロビン・スキナーが内的な感覚の流れを微細な観点から捉え、それらをモダンなポップス、インディーフォーク、エレクトロニカ、実に多彩な表現を、みずからの感覚を通じて、ひとつの音楽作品として丹念かつ緻密に組み上げているように思える。これらの曲は、キャッチーでありながら、深く聞き入らせる何かがある。

 

他にも、日本文化に少しの親しみを表した「Wasabi」は、穏やかな自然の雰囲気を感じさせる穏やかなインディーフォークとして楽しめると思われるが、ここにもやはり内的な風景をソフトに表現しようとするレコーディング時のロビン・スキナーの姿が垣間見えるかのようである。そして、ロビン・スキナーは、驚くべきことに、アルバムの序盤では、デジタル社会へ最接近し、その中に腰を下ろしているのだが、一方で、それとは対極にあるデジタル社会とは正反対にある自然派としての感覚を同時に探求しようとしている。それはまったく世代を問わない、人間としての原初の渇望、本質的な性質ともいえるのだろうか?? 他にも、このミュージシャンには、優しさ、怒りといった対極にある感覚が、かなり明け透けに表現されているが、この両極端の対極性の中にこそ、この秀逸なシンガーソングライターの進化が込められている。

 

さらに、この最新アルバムの中で、最もベッドルーム・ポップの色合いを感じさせるのが、フィリピン/イロイロ出身のシンガーソングライター、beabadoobeeが参加した「fall in love with a girl」となるはずだ。オープニングトラック「Worm Food」と共に今作のハイライトとなるこの楽曲では、beabadoobeeとのボーカルの息の取れた掛け合いにより、涼やかなポップスの色合いを見事に引き出して見せている。ロビン・スキナーは、最近、LGBTQを支援する独立団体をみずから立ち上げているが、この楽曲は、それらの考えを直接的に後押しするような内容となっている。


本作は、冷たさー温かさ、怒りー優しさ、機械的なものー人間的なもの、こういった対極にある概念が、一つの作品の枠組みの中に自然に取り込まれて、それが複雑な機微として綿密に絡み合いながら、多彩なバリエーションを持つ楽曲を通じて滑らかに繰り広げられていく。これらのロビン・スキナーにしか生み出しえない感性の尖さが聞き手の心をしっかりと捉えてやまない。

 

 

84/100

 

 

 

Featured Track  「Worm Food」