New Album Review Rozi Plain 『Prize』
Label: Memphis Industries
Release Date: 1月13日
Review
ロンドンを拠点に活動するシンガーソングライター、ロジー・プレインの通算5作目となるアルバム『Prize』 は、2015年のブレイクスルーとなったアルバム『Friend』で均した音楽的土壌を押し広げたものとなっている。この新作は、パンデミック期に制作が開始され、グラスゴー、エイグ島、フランスのバスク地方の海辺の町、マーゲット、さらにはロンドンジャズの中心地、トータル・リフレッシュメント・センターまで、複数の場所で録音が行われている。コラボレーターもかなり豪華で、Kate Stablesをはじめ、コンテンポラリー・ジャズの巨匠、Alabaster De Plume、Danalogue,Serafina Steer,Shigihara Yoshino,その他、ミネアポリスのサックス奏者 Cole Puliceがこの作品に参加している。
この5作目では、細やかなエレクトロ・サウンドに裏打ちされたほんわかとしたフォークサウンドが展開される。それは”ほんわか”というより、”ホワーん”とたとえるべきであり、さながら上記の風光明媚な土地の風合いを受けた伸びやかなサウンドとも言えるが、近年流行りのBig Thiefにも似た質感を持つ内省的なオルタナティヴ・フォークにも位置づけられる作品である。これらの音楽は、トレンドを意識したものではあるが、そこにサックス、フィドル、パーカッションを細やかなエレクトロ・サウンドに織り交ぜることにより、独特の雰囲気を与えている。基本的には穏やかなフォークミュージックと思わせておきながら、ときに、このアーティストらしい鋭気のようなものが随所にほとばしっている。それはケルトの細やかなフォークサウンドを想起させたかと思えば、アバンギャルド・ジャズやサイケデリアの主張性を交えたコアなロックサウンドまでをも内包している。牧歌的なインディーフォークを志向しながらも、そこにはなにか抜けさがないものも含まれている。これはまったく油断のならないサウンドでもあるのだ。
作品の表向きのイメージ、それはこれらのマニアックなトラック・メイクにより、ラン・タイムが進んでいくうちに、その流行り物という最初のイメージが覆され、ケルト的な世界観が内包されていることにリスナーは気づくことだろう。それはロジー・プレインの囁くようなボーカル、浮遊感に充ちたコーラス、そして、ハープ、多彩な音色を交えたシンセサイザー、テレミンのような音色、ヨーロッパの古い民族楽器の打楽器、様々な観点からこれらのサウンドは吟味され、そしてつややかなサウンドに昇華されていく。アルバムの流れは、常に淡々としていながらも、流動的なエネルギーが満ちていることが分かる。それはよく聴き込めば聴き込むほど、内側で変化している渦を感じとることが出来る。感覚的な音楽ともいえるが、それは確かに聞き手に、この音楽に波に長く浸っていたいと思わせるような心地よさをもたらすのである。
他に、この作品からどのようなイメージを汲み取るのか、それは聞き手の感性いかんによると思われる。先述したスコットランドの牧歌的な風景を思いかべるのも自由であるし、同じくバスク地方の山岳地帯の荘厳な風景が思い浮かぶというリスナーもいることだろう。ある意味では、すでに鋳型に入れた何かをこの音楽は提示するわけではなく、ある種の漠然としたイメージが示され、それを聞き手がどのように自由に拡げていくのかに重点が置かれている。独りよがりの音楽ではなく、聞き手が反対側に存在することによって完成形となるようなアルバムである。確かに『Prize』は、そこまで人目を引くような派手さはないけれど、この作品に内包される素朴な輝きは、むしろその音楽に触れるたび、いや増していくように感じられるはずである。
82/100