Label:P-Vine/Good Charamel Records
Release: 2023/2/15
Review
1981年に大阪で結成されたロックバンド、少年ナイフは日本ではそこまで知名度を誇るわけではありませんが、NirvanaのKurt Cobainを始め、ロックアーティストからカルト的な支持を得ていた時代もありました。日本ではJTのCM「飲茶楼でめちゃうまかろう」でお馴染みのロックバンドです。
最新アルバム『Our Best Place』は、トリオにとって原点回帰を果たしたかのような痛快な作風となっています。プレスリリースでは、ポール・ウェラー擁するThe Jam、BUZZCOCKSに近い作風と説明されている。
確かにザ・ジャムのモッズ時代を彷彿とさせるアート・ロック、バズコックスのメロディック・パンク以前のパワー・ポップ性も魅力ではありながら、少年ナイフの音楽性の核心にあるのはビーチ・ボーイズの軽快なコーラスワークとラモーンズの痛快なロックンロール性にある。基本的にはパワーコードのシンプルな8ビートの楽曲にトリオの最大の魅力は求められる。
今回の新作アルバム『Our Best Place』は、まさに結成40年目のオルタナティヴロックバンドがわが居場所を見つけたり、と言わんばかりの痛快なロックンロールが満載となっています。アルバムは英語と日本語の両方で歌われ、日本のリスナーだけでなく、海外のロックファンにとっても親しみやすく、そして作品としても全体的にバランスの取れた内容となってます。
オープニングを飾る「MUJINTO Rock」はジョーイ・ラモーンのソングライティングを彷彿とさせる痛快かつエバーグリーンなポップ・パンクを提示し、そこにザ・ジャムのような旧来のロックンロール性を加味し、ノスタルジアをいとわず全快で突っ走っていく。他にも、日本の古い歌謡曲のようなユニーク性を交えた「バウムクーヘン」ではドゥワップ・コーラスを交えてユニークな世界観を提示している。並み居るバンドをなぎ倒していくかのような迫力と存在感は圧巻です。
その他にも、ラモーンズのセルフタイトルのデビュー・アルバムを彷彿とさせる「Spicy Veggie Curry」では、ガールズバンドらしいキュートさを押し出し、キャッチーなコーラスワークを展開させ、このバンドの全盛期を現代に呼び覚ましています。シンプルなパワーコードとブルース・ハープの掛け合いがいい味を出しています。また、「Girls Rock」では甲本ヒロト率いるザ・ブルーハーツを彷彿とさせるような懐かしさ満点の日本語パンクの世界を開拓しており、さらに、そこにガールズ・バンドのカラフルな色合いを加味しています。シンガロングせずにはいられない曲を書くことにかけては少年ナイフの右に出るバンドは見つかりません。
アルバムの終盤に差し掛かってもフル・エンジン。ギター・ウルフのようなブギーを主体にしたドライブ感満載のロックンロール・ナンバー「Ocean Sunfish」でさらに気分を盛り上げる。続く「Better」はバズコックスのパワーポップ性を受け継いだ甘く切ないナンバーで、最近のインディー・ロックファンの好みにもマッチする音楽性となっています。さらに英語で歌われたラストナンバー「Just A Smile」は、かなり切ないパワーポップ・ソングで、Monkeesの「Daydream Believer」や、The Replacementsの同曲のライブカバーを彷彿とさせます。
最新作『Our Best Place』で、少年ナイフは、キャリア40年のバンドとしての実力を対外的に示し、さらに新時代のロックンロール・アンセムを多数生み出しています。現代のトレンドからは一定の距離をおいた作風ですが、間違いなく日本の良い時代を思い起こさせるような良質なアルバム。ラモーンズやブルーハーツが好きな方はぜひチェックしてもらいたい。また、リミックス含む3曲のボーナス・トラックが追加収録された日本盤がP-Vineから発売となっています。
80/100