Monthly Music Reports:  11月の注目の新作リリース、アーティストをピックアップ 

  Spector (UK)


 

今年も後残すところ2ヶ月。1月から約一年間途絶えていた新作アルバムの月例報告を復活します。

 

12月は新作が多くないのでお休みするかもしれませんが、11月は注目のリリースが目白押し。今年、二作目のリリースとなるBar Italia、ジャック・ホワイトの設立したデトロイトの"Third Man"からデビュー作をリリースするHotline TNT、イギリスの新進気鋭の若手ロックバンド、Spector、「カバーの女王」とも称されるCat Powerによるボブ・ディランのロイヤル・アルバート・ホールのライブ再現アルバム、Pinkpantheressの新作アルバム、Danny Brownの新作アルバム等にも注目でしょう。

 

 

・ 11月3日発売のアルバム

 

 Sen Morimoto  『Diagnosis』 - City Slang



現在はシカゴを拠点に活動するセン・モリモト。City Slangはロンドンのシンガーソングライター、Anna B Savegeから、ミニマル/グリッチの象徴的なプロデューサー、Caribou、またNada Surf、Calexicoに至るまで新旧の注目のバンド、アーティストが数多く所属している。

 

今年は、同レーベルのアトランタ/シカゴのラッパー、Mckinly Dicksonのトム・モリソンの小説に因んだデビューアルバム『Beloved! Paradise! Jazz!?』を週末のディスクにご紹介していますが、それに続く森本仙の新作『Diagnosis』は、グノーシス主義に題材を取ったものなのでしょうか。森本さんはソロアーティストではありながら、ライブではコレクティヴのような形態で陽気なパフォーマンスを繰り広げる。


ラップ、ソウル、ファンク、ポスト・ロック等、シカゴのミュージック・シーンらしい雑多な音楽性が今作の最高の魅力となりそうです。さらにアーティストはファンカデリックのような音楽を目指しているとか。


 

Bar Italia 『The Twits』- Matador

 



ニューヨークのベガース・グループの傘下であるMatador Recordsから「punkt」という名曲を引っ提げて衝撃的なデビューを飾ったロンドンの再注目のトリオ、Bar Italia。現行のインディーロックシーンを見渡すと、何かやってくれそうな予感がある。なんでも聞くところによると、海外の音楽業界に精通する日本人の方が、Matadorのスタッフと話した際に、「期待の若手のバンドはいますか」という問いに対して「Bar Italia」と即答だったという。このあたりの話は半信半疑で聞いてもらいたいんですが、実際に『Tracy Denim』を発表後、徐々にコアなオルトロックファンの間でこのバンドの名が上るように。数ヶ月前のニューヨークでの公演もそれ相応に好評だったのではないでしょうか。当初は、「秘密主義のバンドである」とThe Queitusが評していますが、昨日、遂にイギリスの大手新聞”The Guardian”にインタビューが掲載され、いよいよカルト的なバンドの領域の外に出て、イギリス国内でもそろそろ人気上昇しそうな雰囲気もある。

 

Bar Italiaのサウンドの持ち味はローファイな雰囲気、シューゲイズのギター、ガレージ・ロックのようなプリミティヴな質感にある。おそらく、Televisionのようなプロト・パンクにも親和性がある。特に、インディーロックとして画期的なのは、曲自体は反復的な構成を取りながら、メインボーカルが入れ替わるスタイル。最新公開されたアルバムの先行シングル「Worlds Greatest Emoter」を聴く限りでは、底しれない未知数の魅力があり、今後どうなっていくのかわからないゆえに期待感がある。『The Twits』にも、バンドの成長のプロセスが示されることでしょう。ロンドンの音楽やカルチャーの奥深さを象徴する素晴らしいインディーロックバンドです。



Kevin Abstract 『Branket』/ RCA

 



ブロックハンプトンの創設メンバー、テキサス出身のラッパー、ケヴィン・アブストラクトの最新作『Branket』についても、ラップ/インディーロックファン問わず注目しておきたいところでしょう。

 

さて、2019年の『Arizona Baby」に続く作品は、プロデューサーのロミル・ヘルマーにマルチ・インストゥルメンタルリスト、ジョナ・アブラハムと制作された。意外にもケヴィン・アブストラクトはエモ、グランジ、オルタナティヴロックからの影響を挙げており、「サニー・デイ・リアル・エステート、ニルヴァーナ、モデスト・マウスのようなレコードを作りたいと思った」と説明しています。「でも、ラップアルバムのように作りたいという思いもありました」


 

・11月10日発売のアルバム



Cat Power  『Cat Power Sings Dylan: The 1966 Royal Albert Hall Concert』/ Domino

 



キャット・パワーはカバーの女王なる異名をとりながらも、オリジナル曲も素晴らしい。コットニー・バーネットと並んですごく好きなアーティスト。ただ、近年、カバーをライフワークとして考えているのは事実のようで、最初の難関となったのが、ボブ・ディランの伝説のコンサートの再現でした。

 

このコンサートは、ディランがエレクトリック演奏に移行したワールドツアーの一環として行われたもので、この公演のブートレグには、数日後にロイヤル・アルバート・ホールで行われと誤って記載されていた。1998年に2枚組アルバムとして正式にリリースされた際には、「The Bootleg Series Vol.4: Bob Dylan Live 1966, The "Royal Albert Hall" Concert」とまで言われた。

 

このアルバムについて、キャット・パワーは次のように説明しています。「他のどのソングライターの作品よりも、ディランの歌は私に語りかけ、5歳の時に初めて聴いて以来、私にインスピレーションを与えてきた。過去に "She Belongs To Me "を歌うとき、私は時々一人称の物語に変えていた。『私はアーティスト、振り返らない』ってね。でも、ロイヤル・アルバート・ホールでの公演では、もちろん原曲通りに歌いました。作曲と偉大な作曲家への敬意を込めて」

 

 

Daneshevskaya 『Long Is the Tunnel』/ Winspear




今後、注目したいブルックリンのシンガー、Daneshevskayaダネシェフスカヤ)。 インディーポップの範疇にあるソングライティングを行いながらも、ミニマルな枠組みの中にはシューゲイズ風の轟音のギターサウンドが織り交ぜられたかと思えば、インディーフォーク調の和らいだソングライティングを行う。確認出来るかぎりでは、2020年にデビュー・シングルを発表後、Winspearと契約。「Somewher In The Middle」をリリースした後に、このデビューフルレングスが発売される。

 

アルバムの制作にはModel/ActrizのRuben Radlauer、Hayden Ticehurst、Artur Szerejkoの共同プロデュースによる7曲入りで、Black Country、New RoadのLewis Evansも参加している。曲の多くは「モバイルのGaragebandで書かれた」といい、必然的に「ループサウンドが多くなった」という。

 

 

 Chartreuse  『Morning Ritual』/ Communion Music

 


 

Chartreuseはイギリスのバーミンガム出身の要注目の4人組バンド。バンドのサウンドは、「アンビエント・ダーク・ポップ」とマネージメント会社のホームページで紹介されています。同時に彼らに影響を与えたフォーク、ソウル、ジャズといったジャンルのクラシックなサウンドの反映もある。

Chartreuseの結成メンバーは、マイケル・ワグスタッフとハリエット・ウィルソン。彼らは2013年に一緒にフォーク・ミュージックを書き始めた。そして2014年夏、リズム・セクション:ベースとキーボードのペリー・ロヴァリング、そして最後にドラマーのロリー・ワグスタッフが加わり、4人編成となった。ローリーとマイケルは兄弟で、ハリエットとペリーは幼なじみだとか。


新作アルバムからは四作のシングル「Whippet」、「All Seeing All The Time」、「Morning Ritual」、「Switch It On,Switch it Off」が公開されています。先行シングルを聴く限り、新感覚のインディーポップとして楽しめるかもしれません。




・11月17日発売のアルバム

 

 

Danny Brown 『Quaranta』 /Warp



今年は、Killer Mikeを始め、Mckinly Dickson、Mick Jenckinsのアルバムをレビューしてきましたが、最後のラップの期待作がダニー・ブラウンの『Quaranta』となるでしょう。ヒップホップは勉強不足のため、系譜的に言及するのが難しく、背伸びして書くしかないので困っている部分も。昨年、ロンドンのWu-Luに続き、デトロイトのダニー・ブラウンの「Quaranta」は2023年最後の期待作です。Warp Recordらしい巧みなエレクトロニックにブラウンのリリックがどのようなウェイブを描き、ドープな感じのフロウとなるのかに注目です。


さて、ダニー・ブラウンが何年も前から予告していた新作には、ブルーザー・ウルフ、カッサ・オーバーオール、MIKEがゲスト参加し、クエル・クリス、ポール・ホワイト、SKYWLKRがプロデュース。本作は、2019年の『Uknowhatimsayin¿』と3月にリリースされたJPEGMAFIAとのコラボアルバム『Scaring the Hoes』に続く作品となる。なとて素晴らしいアルバムジャケット!!

 

 

Water From Your Eyes 『Crushed By Everyone』 Remix /  Matador


 

ネイト・エイモスとレイチェル・ブラウンによるブルックリンのシンセ・ポップ・デュオ。今年の半ばにはソロで作品をぽつぽつとリリースしていたので、しばらく新作リリースはないのかと思いきや、先にリミックアルバムがリリースされる。

 

このデュオのオリジナル・アルバム『Crushed By Everyone』では、実験的な要素もありつつ、比較的親しみやすいインディーポップの要素も織り交ぜられていました。ネイト・ネイモスのプロデューサーとしての才質に加え、ドリーム・ポップ風のブラウンのアンニュイなヴォーカルの融合がオリジナリティーの高さを象徴づけていました。


同レーベルからのデビューアルバムはAkiraを彷彿とさせる近未来の漫画風のイラストレーションでしたが、リミックスも同様です。元あるオリジナルの素材を全く別の曲に変えてしまうプロデューサーとしてのネイト・エイモスのリミックスのセンスがどのような形で現れるのかに注目。

 

 

 

11月24日発売のアルバム 

 

Guided By Voices 『Nowhere to Go But Up』/GBV Inc.



 

12月は稀にサプライズのリリースがあるものの、(昨年はUKのLittle Simz。ベストリストに入れてほしいという要望をいただいたのですが、間に合わず入れられませんでした。スイマセン)ほとんどリリースが途絶え、ホリデー・シングルのリリースがある24日を越えると、海外のほとんどの音楽メディアが休暇を取り、静かになるのが通例です。大手新聞も基本的には同様のシフト。

 

11月の最終週にリリースされるUSインディーロックの王者、GBVの通算39枚目のアルバムはバンドのインプリントであるGBV.Incから発売。多作なバンドなので、長らくこのバンドの音源に触れてきたリスナーはアタリハズレのあるバンドということはなんとなく気がついているかもしれません。

 

ところが・・・、インドのシタールの演奏を交えた先行シングル「For the Home」を聴くかぎり、今までの作品と違うというのが率直な感想です。例えば、Pixiesがよりポピュラー性を厭わない世界的なロックバンドに進化したのと同じように、GBVも変化している最中なのかもしれません。アルバムジャケットもどことなく往年のアメリカの黄金世代を彷彿とさせるものがある。



Spector 『Here Come The Early Nights』/Moth Noise




2023年11月、最後にご紹介するUKのインディーロックバンド、Spectorは今後の活躍がとても楽しみな四人組。”In Right”という独立のマネージメントに所属、その全貌はまだ明らかになっていません。少しキャラクター性は異なるものの、Spectorもゆくゆくは、現在国内でライブ等で絶大な人気を獲得しているリバプールのSTONEのようになってもおかしい話ではありません。

 

11月24日に発売予定のこのアルバムは、2022年の「Now or Whenever」に続く作品。シングル「The Notion」でプレビューされています。ABBA、ブラー、ニック・ケイヴ等、様々な影響を受けたというスペクターは、アルバムのリリースを記念して、全国9公演のUKツアーに乗り出す予定。

 

「Here Come The Early Nights」について、バンドのフレッド・マクファーソンは次のように語っています。「前作よりも少し内省的なアルバムになったように感じている。曲はより愛を込めて書かれている。それにもかかわらず、もしかしたら今までで一番ラブソングが少ないアルバムになった」と。