Diners 『Domino」/ Reiview

 Diners 『Domino」

 

 

Label: Bar None

Release:2023/8/18

 

 

Review


 

バンドの名を見ても分かる通り、アメリカのプレハブ・レストラン''Diner''に象徴される懐古的なインディーロックを追求するのがDiners。

 

アリゾナを拠点とするブルー・ブロデリックによるプロジェクト。かつて、The Shivvers、The Nerves,The Scruffs、The Rubinoos、The Recordsといったパワーポップ/ジャングルポップのバンドが数多く活躍していたが、Dinesも同じく、これらの系譜にある古き良きUSインディーロックのメロディーの甘酸っぱさを追い求めている。ダダリオ兄弟によるプロジェクト、The Lemon Twigsもこれらの系譜にあるバンドと言えるだろうか。


上に挙げたバンドは少なからず、The Beach Boys、Cheap Trickの良質なメロディーラインをその影響下においているが、Dinersとて例外ではない。シンプルな60年代及び70年代のヴィンテージロックに搭載される甘酸っぱい感じの青春味のあるコーラスワークは、米国の古典的な西海岸ロックを象徴している。これらの音楽にホッと安心感を覚えるリスナーも少なくないと思う。

 

それに加えてDinersの音楽性には、アルバムのオープナー「Working On My Dreams」で示されているように、The Knackに近いアメリカン・ロックの影響も含まれているように思える。それはThe Bugglesの「Video Killred The Radio Star」と同じようにMTVの華やかな時代の象徴的な名曲「Oh Tara」に近い。それほど、しゃちこ張らずに、ゆったりと聴けるインディーロックソングが、このアルバムの1番の魅力となっている。それはもちろん、現代的なトレンドの音楽とはまったく異なる普遍的なUSロックの旨味が凝縮されていると言えるだろうか。

 

Dinersのパワー・ポップ/ジャングルポップへの熱狂性には一方ならぬものがある。もっと言えば一筋縄ではいかない。あちがち、2023年から見た1960年代への単なる懐古主義やアナクロニズムとは断定しづらい。ダイナーズの音楽性は、過去のサウンドの焼き増しというわけではなく、その雰囲気をリアルな感覚としてどう呼び覚ますかという点にある。さらに言えば、過去にそれらの音楽的な文化性を埋没させたくないという点に主眼が置かれている。つまり、Dinersが60/70年代のパワー・ポップを、米国の文化性の一つと解釈しているからなのかもしれない。

 

そのことは、タイトル曲である#2「Domino」を聴けば理解できる。The Byrdsをはじめとする西海岸のロックのリズムを取り入れ、それらにアレックス・チルトン率いるBig Starのブルースやカントリーの要素を含めたパワー・ポップ/ジャングル・ポップとして昇華させている。実際、聞いていると、少し調子はずれなコーラスを交えた音の中には60/70年代の雰囲気が立ち込める。レコードでしか聞くことが叶わなかったアナログのロックサウンドの魅力が呼び覚まされている。

 

他にも、少し風変わりなパワー・ポップの世界が展開される。例えば、「So What」では同じように、60/70年代の甘口のポップが展開される。サウンドのプロダクションの面では現代的なローファイの要素が重視されている。これがサブ・ポップのBeach Houseのようなサイケの側面と絡み合う事で、絶妙なサウンドが確立されている。また、AntlersやReal Estateが2010年代頃に、もたらしたUSのビンテージサウンドへの憧れを、現代的なインディーロックソングとしてパッケージするという手法である。これらの面妖なサイケ・サウンドにはサンフランシスコのグレイトフル・デッドとは別軸にあるおしゃれでスタイリッシュな印象が引き出されている。


USインディーの最深部にある軽妙な甘口のパワー・ポップは、現代的な性質と懐古的な性質の中間にある、きわどいサウンドへと変遷を辿る。#3「Someday I 'll Go Surfing」は、ベン・クックによるプロジェクト、Young Guvの良質なメロディーセンスにより彩られる。特に、メジャーコードに部分的に導入される単調のコードは、Weezerのリバース・クオモが「Buddy Holly」等で好んで取り入れていたが、こういったパワー・ポップの王道のコード進行をプロデリックは取り入れながら、軽やかで聴きやすい、まったりとしたロックミュージックへと昇華している。

 

#5「The Power」では、Tom Petty、ZZ Top、The Allman Brothersに象徴されるような渋いサザンロックの旨味を取り入れ、現代のThe Lemon Twigsのような甘酸っぱいポップサウンドへと転回させる。サビは朗らかで、リック・ニールセン擁するCheap Trickのデビューアルバムのカラフルなポップ・サウンドを彷彿とさせるが、その中には独特なメランコリーな雰囲気が含まれている。まさに年代を問わないエバーグリーンな憂愁がサビのメロディーラインを形成している。


#6「Painted Pictures」ではブルーズのセッションに近いが、その中にはキース・リチャーズの弾くようなブギーのリフの旨味が取り入れられている。しかしローリンズ・ストーンズの最初期のサウンドではなく、どちらかと言えばThe Byrdsのような渋いロックサウンドが展開される。ボーカルのメロディーラインの甘酸っぱさはそれらのブルーズのほんの飾りのようなものである。


これらのサウンドはアルバム終盤に至ると、まろやかなインディーロックサウンドに近い方向性を辿っていく。「I Don't Think About You~」では、アンディ・シャウフに近いインディーロックサウンドの気安さがある。その後、「From The Pillow」では、バロック・ポップをスタンダードなパンクサウンドにセンスよく落とし込み、Three O' Clock、Sliver Scooterのような旧来のマニアックなパワーポップ・サウンドとして展開させる。ここにはサザン・ロックの雰囲気も漂う一方で、Flamin’ Grooviesのような原初的なマージー・ビートの影響もわずかに感じられる。



「Your Eyes Looks Like Christmas」はブルー・ブロデリックのソングライターとしてのセンスが遺憾なく発揮されている。ビリー・ジョエルの静かで普遍的なバラードを思い起こさせ、甘いノスタルジアに浸ることができる。前の曲の余韻を補うようにして、アルバムのクローズ「Wisdom」ではアレックス・チルトンのカントリー/フォークを下地にした良質なソングライティング性を受け継いでいる。捉え方によっては、 アイルランドのギルバート・オサリバンのバロック・ポップの駆け下りていくコードラインへの賛美代わりになっていると言えるだろう。パワー・ポップとしては、隠れた名盤扱いとなっても全然不思議ではないユーモラスなアルバム。

 

 

77/100