先日、第39代アメリカ合衆国大統領ジミー・カーターの孫にあたるジョン・チュルデンコ氏がホワイトハウスに個人のレコードライブラリーが存在することを突き止めたとワシントニアンが報じている。
このレコードコレクションの存在は長年一般的に知られていなかった。チュルデンコ氏は、カーター一族の年一度の集まりに参加し、メキシコ湾で釣りをし、パナマのビーチでくつろいだり、また親族の間で昔話に興じたりするのを好んでいるというが、チュルデンコ氏がこのレコードライブラリーの存在を知ったのは、この旅行期間だった。その時のエピソードは以下のようなものだ。
叔父のジェフ(ジェフリー・ドネル)が、カーター政権時代のホワイトハウスのパーティで起きた出来事の思い出について話しており、当時20代だったカーター氏の末っ子のジェフ氏は、友人たちと2階でローリング・ストーンズのアルバムを聴きながらくつろいでいた。その時、突然、ドアが開き、カーターの妻のロザリン・カーターとモンデール夫人が立っていたという。
『待てよ、レコードがあったとはどういうこと? 』ジョン・チュルデンコは不思議に思って尋ねた。
「レコードがあるというのは、どういうこと? 一体、そのレコードはどこで手に入れたんです?」
「ああ、ホワイトハウスには公式のレコードのセレクションが置いてあったんだ」と叔父のジェフは言った。
チュルデンコ氏は、『ホワイトハウスにもレコードコレクションがあるのだろうか??』と意外に思って尋ねた。
「それはずっとあったんですか?」
「いや、それ以上のことは知らないよ」
親戚の間でその話は終まいになった。それから、チュルデンコは旅行からロサンゼルスに帰るなり、この話が頭から離れなくなった。「それが、このウサギの穴に入るきっかけになった」と彼は言うのだ。
以上のような経緯で、脚本家、映画監督、プロデューサーとして活動を行うジョン・チュルデンコは、叔父のジェフからレコード・コレクションの存在をはじめて聞かされたのだった。カーター大統領は、ホワイトハウスに住んでいた頃、レコードをプレイヤーで自ら再生していた。1970年代、アメリカレコード協会がホワイトハウスに音楽のためのライブラリーを作ろうと持ちかけたことがきっかけで、このレコード・セレクションが実現したという。
ジョン・チュルデンコ氏 ホワイトハウスのレコードライブラリー©Aric Avelino |
ホワイトハウスのレコード・コレクションは、実は、2つ存在する。一つ目はソングライターのジョニー・マーサーが企画し、1973年に1,800枚以上のレコードがホワイトハウスに寄贈している。 ローレンス・ウェルク、ドン・ホー、ペリー・コモ、選りすぐりの音楽は、まさに時代の象徴と言える。
その後、ボブ・ディラン、アレサ・フランクリン、ブルース・スプリングスティーンと契約したレコード・プロデューサー、ジョン・ハモンドが、後のセレクションの編集を担当し、ホワイトハウスにレコードをストックした。
第二弾のレコードライブラリーの存在が明らかにされたのは1981年初めのこと、ホワイトハウスで行われたレーガン大統領夫妻出席のセレモニーの際であった。その時、ホワイトハウスは、カーター夫妻の公邸からの退去を開始させていた。おそらく、新しいLPが開梱され、ライブラリーに加えられる前に、レーガン一家がそれを送り出したのだろうとチュルデンコは考察している。
その後、チュルデンコ氏は、「今、ドキュメンタリー映画の撮影をしている」と、そのレコードの閲覧を申し出た。結果、ホワイトハウスから、レコードを掘り出して閲覧できるようにするとの申し出があった。2010年12月、チュルデンコは、撮影隊とブルーメンタール、ラクリスらと一緒にペンシルベニア通り1600番地にやってきた。ターンテーブルとスピーカーも持参していた。
一行は、到着後、ホワイトハウスの試写室に通された。スクリーンの前にレコードの入った箱が積み重ねられている。水色はポップス、黄色はクラシック、と色分けされたバインダーに、スリーブに入ったままの多数のレコードが収められている。LPの表面には大統領の判子が押され、さらに「WHITE HOUSE RECORD LIBRARY」と書かれた箔押しがされている。バインダーの中には、40年代のFDRの演説ではなく、ヴィレッジ・ピープルの「マッチョマン」が含まれていた。
チュルデンコ一行はライブラリーの探索を続けた。「箱を開けるたび、新しい宝物が入っているようでした」とチュルデンコは振り返る。「箱の中に何が入っているかは、紙の上では分かってましたが、実際にレコードを手にすると、また異なる印象を受けます。一度も再生したことのないレコード。1979年のレコード店に入った感じだ。まったく手つかずの状態で保管されていたんです」
その後、彼らは信じがたいことに、政治色の強いパンク・ロックの名盤、クラッシュの1977年のセルフタイトル・デビュー作を聴くことに決めた。すると、「U-S-Aにはうんざりさ」とジョー・ストラマーがコーラスで唸った。「ホワイトハウスでクラッシュを演奏している!」「信じがたいプロテスト・レコードだ。しかもこれは私が持ってきたのではない。何と、ホワイトハウスのコピーを演奏しているんだ!」チュルデンコ氏がそんな感動を覚えたのは頷ける話だ。
しかし、この数年間、ホワイトハウス訪問の最後に起こった出来事がチュルデンコ氏の心を動かし続けている。訪問の最後に、スタッフが「では、終わりにしましょう」と丁重に声をかけると、オーバーオールを着た3人組がハンド・トラックを持って現れた。彼らはレコードを箱詰めをし、運び出していった。その時、チュルデンコ氏はその様子を見ながらふと考えた。『いや、ちょっと待て。このままでは、レコードが暗い倉庫にまた長い間戻されてしまうぞ。このままではいけない!』と、その時、"何かしなければいけない "と思ったんです」
以来、チュルデンコ氏は、祖父の時代からのこの歴史的な遺産を引き継ぎ、レコードライブラリーに第三弾を追加しなければならないと考えるようになった。彼は、ヒップホップ、エレクトロニック、そして、マイケル・ジャクソンの作品がカタログから欠落しているのを内心では不満に思っていた。
現在、ジョン・チェルデンコ氏は、祖父カーター大統領の遺志を受け継いで、ホワイトハウス歴史協会と連携し、第二弾につづく新シリーズの企画に着手しているとのことである。しかし、ホワイトハウスに新たな物理的なライブラリーを作成するのではなく、プレイリストを書き下ろし、一冊の書籍として出版することを計画しているという。現時点で、チュルデンコ氏がひそかに温めているアイデアは、著名人にホワイトハウスのライブラリーのアルバムを取り上げてもらうという内容である。チュルデンコ氏は、著名人が選んだアルバムについて話す様子を撮影し、その映像をドキュメンタリー・フィルムに組み込み、書籍と一緒に発売することも計画している。今後、チュルデンコ氏の手がけるプロジェクトの進捗がどうなっていくのか楽しみにしたい。