Review - Metallica  『72 Seasons』

 Metallica  『72 Seasons』

 

 

Label :  Blackened Recording Inc.

Release: 2023/4/14


 


Review

 

昨年、メタリカは『ライド・ザ・ライトニング』にちなんだ特製ウイスキーを"Blackened"という会社から販売したが、このとき、おそらくメタリカも他の多くのメタルバンドと同じように、過去のアーカイブの中や人々の記憶の中のみで生きるバンドになっていくのだとばかりと考えていた。ところが、実際はそうはならなかった。これはプロレスの壮大な前フリのようなもので、今年になって待望の11作目のアルバム『72 Seasons』をちゃっかり録音し、発売を控えていたことが判明したのである。つまり、メタリカは伝説の中で生きることを良しとせず、現在を生きる屈強なメタルバンドであることを選択したということである。タイトルの72の季節というのは、ラーズ・ウィリッヒとジェイムズ・ヘッドフィールドのメタリカはメタルシーンの最前線を疾走するバンドであるということを対外的に告げ知らせようとしているのである。

 

思い返せば、80年代のNWOHMの一角としてシーンに名乗りを挙げたメタリカだったが、その後には、スレイヤー、アンスラックス、メガデスを始めとするスラッシュ・メタルの先駆者として80年代から、『Master Of Puppets』、『Ride The Lightning』といったスラッシュメタルの傑作を残し、その後の90年代、グランジやオルタナ、ヘヴィ・ロックが優勢になろうとも、表面的な音楽性の変更は行ったものの、他のどのバンドよりもメタルであることにこだわったのがメタリカだった。そして、近年は以前に比べ、その勢いやパワフルさが若干鳴りを潜めていたのだが、2023年の最新作『72 Seasons』は彼らが未だ最盛期の渇望を失っていないことをはっきりと表しているように思える。

 

すでに、イギリスのメタル系の雑誌、Kerrang!とMetal Hammerのデジタル版では、レビューが掲載されているので、その結果をお伝えしておく。イギリスで最も売れるマガジン、ケラング!は4/5、一方のメタルハマーは3.5/5のスコアを記録している。他にもNMEにもレビューが掲載されており、星4つを獲得している。メタル・ハマーは辛めの評価であるが、近年ではパンク/ハードコアを中心に取り上げているケラング!の方が評価が高いというのは少し意外である。


『72 Seasons』は改めて聴くと、基本的にはメタリカの原点回帰を図った作品であることが分かる。意外なのは、アルバムの中盤か終盤に収録されていた叙情的なメタルバラードが収録されていないことである。おそらくバンドの念頭にはダークなメタルバラードを収録することもあったかもしれないのに、あえてそれをしなかった、ということに大きな意義があるように思える。

 

スラッシュ・メタルの代名詞であるザクザクとした歯切れのよいギターリフ、そして、基本的には8ビートであるにもかかわらず、ウルリッヒのもたらすプログレッシヴ・メタルのような変則的な構成が、80年代よりも前面に突き出された作品というのが、『72 Seasons』の個人的な解釈である。つまり、メタリカは80年代に自分たちが何をやっていたのかを思い出し、それを現代的なレコーディングの俎上で何が出来るのか、ということを試したのである。そして結果的には、バラードなしのメタリカらしい屈強なメタルで最後までグイグイ突き通すのである。

 

メタリカは、特にフロントマンのジェイムズ・ヘッフィールドが謙遜して述べているように、「ならず者が集まってできた」のである。そして、現代のメタルシーンの音楽とは関係なしにならず者としてのメタルの集大成をこの作品で示そうとしている。それはタイトル曲「72 Seasons」に目に見えるような形で現れている。ハーレーで突っ走るようなスピード感、そして、アウトサイダー的な雰囲気、そして、今なお衰えないヘッドフィールドのパワフルなボーカル、そして、屈強さと叙情性を兼ね備えるツインリード・ギター、これらのメタリカを構成する主要なマテリアルが渾然一体となって掛け合わさり、唯一無二のサウンドが出来上がったのだ。

 

これまでの個人的な印象としては、メタリカは強者やマッチョイズムに象徴されるようなバンドだった。しかし、今回、彼らは、近年、所属団体がトルコへの義援金を寄付したりと慈善的な活動を行っている。そして、それはバンドの埒外で行われていることではなく、アルバムの収録曲にも反映されており、「Screaming Suicide」では、自殺の危険に瀕した人々へもしっかりと目を向けている。相変わらずの屈強なサウンドではあるのだが、それは同時に単なるヒロイックなマッチョイズムではなく、弱者の心を奮い立たせるべく、彼らはこの曲で奮闘している。メタル・ヒーローのあるべき姿である。

 

はじめにスラッシュ・メタルの原点に回帰する意図があったのではないかと述べたが、一方で、90年代のグランジやヘヴィ・ロックに触発された音楽性も加味されている。一般的には、バンドとして苦難の時期でもあった90年代の『Load』のサウンドメイクを彷彿とさせるワウを噛ませたアメリカン・ロックが、タイトル曲、「Lux Æterna」、そして、さり気なく凝ったメタルサウンドに取り組んでいる二曲目の「Shadow Follow」あたりに乗り移っているのである。乗り移っているというのは、彼らが意図してそうしようとしているのではなく、レコーディングやセッションで自然な形でそうなっていっただけ、という感じもするのである。

 

『72 Seasons』は一貫して、ヘヴィロックやパンクロックに触発されたスラッシュ・メタルという形で展開されていく。この潔さについては作品全体に重みとパワフルさという利点をもたらしている。一方で、アルバムの終盤、そのパワフルさが鳴りを潜めているのが少し惜しまれる点か。しかし、近年のアルバムの中では白眉の出来である。80年代の名作群や、90年代の二部作にも引けを取らない内容となっている。

 

この歴史の浅いサイトの評価軸の一例として、もし仮にヘヴィ・メタルとしての100点が出るとするなら、オジー・オズボーンの「Blizzard Of Ozz』、スレイヤーの『Reign In Blood』、メタリカの『Master of Puppets』、『S&M』、ハロウィンの『Keeper of the Seven Keys Pt.1&2』、アイアン・メイデンの『Number Of The Beast』、もしくは、アーチ・エネミーの『Burning Bridges』、セパルトゥアの『Roots』、スリップノットの『IOWA』といった名盤を挙げておく。

 

『72 Seasons』は、そこまでの超弩級の作品ではないにしても、少なくとも、メタリカの復活、スラッシュ・メタルの復権を高らかに告げるような意味が込められており、佳作以上の意味を持つ聴き応え十分のアルバムである。ひとつ補足するならば、他のバンドがだんだんとメタルではなくなっていき、ロック/ポピュラー化していく中で、メタリカだけは現在も他のどのバンドよりも”メタルバンド”であることにこだわり続けている。そして、それこそが、結成40年を経た2023年になっても、彼らが世界中から大きな支持を集める理由なのではないだろうか??

 

 

86/100 

 

 

Featured Track 「72 Seasons」