Overmono 『Good Lies』
Label : XL Recordings
Release: 2023/5/12
Review
ダンスミュージックとしては先週の最大の話題作。Overmonoの最新作でデビュー作でもある『Good Lies』は、これから暑い季節になってくると聞きたくアルバムなのではないか。このアルバムでデュオが生み出すビート、そして仄かなメロディーラインは今夏の清涼剤として活躍しそうだ。
トム、エド・ラッセル兄弟は現在はロンドンを拠点に活動しているが、元々はウェールズの出身。若い時代からダンス/エレクトロミュージックの制作に勤しんできただけあってか、このアルバムには彼らのクラブミュージックへの愛情、そして情熱が余すことなく注がれているように思える。またデュオは今作を通じて、車の中で楽しめるダンスミュージックを制作しようと試みた。
その結果がこのデビュー作に表れている。国内のダブステップやブレイクビーツシーンのDJとして鳴らしてきたデュオは、キャッチーなサウンド、わかりやすいサウンド、そして乗りやすいサウンドをこの1stアルバムを通じて提示している。
一曲目はどうやらあまり評判が良くないらしいが、それでも二曲目の「Arla Fearn」では、彼らが実際のフロアでどのようなサウンドを鳴らしてきたのかが目に浮かぶようである。ブレイクビーツを基調にして、ベースラインやダブステップの要素を交えたコアなダンスミュージックは、一定の熱狂性に溢れ、そして涼し気な効果を与えてくれる。
これらのコアなグルーブ感の他に、デュオはサイモン・グリーンと同じように、僅かなメロディー性をリズムのなかに散りばめている。それがわかりやすい形で体現されたのがアルバムのハイライトのタイトル曲「Good Lies」で、ボーカルのメロディーラインと合わさり、軽快なダンスミュージックが提示されている。そして彼らが述べているように、車のなかでBGMとして流すナンバーとしては最適のトラックといえるのではないだろうか。
全般的にはボーカルを交えたキャッチーなトラックが目立ち、それが彼等の名刺がわりともなっている。だが彼らの魅力はそれだけに留まらない。
その他にも二つ目のハイライト「Is U」では、ダブステップの要素を交えたグルーブ感満載のトラックを提示している。同レーベルから作品をリリースしているBurialが好きなリスナーはこの曲に惹かれるものがあると思われる。そして、それは彼らのもうひとつのルーツであるテクノという形へと発展する。この曲の展開力を通じ、ループの要素とは別にデュオの確かな創造性を感じ取ることができるはずである。
更にユーロビートやレイヴの多幸感を重視したクローズ曲「Calling Out」では、Overmonが一定のスタイルにとらわれていないことや、シンプルな構成を交えてどのようにフロアや観客に熱狂性を与えるのか、制作を通じて試行錯誤した跡が残されている。これらのリアルなダンスミュージックは、デュオのクラブフロアへの一方ならぬ愛着が感じられもし、それが今作の魅力になっているように思える。
75/100