【Review〛  Young Fathers 『Heavy Heavy』

Young Fathers 『Heavy Heavy」


 

Label: Ninja Tune

Release : 2023/2/4



 

Review 

 

リベリア移民、ナイジェリア移民、そして、エジンバラ出身のメンバーから構成されるスコットランドのトリオ、ヤング・ファーザーズは、一般的にはヒップホップ・トリオという紹介がなされるが、彼らの持つ個性はそれだけにとどまらない。MOJO Magazineが指摘している通り、多分、このトリオの音楽性の核心にあるのは「ビンテージのソウル/レゲエ」なのだろう。またそれは”近作でトリオが徹底的に追究してきたことでもある”という。そして最新作『Heavy Heavy』では、多角的な観点からそれらのコアなソウル/レゲエ、ファンクの興味を掘り下げている。

 

しかし、ヒップホップの要素がないといえばそれも嘘になる。実際、ヒップホップはビンテージ・レコードをターンテーブルで回すことから始まり、その後、ソウルミュージックをかけるようになった。ヤング・ファーザーズの最新作は一見、ロンドンのドリルを中心とする最近のラップ・ミュージックの文脈からは乖離しているように思えるが、必ずしもそうではない。トラップの要素やギャングスタ・ラップの跳ねるようなリズムをさりげなく取り入れているのがクールなのだ。


バンコール、ヘイスティングス、マッサコイの三者は、自分たちが面白そうと思うものがあるならば、それが何であれ、ヤング・ファーザーズの音楽の中に取り入れてしまう。その雑多性については、他の追随を許さない。もちろん、彼らのボーカルやコーラス・ワークについては、ソウル・ミュージックの性質が強いのだが、レコードをじっくり聴いてみると、古典的なアフリカの民族音楽の影響がリズムに取り入れられていることがわかる。また、UKのドラムン・ベースやクラブ・ミュージックに根ざしたロックの影響を組み入れている。これが時にヤング・ファーザーズが商業音楽を志向しつつも、楽曲の中に奥行きがもたらされる理由なのだろう。

 

『Heavy Heavy』は、トランス、ユーロ・ビート、レイヴ・ミュージックに近い多幸感を前面に押し出しながらも、その喧騒の中にそれと正反対の静けさを内包しており、ラウドに踊れる曲とIDMの要素がバランス良く配置されている。さらにアフリカのアフロ・ソウルを始めとするビート、ゴスペル音楽に近いハーモニーが加わることで新鮮な感覚に満ちている。ヤング・ファーザーズが志す高み、それは、ザ・スペシャルズのスカ・パンク世代の黒人音楽と白人音楽の融合がそうであったように、国土や時代を越えた文化性に求められるのかもしれない。実際、歌詞やレコードのコンセプトの中には、人種的な主張性を交えた楽曲も含まれている。

 

この最新作で注目しておきたいのは、ジェイムス・ブラウンに対する最大限のリスペクトをイントロで高らかに表明している#3「Drum」となるか。アンセミックな響きを持つこの曲は、ラップに根ざしたフレーズ、ダブ的な音響効果、ソウル・ミュージックを中心に、パンチ力やノリを重視し、アフリカの音楽の爽やかな旋律の影響が取り入れられている。ループの要素を巧みに取り入れることにより、曲の後半ではレイヴ・ミュージックのような多幸感が生み出される。


続く#4「Tell Somebody」は、この最新作の中にあって癒やされる一曲で、最後に収録されているしっとりしたソウル・バラード、#10「Be Your Lady」と合わせて、クラブ的な熱狂の後のクールダウン効果を発揮する。他にも、ドリル、ギャングスタ・ラップをDJのスクラッチの観点から再構築し、エレクトロと劇的に融合させた#6「Shoot Me Down」も個性的な一曲である。その他、ドラムン・ベースの影響を打ち出した#9「Holy Moly」も強烈なインパクトを放つ。

 

この新作において、ヤング・ファーザーズは、ブラック・カルチャーの特異な思想であるアフロ・フューチャリズムのひとつの進化系を提示しようとしており、また、同時に既存の枠組みに収まるのを拒絶していて、ここに彼らの大きな可能性がある。ヤング・ファーザーズの一貫した姿勢、ご機嫌な何かを伝えようとするクールな心意気を今作から読み取っていただけるはずだ。

 

 

82/100