The Waeve 『The Waeve』
Label: Transgressive/PIAS
Release: 2023/2/3
Review
ご存知のとおり、Blurのギタリスト、グラハム・コクソンと、 ザ・ピペッツのメンバー、ローズ・ピペットのデュオの最新作。
このリリースの情報を聞いた時、ブラーの再結成の可能性はないように思えた。同時期にドラマー/法律家のデイヴ・ロウントゥリーも同じようにソロ・アルバムのリリースを間近に控えていた。ところが、ブラーはその直後、オリジナル・メンバーで再結成し、今年多くのヘッドライナー級の公演にこぎ着けた。本国では、ウェンブリー・スタジアムでの公演を控えているほか、フジ・ロックでも久しぶりの来日を果たします。
グラハム・コクソンとローズ・ピペットによるこのデビュー作品には、ミュージシャンとして豊富な経験を持つ両者の音楽的なバックグラウンドをなんとなく窺い知ることが出来る。ほどよいミドルテンポのエレクトロ・ポップは、ブラーの音楽性を引き継いでいるように思えるが、時にサックスのフリージャズ風のフレーズを交えており、UKの最初期のポスト・パンクの前衛性の断片をファンは捉えるかもしれません。しかし、そのアヴァンギャルド性はあくまで掴みやすいUKポップスの範疇に収められています。”良い音楽に触れたい”というファンの期待をグラハム・コクソンは知悉していて、今作では豊富な知識と経験に裏打ちされた作曲能力を遺憾なく発揮している。ファンの期待を裏切らず、見事にそれ以上の高い要求に応えてみせています。
このデビュー・アルバムは、その他にもジャズやR&Bの影響を取り入れ、ブリット・ポップの黎明期の音楽や、ビートルズ世代のアートポップ性を巧みに織り交ぜています。時々、キャッチーなフレーズの合間に導入されるご機嫌なギター・ソロ、甘い陶酔を誘うメロウなホーン・セクション、さらにそれと合わさる2人の息の取れた絶妙なコーラスワークは聴き応え十分。この点はポール・マッカトニーやジョン・レノンの普遍的なソングライティングに相通じるものがある。
『The Waeve』の楽曲では、両者の音楽家としての役割分担が整然としているように思える。グラハム・コクソンがメインボーカルを取り、一方のローズ・ピペットはバックボーカルの役割に徹しています。これは全体を聴き通したとき、強い芯のようなものが通うかのような印象をリスナーに与える。つまり、このレコードの最初から最後まで、2人のミュージシャンが目指す方向性がぶれずに貫かれているという印象を覚えます。さらに、これまでのブラーの音楽性にはなかった奇妙な甘美性、ニュー・ロマンティックの性質が前面に押し出されているのです。
今回のデビュー・アルバムに関しては、蓋を開けるまでは単なるサイド・リリースなのではないかと考えていたが、実際はそうではありませんでした。ここには、グラハム・コクソンのソングライティングの卓越性とUKポップスの重要な継承者としての姿を捉えることができ、ブリット・ポップという枠組みに収まりきらない才覚の輝きが全編に迸る。もちろん、ローズ・ピペットもバックコーラスにおいて素晴らしい仕事をしていることにも注目しておきたいところです。
84/100