The Hives 『The Death of Randy Fitzsimoons』
Release: 2023/8/11
Review
スウェーデンのロックンロールの伝道師は、20年の歳月を経て再び輝きを取り戻しはじめている。
The Hivesのライブは一度この目で見届けている。それは2000年代始めのガレージ・ロックリヴァイヴァル華やかりし時代に遡る。同日、出演したバンドでは、The StrokesとThe Hivesのカッコよさが傑出していた。スリーコード主体のあきれるほどシンプルなロックンロールだが、なぜかバンドとしては輝いて見えたほどである。
以後、これらのガレージロック・リヴァイヴァル勢は、ソロ活動に転じる場合もあり、他のバンドで活動する場合もあり、リバティーンズも現在、ライブという局面では活躍している。唯一、ホワイト・ストライプスだけはジャック・ホワイトのソロ活動で、その威信を示し続けている。ストロークスに関しては、新作アルバムの噂があったが、しばらくは期待出来ないかもしれない。
しかし、この20年を通して、他のガレージロック・リヴァイヴァルに属する象徴的なバンドが多少なりともモデル・チェンジを果たす中、ザ・ハイヴスだけはロックンロール・バンドとして変化することを拒絶している。たとえ時代に取り残されようとも、彼らは「成長することが良いとはかぎらず、ロックンロールは成長するものではない」という趣旨のコメントを出している。
その言葉は真心から発せられたと分かる。オープニング「Bogus Operandi」では最高傑作の一つである「Veni Vidi Vicious」の頃のクレイジーな熱狂性を取り戻そうと努めている。それはある側面では功を奏し、ロックンロールの醍醐味や、ひねりのあるフックを呼び覚ますことに成功している。しかし、楽曲制作やレコーディングの側面での成長を拒絶しているのかといえば、全くそうではない。以前のように、ハイヴズはフレーズの反復性を一つの特徴としているが、稀に移調を交えながら、反復性に変化を及ぼそうとしている。ただ、それは表向きには強調されてはいない。ガレージ・ロックの醍醐味であるシンプルな音楽性が一貫して提示されていると言える。
他にも、ロックアルバムとして聴き逃せない部分もある。オリジナル・パンク時代のチャントに近いシンガロングを取り入れようとしたり、ロカビリー色を付け加え、バンドとして工夫を凝らし、新たなフェーズに突入しているという印象も受ける。「Riger Mortis Radio」では、オアシス風のロックにも挑戦し、ライブのセットリストという観点から聴き応え十分の曲も収録されている。
ただし、アルバムというより、アリーナの観客を熱狂の最中に取り込むようなアンセミックな響きが重視されている点については、ライブ・バンドの宿命として逃れがたいものであるのかもしれない。特に、「The Way The Story Goes」は、明らかにライブでのシンガロングを狙った痛快なロックソングの一つであり、上記の収録曲と合わせて、アルバムのハイライトになりえる。
一方で、アルバム発表時のプレス・リリースの成長しないというコメントが偽りとまでは言わないが、これらのハイヴズらしいストレートで直情的なガレージロックと合わせて、シンセサイザー交えた実験的なロックがアルバムの後半に収録されていることは注目に値する。
「The Bomb」では、中南米の音楽のパーカッシヴな要素を交え、彼ららしいノイジーなサウンドのを提示している。これは以前にはなかった要素であり、バンドとして新しいステップへと歩みを進めた証拠でもある。また、「What Did I Ever Do To You?」でも奇妙なダブ風のロックに挑戦している。これはバンドが新たにポスト・パンク的なアプローチに挑んだ瞬間ではないか。
ただ、アルバムの最後は、やはり、ハイヴズは直情的なロック・ナンバー「Step Out Of The Day」で終了し、旧来のファンの期待に応えようとしている。以前よりもパンク性が強まった点については、プレスリリース通り、ロック好きの悪ガキであり続けたい、という彼ららしいメッセージ性を感じる。こういったパワフルさは貴重であり、正直、他のベテラン・バンドにはなかなか求めづらいものだ。実際、アルバムの全編には初期衝動における若々しいエナジーが迸りまくっている。
74/100