Unknown Mortal Orchestra 『V』/ Weekly Recommendaiton

Unknown Mortal Orchestra 『V』/  Weekly Recommendaiton


 

Label: jagujaguwar

Release Date: 2023/3/17




ルーバン・ニールソン率いるUMOことアンノウン・モータル・オーケストラは、既存作品において、ローファイ、サイケ、ファンク、ディスコ・ポップ、ソウル、多様な音楽性を探求して来た。ニュージーランドとハワイのオワフ島にルーツを持つニールソンは、『V』で自分自身のポリネシア人としてのルーツを辿るとともに、そして、これまでで最も刺激的な作風を確立している。

 

最初のシングル「This Life」から二年が経ち、ようやくUMOのアルバムが完成し、多くのリスナーの手元に届いた。この作品は満を持してリリースされたという気もするし、UMOのキャリアの最高峰に位置づけられる作品である。ボーカル/ギタリストであるルーバン・ニールソンの歌声の変化、そして、バンドそのものの音楽性の転換に気がついたリスナーもいるかもしれない。以前は、Ariel Pinkとならんで、コアなサイケ/ローファイの音楽性を『Ⅱ』で確立したUMOであったが、サイケ/ローファイの要素は、確かに今作『V』にも、目に見えるような形で引き継がれているものの、しかしながら、このアルバムの魅力はそれだけにとどまらない。今作はロックミュージックとして、例えば、ビートルズのような古典的なロック、ザ・ポリスのようなニューウェイブの影響を受けたポップスの後継的な作品としてもお楽しみいただけるはずである。

 

先日、米国の偉大なシンガーソングライター、ボビー・コールドウェルが亡くなったことをご存知の方も少なくないかもしれない。そしてなんの因果か、アンノウン・モータル・オーケストラの『V』の作品の核心にあるのは、(以前のようなサイケ/ローファイ、チルアウトの要素もあるにせよ)間違いなく、コールドウェルに象徴される70/80年代のAOR/ソフト・ロックというジャンでもあるのだ。私見に過ぎないが、このジャンルは、その時代のR&Bやダンスフロアのミラーボールに象徴されるディスコ・ファンクに触発された口当たりのよいポップス/ロックがテーマの内郭に置かれていた。無論、この時代に活躍したコールドウェルとともに、ボズ・スキャッグスの爽やかなロック/ポップスがルパーン・ニールソンの脳裏にはよぎったはずである。そして、それらが以前のファンクやサイケロックの要素と、かれのルーツであるポリネシアのトロピカルな要素が融合し、新鮮なロック・ミュージックが生み出されることになったのである。

 

本作『V』では、バンドのアンサンブル/ソングライティングにおいて磨きに磨きを掛けた珠玉のロックミュージックが徹頭徹尾貫かれている。


ファズを取り入れたエレクトリック・ピアノ、フィルターを掛けたドラム、そして、渋いビンテージ・ソウルに触発されたルバーン・ニールソンのボーカルの融合は、全体に強固な印象をもたらしている。バンドは、オープニングを飾る「The Garden」において、ファンクとソウルをローファイと融合させている。六分にも及ぶループフレーズに全然飽きが来ないのは、ファンクのシンコペーションによるハネが重厚なグルーブ感を与えるとともに、バンドの情熱がこのトラックに全面的に注がれているからである。

 

アルバム発売直前に公開された「Messugah」は、先にも述べたように、ボズ・スキャッグスやボビー・コールドウェルの時代のAORの核心にある音楽性を捉え、それらをワウを用いたサイケデリック・ロック風のトラックとして昇華している。ダンサンブルな要素とポリネシア的なトロピカル性が劇的に融合し、チルアルトとローファイの中間を行く軽快なトラックがここに生み出されている。しかし、この曲の核心にあるのは、70/80年代のディスコ・ファンクやソフト・ロックの爽やかさとグルーブ感であり、それらの要素が意外なコード進行と絡み合い異質なグルーブをもたらす。

 

#3「The Window」は、これまでのUMOにはあまり見られなかったような珍らかな作風となっている。この曲は、フュージョン・ジャズやボサノバを始めとする他地域の音楽の影響が大きく、シティ・ポップに近い作風である。加えて、ファンクと変則的なリズムを融合させることにより、 ジャズ・インストゥルメンタル調の作風に仕上げている。スタイリッシュではあるが、ダンサンブルな要素を失うことのない鮮かな印象は、アルバムに強いアクセントをもたらしている。


2021年の初公開からおよそ二年を経た「That Life」は、シンプルなローファイソングではあるものの、再度聞き直してもいまだなお当時の鮮烈さを失っていない。可愛らしいセサミストリート風の人形が踊るミュージック・ビデオは、UMOの音楽がそれほど難しいわけでもスノビズムに堕するわけでもなく、一般的なリスナーの心に温かく響くものであることを象徴づけている。


「That Life」



その後も、アンノウン・モータル・オーケストラは一貫してハイレベルの音楽をやってのける。#7「Layla」では、70/80年代のソフト・ロックの影響を受け継いだ、ネオ・ソフト・ロックを楽しむことができる。#8「Shin Ramyun」では、ビートルズのアート・ロック、『Hotel California」のイーグルスの音楽をローファイ/チルアウトとして昇華している。内省的な哀愁渦巻くアンノウン・モータル・オーケストラの世界を堪能出来るインストゥルメンタルとなっている。

 

#9「Weekend Run」では、前曲「Shin Ramyun」のギターリフのテーマを反転させたフレーズが象徴的だ。ディスコ時代のボーカルのフレーズとボズ・スキャッグス風の軽妙なロックを融合させ、ファンクの裏拍を強調するダンサンブルなビートを込め、終盤における展開を力強く引っ張っていく。

 

さらに、#10「The Beach」は、マイケル・ジャクソンのJackson 5の象徴的なファンクとR&Bを織り交ぜた痛快なトラックである。ここでUMOは、それ以前の曲と同様、音源ではありながらダンサンブルな空間を提供し、聞き手を往年のミラーボール全盛時代のダンスフロアの幻想的な空間へと誘う。特に、シンコペーションを多用した独特な変拍子のリズムに注目しておきたい。


その後の展開も劇的で、終わりまでスリリングさを片時も失うことはない。


「Nadja」は「The Garden」と呼応するトラックで、ソングライター、ルーバン・ニールソンの恋愛の切ない気持ちが内省的なローファイソングに込められている。それほどしんみりした曲調ではないにも関わらず、ボーカルの切ない雰囲気はメロウな気分を呼び覚ますことだろう。

 

アンビエントに近い抽象的な音楽に挑戦した「Keaukaha」も良い流れを作り、クック船長をテーマにする「I Killed Captain Cook」は、オワフ島のハワイアン・ミュージックの伝統を受け継ぎ、青い海と清々しい砂浜を印象づける曲として楽しめる。さらに「Drag」でも、ハワイミュージックの影響を反映させている。



88/100



Weekend Featured Track「The Beach」

 

 



 

カリフォルニア州パームスプリングスの乾いたフリーウェイとハワイ州ヒロの緑豊かな海岸線の間で作られたVは、Unknown Mortal Orchestraの決定的なレコードとなる。


ハワイとニュージーランドのアーティスト、ルバン・ニールソンが率いるVは、西海岸のAOR、クラシック・ヒット、風変わりなポップス、ハワイのハパ・ホーレ音楽の豊かな伝統からインスピレーションを得ている。


UMOにするために最も鋭い耳を持つルーバン・ニールソンは、手つかずの表面の下に潜む闇に決して目を背けることなく、青い空、ビーチサイドのカクテルバー、ホテルのプールをリスナーの脳裏に呼び起こす。


Vへの道は、そもそも、2019年4月、UMOがコーチェラ出演のため、カリフォルニア州インディオに向かったことから始まった。


その2週間のため、ルーバンは近くのパームスプリングスにAirbnbを予約し、家族も一緒に連れてきた。彼はパフォーマンスの合間に、砂漠のリゾート地のヤシの木が並ぶ通りを見ると、芸能人の両親が太平洋や東アジアのショーバンドに出演している間、兄弟と白いホテルのプールサイドで遊んでいた子供時代を思い出すことに気づいた。


1年後、COVID-19の大流行が目前に迫る中、ニールソンは再び、パームスプリングスのことを考えるようになった。ポートランドの自宅に閉じこもることも考えたが、パームスプリングスに家を購入する。10年間ツアーを続けてきたルーバンは、健康上の問題や燃え尽き症候群に対処しなければならないことを理解していた。


アメリカがロックダウンする中、彼は強制的なダウンタイムを過ごすことになった。さらにヤシの木の下で、彼は内省する空間を得た。そして、音楽が与えてくれたライフスタイルに感謝の念を抱いた。暖かく乾燥した気候は、長年患っていた喘息の問題を解決し、以前にも増して歌がうまくなり、自宅のスタジオで新しい歌が溢れ出すようになった。


3枚目のアルバム『Multi-Love』を録音したとき、ニールソンは最初の2枚のアルバムのローファイなファンクロックのドリームスケープに、ディスコの要素を取り入れた。


「ディスコはクソだ」というスローガンが気軽に飛び交うパンク出身の彼は、その台本をひっくり返すことに喜びを感じていた。Vでは、「Meshuggah」の乾いたディスコ・ファンクに、この衝動の一端を見出すことができる。「音楽の好みには、構築的なものと本能的なものの2種類がある」とルーバンは言う。


「影響力としての味覚は、芸術にとって危険だと私は思う。それから、背筋がゾクゾクするような音楽もある。その震えは、あなたが望んだわけではない。たまたまそうなっただけなんだよ」


パンデミックの初期、ルーバンの弟のコーディがニュージーランドからパームスプリングスに飛んできて、彼のレコーディングを手伝ってくれたことがあったという。背筋が凍るような感動を覚えたレコードの話をしたとき、ルーバンは、両親がエンターテイナーとして働いているとき、子供のころに聞いた、70年代のAMラジオのロックや80年代のポップスのことをふと思い浮かべはじめるようになる。ニールソンはそれらのレコードの自分バージョンを書きたいと思った。その着想は2021年にリリースした2枚の輝かしいアップテンポなシングル「Weekend Run」と「That Life」で結実した。


しかし、黄金のような楽しい時間は、決して永遠には続かなかった。


ハワイの叔父の一人が健康問題に悩まされるようになり、ルーバンは、より鋭く鋭い死が迫っている感覚に直面することに。そこで、ルバンは、レコードのことはさておき、母親ともう一人の兄弟をニュージーランドとポートランドからハワイに呼び寄せ、一緒に暮らすことにした。それが落ち着いた頃、ようやくルーバンはパームスプリングスとハワイ島北東部のヒロの間を行き来するようになった。


パームスプリングスとのつながりは、幼いころの思い出を呼び起こすことにあるのだという。ルーバンにとって、ハワイは同じような意味を持つが、それはまた両親のライフスタイルの暗黒面を思い出させる色あせた記憶でもある。ハワイの旅では、コディと話したAMラジオのロックの名盤をあちこちで聴いた。ヤシの木やプール、華やかな享楽主義など、彼が子供の頃から内面化していたものと、表裏一体となっていた。


ハワイには、ハパハオレ(半白)という音楽がある。Vの最後を飾る曲「I Killed Captain Cook」の湿度の高いギターを中心とした雰囲気から、UMOの特徴的なスタイルで表現されているのを聞くことができる。曲は、ハワイの伝統的な手法で表現され、多くは英語で歌われている。UMOのファーストアルバムからハワイアンミュージックに影響を受けてきたルーバンは、遂にその伝統に自分の居場所を見出した。自分の成功を振り返った時、自分にはハパハオレ音楽を世界的な舞台で表現する責任とプラットフォームがあることに気づいたのだ。


ハワイのいとこの結婚式でコディと再会した後、兄弟はパームスプリングスに向かった。そこで、父親のクリス・ニールソン(サックス/フルート)とUMOの長年のメンバーであるジェイク・ポートレイトの協力を得て、14曲のシンガロング・アンセム、シネマティック・インストルメンタル、お茶目なポップソングを通して、ルーバンが熟考していたすべてを結集し、Vを組み上げていった。「ハワイでは、私や私の音楽から、すべてがシフトしていきました」と彼は回想している。


「突然、私は他の人が何を必要としているのか、家族の中で自分の役割は何なのかを考えることに多くの時間を費やすようになりました。それにまた、自分では真実だと思っていたことが、思っていたよりも大きなものであることも知りました。


私のちょっとしたいたずらの仕方は、私だけのものではなくて、ポリネシア人としての側面がある。しばらく家族のことに集中するために音楽から離れると思ったけど、結局のところ、この二つはつながったんだ」