【Weekly Music Feature】 Indigo De Souza 「All of This Will End」   オルタナティヴ・ロックの注目作  彼女の人生の中で最も共鳴する瞬間を収める 

 Weekly Music Feature 


Indigo De Souza



Indigo De Souzaは3rdアルバム『All of This Will End』の制作について、「やっと自分を完全に信頼することができました」と語る。


全11曲から構成されるこのニューアルバムは、生々しく、そして根本的にポジティブな作品であり、死というもの、コミュニティがもたらす若返り、そして今自分を中心に据えることの重要性に取り組んでいる。

 

これらの曲は、幼少期の思い出……、パーキングロットでの自分探し……、友人とアパラチアの山や南部の沼地を歩き回った恍惚とした旅……、そして自分自身のために立ち上がらなければならなかった時など、彼女の人生の中で最も共鳴する瞬間から生まれています。「All of This Will Endは、私にとってこれまで以上に真実味を帯びた作品です」と彼女は言うのです。


インディゴは、最近のインスピレーションをコミュニティと安定性から得ています。「つい最近まで、私の人生は混沌としていた」と彼女は言う。

 

「今、その混沌の多くは私の背後にあります。今、私には素晴らしいコミュニティがあり、住んでいる場所が大好きで、深いつながりと喜びを追求する本当に素晴らしい人たちに囲まれています。私の音楽は、中心にある内省的な場所から生まれているように感じられます。オープニングの "Time Back "は、私が大切にしている必要な前進の勢いを扱っています」


心地よいシンセサイザーに乗せて、"自分を置き去りにしているような気がする/泣くのにも疲れた/だけど、もう一度立ち上がりたい "と歌っています。その後、このオープニングトラックは、見事なアレンジの上で彼女のボーカルが爆発的に広がりを見せる。「機能不全や悲しみに陥ったり、他人に傷つけられることを許したり、境界線を持たないこともある」と彼女は言います。「私の人生には、それが多かった時期があった。このトラックは、自分自身に、本当の自分に戻ることについて話す方法だと思った」 


1曲目に込められたすべてを包み込むような感情とともに、アルバムの最後をドラマティックに飾るのは、インディゴ自身がリードシングルとして選んだ、ハートフルでノスタルジックなクローザー曲「Younger and Dumber」。この曲は彼女がアルバムのために最初に書いた曲のひとつで、若い頃の自分に語りかけるように始まったのです。


自分の音楽が初めて形になり始めた頃について書いていたのですが、その頃は人生で最悪の時期でもあり、なおかつまた今までで一番不安定な時期でもありました。

 

この曲は、何も知らなかった若い頃の自分に敬意を表して書いたんです。私は人生の中で空回りし、何かを定着させようとし、この世に存在することに折り合いをつけようとしていたんです。


やさしく囁くように始まるこの曲は、彼女が "私が感じる愛はとてもリアルで、あなたをどこへだって連れていける "と歌うように、次第にカタルシスと爆発的な雰囲気へと展開していく。経験と癒しによってもたらされる明晰さで、インディゴは過去の自分を大切に扱っています。


この曲が彼女の中からすぐに溢れ出てきたことで、創造力を取り戻したインディゴと彼女のバンドは、Any Shape You Takeを手がけたプロデューサー兼エンジニアのアレックス・ファーラーと共にアッシュビルのDrop of Sun Studiosに向かいました。


「私たちはとても意気投合しました。有機的なエネルギーの流れを持っていて、お互いに本当にインスパイアされていると感じていた」と彼女は言う。


衝撃的な「Wasting Your Time」や骨太なシングル「You Can Be Mean」は、バンドが今もなお反抗的であり、ロックインしていることを強調しています。


後者では、「あなたは良い心を持った人だと思いたいけど、あなたのお父さんはただの嫌なやつだったの」というセリフがありますが、インディゴは「私を振り回した最後のひどい男の話」についてだと語っています。

 

ギタリストのデクスター・ウェブとドラマーのエイヴリー・サリヴァンを中心に、バンドにアレンジを任せていますが、これらの曲は彼女自身のビジョンから生まれています。


「今回は、より自分自身に忠実で、他人のアイデアで自分の曲を形作ることを拒否した」と彼女は述べています。「また、デクスターが彼のフリーキーなエイリアンのギターヴォイシングを完全に表現することができ、なおかつプロダクションでより大きな役割を果たすことができたので、本当に特別な感じがしています」


『All of This Will End』は、人間のあらゆる複雑な感情を歌のなかに込めています。痛みや悲しみがあるのは確かですが、全体を通して逞しさの勝利の精神が窺えます。例えば、シングル曲の「Smog」は陽気でダンサブルな曲で、日々の単調な生活から抜け出すことで得られる爽快感を歌っています。また、父親との関係を掘り下げた「Always」のように、きわめて内省的な曲もある。


しかし、シングル「The Water」では、親友を訪ねた幼少期の思い出を、成長すること、そして人間関係の脆さについての瞑想へと変貌させている。プログラムされたドラムビートに乗せて、インディゴは歌う。"I think about what it was like / That summer when we were young and you did it with that guy in his car." (その人とはもう子供の頃ほど親しくはないけれど、回想することには力がある)、と。


また、『All of This Will End』は、多くの意味で、インディゴの個人的なモットーになっています。「毎日、これが終わりかもしれないと思いながら、わたしは目を覚ます」と言う。「それを悲しいことと見ることもできるだろうし、本当に貴重なことと見ることもできる。今日、私は生きていて、いつかはもうこの体にはいない。でも今は、生きていることで多くのことができる」


全体を通して、受け入れることの安らぎがある。タイトル曲で彼女が歌っているように、「私はただ愛することだけを貫き、最善を尽くしている/時には、十分でないこともあるけれど、私はまだ本物だし、許すわ」


インディゴ・デ・ソウザはこの曲を書いた時の体験を「マジック」と表現しています。言葉やメロディに至るまで、そのすべてが時代を超えた無形のものと感じられ、それをひたすら書き留めていったのです。また、彼女の母親がアルバムのジャケットに描いた赤やオレンジの色合いのように、『All of This Will End』は、彼女にとってより暖かく、大胆な変革期を象徴づけています。


それは、過去から感謝に満ちた現在の時間へと恐れずに前進すること、一歩一歩すべてを感じつつ、愛に満ちた意識を体現することを選択することをシンガーソングライターはこのアルバムのなかで表明しているのです。



『All of This Will End』 Saddle Creek

 

 

これまでの二作のアルバムの中で、インディゴ・デ・ソウザは、内面的な人間関係における不安や葛藤、それに対する深い芸術的な眼差しを捧げてきました。


幼い頃、プスースパインという土地柄と反りが合わなかった母親は、程なく家族とともにその土地を後にしますが、アッシュビルに転居した頃、インディゴ・デ・ソウザは母親の勧めでソングライティングを始めました。当初は、ガレージで演奏を始め、それはやがて現在のインディーロックという音楽のスタイルの素地となる。そして、この頃のDIYの音楽スタイルは現在でもデ・ソウザの音楽の核心を形成しています。たとえ、バンドという形式に変化したとしても、そのスタイルは何ら変わりがないのです。

 

これまでの二作と同様、ドクロのようなモンスターのイラストワークをかたどったアルバムのカバーアートの方向性は引き継がれています。 そして、どことなくシュールな感覚とユニークな感覚が掛け合わされたようなデザインもしかり。しかし、以前の二作のアルバムと比べると、音楽のアプローチはその延長線上にあるとはいえ、若干異なっています。以前よりも音楽のバリエーションは広がりを増し、わかりやすい曲と抽象的な曲がせめぎ合うようにして混在し、三作目のアルバムの奇妙で摩訶不可思議な世界を作り出しているのです。

 

オープニングトラックである「Time Back」は、ダイナミックなシンセポップを基調とする魅力的なナンバーであり、 この曲はまた2010年代のセイント・ヴィンセントの音楽性を想起させるものがあります。キャッチーなメロディーについては旧作と同様ですが、時に、アバンギャルドなダークアンビエントの要素を部分的に散りばめています。アンセミックなインディーポップではあるものの、時にアバンギャルドの性質を持ち合わせていることが分かる。これまでのデ・ソウザの音楽性の中であまり見られなかった試みのように思えます。


しかし、続く「You Can Be Mean」では、旧来のエグ味のあるオルタナティヴロック路線に回帰しています。ダイナソー・Jr.のJ Mascisのような骨太のファズギターは、旧来のアーティストのファンを安堵させることに繋がるでしょう。ギターロックとしてのアプローチはスネイル・メイル、サッカー・マミーの音楽性にも近く、現在の米国のオルタナティヴのトレンドとなるインディーロックを痛快に展開させていきます。

 

そして、これまでのシューゲイズ/インディーロックの要素の他に、今作はアルバムのカバーアートから見ても分かる通り、アメリカーナの影響が色濃く反映されているようです。


そのことをはっきりと印象づけるのが三曲目の「Losing」であり、インディゴ・デ・ソウザはオルト・ポップのトレンドをなぞらえつつも、フォーク/カントリー、アメリカーナの要素をセンスよく散りばめています。それが実際の音楽から匂いたつ何かがある理由でもある。この曲でシンガーソングライターは、ノリの良さを重視しながらも、ワイルドな雰囲気を漂わせることに成功しているのです。そしてデ・ソウザのボーカルは以前よりも温和で親しげになっています。これがアルバムの序盤で、リスナーにとっつきやすさをもたらす要因となるかもしれません。

 

ただし、どうやら旧二作の要であったシューゲイズの音楽性が完全に途絶えてしまったわけではないようです。


4曲目「Wasting Your Time」において、デ・ソウザは、相変わらず刺激的なシューゲイズ/オルタナティヴサウンドを提示し、旧来のギターロック性が鳴りを潜めることはありません。更に、インディゴ・デ・ソウザは、それらの苛烈なディストーションサウンドとインディーポップの爽快なサウンドを交互に配置し、らしさのあるサウンドを作り出しています。 パンチがありながら清涼感を失うことのない絶妙なサウンドを、このナンバーで十分体感することが出来るはずです。

 

序盤の4曲は簡潔性を重視しており、あえてダイナミックな波を設けず、短い曲として淡々と続いていきますが、続く5曲目の「Parking Lot」もまたその点については変わりありません。インディゴ・デ・ソウザは、スネイル・メイルやサッカー・マミーのデビュー当時の音楽性を彷彿とさせる、シンプルなオルタナティヴ・ロックでリスナーの興味を惹きつける。 


そして、ここではパーキングロットでの自分探しという、インディゴらしいシュールなテーマをそつなく織り交ぜ、米国南部の固有のジャンルであるアメリカーナへのロマンチシズムを交えた魅惑的なギターロックを緩やかに展開していきます。そして、時折、曲の中に導入されるバックバンドのシンセサイザーは音楽そのものへの親しみと淡いノスタルジアすら喚起させるのです。

 

続くタイトル曲では、まったりとした甘いインディーポップでロックサウンドの間を上手い具合に補っています。しかし、シンプルなバラードの質感に近いサウンドは、以前の作品の音楽性よりも深さと円熟味を感じさせる。

 

続く「Smog」は前曲の雰囲気を強化するトラックであり、同じような旋律やコード進行を踏まえ、オープニングトラックと同様に、ディスコサウンドを加味したシンセポップ でリスナーの気分を盛り上げてくれる。アルバムの中では最も捉えやすい一曲で、力強いバックビートがデ・ソウザの清涼感のあるボーカルを強く支え、聴き応え抜群のサウンドが生み出されています。ソングライティングの特性が押し出された楽曲ですが、バックバンドとの強い結束力がこのトラックをポップバンガーのような輝きをもたらしているようにも感じられます。 

  

さらに「The Water」は、アルバムの中でのハイライトであり、とりわけ、シンガーソングライターとしての大きな成長を感じさせます。インディゴ・デ・ソウザのほのかなギターヒーローへの憧憬とインディーポップへの親しみという2つの性質が合致を果たし、稀有な音楽性が生み出されています。 


 

「The Water」

 

 

ここでは、オルタナティブロックの基本形を踏まえつつ、エモなどでおなじみのホーンセクションとシンセサイザーのひねりの効いたメロディーを交えることにより、インディゴ・デ・ソウザの代名詞となるシュールなインディーロックサウンドが確立されています。

 

続く、「Always」は、グランジのように静と動を織り交ぜたトラックであり、内省的なサウンドと4曲目のような苛烈なディストーション/ファズサウンドを対比させています。ここには、デ・ソウザというアーティストの本質的な姿、つまりみずからがギターロックのヒーローであることを表明しているかのようです。この曲の後半では、アバンギャルドな領域へと踏み入れていき、メタルコアやノイズコア寄りの音楽性を取り入れつつ、刺激的かつ煌びやかなロックサウンドを探求しています。

 

これらの多彩なジャンルを踏まえたバリエーション豊かな複数の楽曲を提示したのち、残りの二曲では今作の重要なテーマとなるアメリカーナやカントリーの影響を織り交ぜた珍らかなインディーロックソングへとインディゴ・デ・ソウザは歩みを進めていきます。とりわけ、キュートなインディー・ポップのイントロから劇的なサイケデリックポップへと様変わりする「Not My Baby」は、クライマックスにかけて、独特な世界へと繋がっていく。モリコーネサウンドに象徴づけられるマカロニ・ウェスタンを思い起こさせる映画のサウンドトラックの影響を反映し、それを神秘的かつ瞑想的な世界へと繋げていきます。この曲は、以前のデ・ソウザのソングライティングの性質とは異なり、その歌自体についても、スピリチュアルな何かを帯びています。


さらに続いて、クローズ曲を飾るアルバムの制作の出発点ともなった「Younger & Dumber」でも、インディゴ・デ・ソウザは変化を恐れることはありません。ここではスティール・ギターをセンスよく取り入れたカントリーの影響を取り入れたバラードソングを披露しています。それはもちろん、このシンガーソングライターの幅広い音域を持つ歌により、楽曲のドラマティック性が最大限に引き上げられることになるのです。また、こういったセンチメンタルな歌をうたい、本当の姿を曝け出すことをまったく恐れないことが、アーティストとしてのささやかな成長にも繋がっているわけです。

 


86/100

 


 Weekend Featured Track「Younger & Dumber」


 

 

 

Indigo De Souzaのニューアルバム『All Of This Will End』はSaddle Creekより発売中です。