Fiddlehead 『Death Is Nothing To Us』-New Album Review

 Fiddlehead 『Death Is Nothing To Us』

 


 

Label:  Run For Cover

Release: 2023/8/18



Review


今週、新宿ACBでライブを行ったボストンの五人組のポスト・ハードコアバンド、Fiddleheadの最新作をご紹介します。


現在、アメリカのパンクシーンでは、依然としてエモーショナル・ハードコア・バンドが強烈な印象を放っている。一例では、Narrow Head、Militarie Gun,Home Is Where、Drug Church、Origami Angelを始め、数多くのバンドが各地で活躍している。もちろん、フィドルヘッドも、そのアメリカのパンクシーンの筆頭格に挙げられる。

 

プレスリリースによると、Discord  Recordsに端を発するレヴォリューション・サマーに触発されているとの話。実際聴いてみると、シンプルなベースライン、硬質なギターラインの掛け合いは、イアン・マッケイ擁する、FUGAZIの1990年代のポスト・ハードコアを彷彿とさせる。(ドロップ D?)チューニングのギターのヘヴィネスは、Jimmy Eat Worldの最初期、Fall Out Boy、Strike Anywhere周辺のエモーショナル・ハードコアバンドのアプローチに近い。



『Death Is Nothing To Us』はそのほとんどが2分弱、長くとも3分の曲で占められている。バンドの演奏力は傑出しており、メンバー間の連携の取れたアンサンブルが繰り広げられる。音楽性は、メインストリームでもなく、アンダーグランドでもなく、その中間にあるエモコアサウンドに属する。


オープニング「The Deathlife」は、爽やかで存在感のあるメロディック・パンクサウンドが全開である。一見、勢いのみで突っ走っているようにも聞こえるかもしれないが、念入りにスタジオで作り込まれたハードコア・サウンドは、少なくとも一度聴いて飽きるような代物ではないと思う。パンチ力、力強さ、フック、アンセミックな展開を一分弱の中に無理やり凝縮したようなサウンドが魅力的だ。ドラムのタム回しは、強いインパクトとドライブ感をもたらしている。


 

「Sleephead」は、カッティング・ギターの後、静と動を織り交ぜたエモーショナル・ハードコアが展開される。ヘヴィーなギターラインと対象的に、パット・フリンのボーカルがエモさを醸し出す。Perspective,a Lovely Hand To Holdの「Mosh Town USA」を思わせる内省的な面と激情的な面がせめぎ合っている。これらのエモコア・サウンドをアンサンブルとしてリードしているのがドラムで、タイトなスネアとタムの迫力あるヒットが激烈なインパクトをもたらしている。



「Loserman」はシンプルかつストレートなメロディック・パンクで、パット・フリンのシンガロングを重視したボーカルは淡いエモーションを漂わせる。Fall Out Boyを思わせるオーバーグラウンドのエモサウンドとしても楽しめる。後半ではフリンの咆哮が熱っぽい雰囲気を生み出している。

 

「True Hardcore (Ⅲ)」は、Helmet、Mission Of Burmaに象徴される実験的なポスト・ハードコアの性質が強い。イントロのギターのハーモニクス、オーバー・ドライブ/ファズを掛けたベースラインの後、パンチ力の強いメロディック・ハードコアが展開。パット・フリンのボーカルは、ライブのオーディエンスを熱狂させる感染力を持っている。安定感があり、他のパートを圧倒するパワフルなドラムは、曲にドライブ感を付与している。さらに、曲の後半では、やはりシャウトを交えつつ、エモーショナル・ハードコアのマニアックな領域を探ろうとしている。


 

続く「Welcome To The Situation」も同様に、上記のポスト・ハードコアバンドに触発されたと思われるアクの強いサウンドを展開させる。それとは対象的にフリンのボーカルは、エモーショナル性を漂わせている。ここでは、FUGAZIのイアン・マッケイのようなノイジーな面とは別の内省的な感情がボーカルに乗り移っている。これらの激情性と内省的なサウンドの対象性は、Jimmy Eat Worldが最初期において試していたこともあってか、ほんの少しだけ古びているような印象もなくはない。それでも、フィドルヘッドの音楽には、洗練された趣があり、一定の聴き応えがある。途中のボーカルのシャウトに関しては、Midwest Emoの原初的なサウンドを思い起こさせる。

 

 「Sullenboy」はポスト・ハードコアの最初期の時代に立ち返っている。前半部の曲に比べると単調にも思えるが、曲の終盤にて面目躍如となる。熱量を詰め込んだハードコアはスクリーモに近い性質へと変化し、一定の熱狂性をバンド・サウンドの中に留めることに成功している。アウトロのシャウトのコーラスに関しては、レヴォリューション・サマーの時代の狂乱を刻印している。

 

これらのパワフルなハードコア・サウンドの渦中にあって、静謐な印象を残す曲も収録されている。中盤のハイライトとなる「Give It Time(Ⅱ)」は、フィドルヘッドのポスト・ロックに近い一面が表れ出ている。たとえば、Mineral(Christie Front Drive)に象徴されるクリーントーンのギターのアルペジオを中心とした曲は、癒やしの瞬間ともなりえる。現行のポスト・エモの音楽性に属する、聴きやすさとマニアックさを兼ね備えた一曲として楽しむことができるはず。


 

その後、「Queen of Limerrick」ではシンプルなポスト・ハードコアに回帰している。アルバムの前半と同じく、FUGAZIとエモーショナル・ハードコアを直結させたアグレッシヴなサウンドが目眩く様に展開される。

 

「The Woes」もHot Water Musicをはじめとするメロディック・ハードコアの熱狂性が蘇る。サビに関しては、ライブでシンガロングやモッシュピットを誘発することは間違いない。もちろん卓越した演奏力があるからこそ、こういった安定感のある楽曲としてパッケージすることができるのだろう。



「Fiddlehead」は、テクニカルなベースラインを取り巻くようにして、Helmet、Mission Of Burmaを彷彿とさせるポスト・ハードコアが展開される。しかし、ここには、ノイジーなハードコアとは別の虚脱という側面が示され、バンドのソングライティングにおける引き出しの多さが伺える。その後、フィドルヘッドらしいアンセミックなハードコアへと変遷を辿る。終盤でのシンガロングは、彼らの最もメロディックかつエモーショナルな性質が現れ出た瞬間となる。



本作は全体的に抜群の安定感があり、メロディック・ハードコアの良盤として楽しめる。実際のライブでは、バンドの熱狂性がより身近に伝わることだろう。音源としての評価は抜きにしたとしても、ポストハードコア/メロディック・ハードコアに目がないリスナーは、必ずチェックしておくべし。

 


80/100 



ワシントンDCのレーベル、Discord  Records関連のガイドは、以前に特集としてご紹介しております。詳しくは、DISCHORD RECORDS TOP 10 ALBUM DISCHORD 名盤ガイドをご参照下さい。





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