Foo Fighters 『But Here We Are』/ Review

 Foo Fighters 『But Here We Are』

 

 

Label: Roswell Records Inc.

Release:  2023/6/2

 

Review

 

デイヴ・グロールがRCAのインプリントとして95年に設立したRoswellから発売となった「But Here We Are--だが、私たちはここにいる」という名を冠したフー・ファイターズのアルバムは、 タイトルからも分かるように、2022年3月に惜しまれつつ亡くなったテイラー・ホーキンスへの追悼の意味を込めた作品である。いまだに彼の追悼コンサートでの彼の息子のシェーン・ホーキンスの素晴らしいドラムの演奏が目にありありと浮かぶ。あの時、バンドには選択肢がいくつかあった。テイラー・ホーキンスを代えの効かない唯一無二のドラマーとしてフー・ファイターズを封印するという可能性もなくはなかった。しかし、バンドは以前とは別のバンドになると思うが、活動を継続すると発表した。結局、それをしなかったのは、フー・ファイターズというバンド自体が、友人の死、そして、コバーンの弔いの意味から95年に出発したグループであるからなのだと思う。そして、おそらく、テイラー・ホーキンスの死後になって、フー・ファイターズの未知の音楽を聴きたいというファンの思いは、さらに強まったともおもわれる。結局は、デイヴ・グロールは旧来のファンの期待を裏切るわけにはいかなかったのだ。

 

しかし、「これからは全く別のバンドになるだろう」というバンドからのメッセージは、この最新作を聞く限りでは、むしろ良い意味で期待を裏切られることになる。実際、アルバムを聞くまでは、旧来の作風とは異なる内容かと思ったのだけれども、正直なところ、95年のデビュー・アルバムから受け継がれたフックの聴いたアメリカン・ロックの方向性にそれほど大きな変更はないように感じられる。95年から2000年代初頭にかけて、フー・ファイターズは、実質的に94年にジャンルの終焉を迎えたとされるグランジの後の世代、サウンド・ガーデンやアリス・イン・チェインズを始めとする、以前の時代から活躍してきたヘヴィ・ロックバンドの穴埋めをするような形で、親しみやすく、シンガロング性の強いアメリカン・ロックのカタログを残してきた。さらに、その表向きのポスト・グランジとしてのヘヴィ・ロックバンドの表情の裏に、エモーショナルなメロディーや淡い情感を、それらのパワフルな性質を持つ楽曲の中にそれとなく組み入れてきた。そして、驚くべきことに、従来はアルバムの収録曲の中盤に据え置かれてきた印象もあったそれらのエモーショナルな楽曲は、今やバンドにとっての最大の強みと成り代わり、隠しおおそうともせず、また、いくらか恥ずべきものとして唾棄するでもなく、アルバムのオープニング「Rescued」のイントロを飾ることになった。これは例えば旧来のフー・ファイターズのファンを驚かせるような結果となるのではないか。95年から20数年間において、これまでパワフルなロックバンドとしての勇姿をファンの前で示しつづけてきた印象もあったけれど、もはや、テイラー・ホーキンスの死後に至り、フー・ファイターズは内省的なロックソングを彼らの作品の矢面に立たせることを微塵も恐れなくなったのである。

 

アルバムのオープニングを理想的に飾ったのち、二曲目の「Under You」以降は、これまでの音楽性を踏まえたフー・ファイ・サウンドが全開となる。まるで数年間休ませておいたエンジンを巻き、アクセル全開で一気に突っ走っていくような軽快なエネルギーにあふれている。そして、彼らの新しいサウンドを待ち望む世界の無数のロックファンの期待に応えるべく、フー・ファイターズは万人に親しめるアメリカン・ロックの精髄を叩きつける。誤魔化しは存在しない。たとえ泥臭いと思われようと、不器用とおもわれようと、まったくお構いなく、自分たちの信ずる8ビートのシンプルで直情的なロックンロールを純粋にプレイし続けるのだ。

 

しかし、このアルバムがフー・ファイターズの代名詞であるアメリカン・ロックを主眼に置いているからといって、彼らが新しいサウンドを提示していないというわけではない。タイトル曲「But Here We Are」には新生フー・ファイターズとしての片鱗が伺え、変則的なリズムを配し、近年で最もヘヴィーな瞬間へと突入する。この曲にはオルタナティヴ/グランジの後の時代のタフな生存者として活躍してきたロックバンドとしてのプライドが織り込まれており、これはまた90年代以降のヘヴィロックの流れをその目で見届けてきたロック・バンドとしての意地でもある。そしてこのロックソングはホーキンス亡き後のバンドとしての力強い声明代わりになるとともに、バンドにとっての新しいライブ・アンセムとなってもおかしくないような一曲だ。


その後、アルバムの冒頭の「Rescued」で読み取ることが出来るエモーションは、90年代のグランジの暗鬱な情感と複雑に絡み合うようにして強化されていく。「Show Me How」ではサウンド・ガーデンのクリス・コーネルが書いたような瞑想的なグランジ・サウンドを現代に呼び覚まし、それを深みのある形に落とし込んでいる。しかし、グランジを下地に置くからといって、それほど暗澹とした雰囲気はほとんど感じられず、そこにはからりとした乾いた質感すら漂っている。これはデイヴ・グロールのソングライティングの才覚が最大限に発揮された瞬間と称せる。そのあと、アメリカのロックバンドとしての印象はアルバムの後半に至るほど強まっていき、それは80年代のナイト・レンジャーのようなメタリックな雰囲気すら帯びるようになる。

 

テイラー・ホーキンスの追悼の意味合いは、クライマックスに至るとより強まり、クローズド・トラック「Rest」でさらに鮮明となる。90年代や00年代のオルタナという彼らが三十年近く親しんで来たお馴染みのスタイルを通じて、神々しい雰囲気の曲調で盟友の死を弔わんとしている。しかし、「レスト」のあとに「イン・ピース」を付けなかったのは理由があり、フー・ファイターズとして、この世にやるべき何かが残されていること、彼らの旅がこれからも続くことを暗示している。不器用なまでに「アメリカのロックバンド」としての姿に拘りつづけること、古いスタイルと指摘されようとも恐れず勇敢に前進し続けること、それが今日もフー・ファイターズが幅広いファンに支持され、愛されつづける理由でもあるのだ。正直なところをいえば、ケラング誌が満点を出したのも納得で、近年のアルバムの中では白眉の出来栄えとなっている。


 

85/100

 

 

 Featured Track「Rescued」