【Weekly Music Feature】 C'mon Tigre  アフロジャズ、ロック、南米音楽をクロスオーバー   新鮮なプログレッシヴ・ロック・アルバム ”Habitat"

Weekly Music Feature


C'mon Tigre 『Habitat』 


 

 

・アフロジャズ、ロック、南米音楽で世界をつなぐ


約10年のキャリアを持ち、3枚のアルバムで高評価を得ているC'mon Tigreが、「Habitat」で音楽シーンに戻ってくる。9曲は、音楽とビジュアル・アートが常に影響し合い、未踏の実験的高みに到達するという、国際的な広がりを持つデュオ・プロジェクトの本質を余すところなく表現している。


この新しいディスコグラフィーの章は、特定のジャンルに属することを拒み、地球上のあらゆる場所からの影響を組み合わせ、前作に典型的なアフリカン・ジャズやエレクトロニック・スタイルの要素に、南米音楽からの新しいサウンドを加えている。


ジャンクなアンサンブルの中に、サウンドスケープとして浮かび上がるパノラマは、色とりどりの明瞭な生態系であり、動物も植物も、さまざまな形の生命が繁栄し共存する場所である。


レコーディングのコラボレーターも豪華だ。フェラ・クティの後継者であるセウン・クティのアフロビートから、サンパウロ出身の優れたブラジル人アーティスト、ゼニア・フランサの歌声、国際的な実験音楽の第一人者であるアルト・リンゼイ、イタリアのオルタナティヴ・シーンで最も興味深いシンガーソングライターのひとりであるジョヴァンニ・トゥルッピまで。


リスナーをエキゾチックで驚きに満ちた巡礼の旅へと誘う音楽の旅は、パオロ・ペッレグリン、ジャンルイジ・トッカフォンド、ハッリ・ペッチノッティ、ブギー、ジュール・ゲラン、エリカイルカネ、マウリツィオ・アンツェリといった作家やアーティストとともに、ビジュアル・アートの領域にもそのイメージを広げてきたグループのキャリアにおける基本的なステップだ。


録音には、他にも、ダニイェル・ジェジェリ、ドナート・サンソーネ(後者は「Twist Into Any Shape」のビデオクリップでLIAFロンドン国際アニメーションフェスティバル2022の最優秀ミュージック・ビデオ賞を受賞)、マルコ・モリネッリ(「Behold the Man」のビデオでLAFAロサンゼルス・フィルム・アワードやラスベガスのベガス・ムービー・アワードなど数々の国際映画祭で受賞)が参加。

 



 C'mon Tigre 『Habitat』/Intersuoni(Distrubute:Believe)


 

イタリアを拠点とするデュオ、C'mon Tigreによる最新作『Habitat』は、アフロジャズ、カリブ音楽、南米音楽、エレクトロ、ロックをリンクする一作。

 

このアルバムについて、C'mon Tigreは次のように説明している。「Habitatは、一見離れた世界をひとつにまとめ、それらの間に存在する緊密な相互関係を示す、音楽結合の力の証である」

 

アルバムはブラジル音楽に強く触発を受けており、リズミカルなルーツは、サンバやフォロにあるという。

 

アフロ・フューチャリズムの祖/フェラ・クティの子孫であるセウン・クティの参加は、彼らがロンドンのジャズ・コレクティブ、Ezra Collecctiveに近い指針を持ち、ジャンルそのものにとらわれずに活動していることを証立てている。これらのコラボレーターは、実際、地理的なギャップを橋渡しし、広大で広く離れたように思える世界が、実際は一つに繋がっていることを示している。

 

一昔前、米国にBuena Vista Social Club(ブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブ)というバンドがいたが、キューバーにルーツを持つメンバーがいたこともあり、陽気なカリブ音楽で一世を風靡した。このバンドは、JFKの時代から冷え込んでいた米国とキューバの関係を音楽的な側面で繋げる重要な役割を担った。

 

同じように、C'mon Tigreも又、そういった政治的な緊張を緩め、そして音楽の力でヨーロッパ、アフリカ、南米を繋げる役割を担っているといえる。

 

例えば、イギリスならイギリスらしい音楽、アメリカならアメリカらしい音楽、オーストラリアならオーストラリア、そして、日本なら日本らしい音楽というのが存在するが、カモン・ティグルの音楽はそのいずれにも属さず、徹底してコスモポリタニズムに根ざした音楽を奏でる。


このサード・アルバムでは、アフロジャズを中心に変拍子とブレイクを活用した音楽性が際立っている。そして、彼らがアフロ・ビートを基調とした脱西洋的な音楽観を重点においていることを踏まえると、その向こうにアフロ・フューチャリズムの継承者という重要なファクターが浮かび上がってくる。

 

アルバムは「Odiam」を除けば、すべてカモン・ティグルにより作曲/編曲が行われた。ジャズコレクティヴというよりもニューオリンズのジャズのビックバンドのような大掛かりの編成で録音が行われ、ダブル編成のドラム、トロンボーン/フレンチホルン、四人のボーカル、ダブルのアルトサックス、ヴァイオリン、木琴、チェロ/ビオラ、バリトンサックス、フルート、バスクラリネットという豪華な編成になっている。これらの楽団のような編成は、曲そのものが冗長になる場合もあるが、アルバムの録音全般にアンサンブルの妙をもたらしている。同時にライブ・アルバムのような強烈なエナジーに彩られた精細感のある秀作を生み出す契機ともなった。

 


1. 「Goodbye Reality」 

 

フレンチホルンとトロンボーンが足並みを揃え、この曲全体にカラフルな音響性をもたらしている。曲のベースにエレクトロを加え、アフロビートという礎に、ブラジル音楽に触発を受けた艶やかな女性ボーカルが加わる。この曲には、無数のアフリカ/南米音楽の要素が内在しており、目の眩むような多彩性に満ち溢れている。サルサ/サンバの陽気なリズムが途中から加わり、さらにマリンバ等の楽器が加わることで、音楽のお祭りのような様相を呈する。

 

リズムの転がり方も意外性に富んでいるが、何より南米音楽の気風が強く反映されているためか、ファニーな雰囲気が漂う。それでも、陽気さばかりが能ではない。そこには南米の孤独と哀愁も加味されている。まさにコロンビアのガルシア・マルケスに影響を与えたオラシオ・キローガの短編小説、あるいは『失われた足跡』で知られるカルペンティエルのような密林を想起させる。

 

鳥が海を泳ぎ、魚が空を飛ぶ奇妙な世界、すべてが見事に逆さまになっている生息地を想像しながら、耳を傾け、わたしたちが慣れ親しんでいる現実の概念を放棄することへのインヴィテーションとなるでしょう。

 

 

 

 

2.「The Botanist」 

 

アフロビートやアフロジャズを元に、ブラジル音楽を雰囲気を加え、サイケデリックロックふうにアレンジした一曲である。この曲では、セウン・クティがアルトサックスを吹きながら歌う。セウン・クティの声も渋さがあるが、その周りを取り巻くようにし、女性コーラスが華やかな雰囲気を与える。

 

序盤は、ミニマルなギターが70年代のハードロック/ファンクロック/サイケロックを想起させるが、そのソングライティングが予定調和に陥ることはないのが驚き。中盤からは、サルサ風のリズム、フレンチホルンとトロンボーンのハーモニー、それからマリンバが加わることで、渋さとしなやかさをもたらす。

 

女性コーラスワークの後のサイケロック風の乾いた質感を持つギター・ソロも奇妙な艶気があり、実際、失われたハードロックやサイケロックの最たる魅力の再発掘とも言えるかもしれない。


 

この曲は成長の本質のテーマを捉えており、カモン・ティグルの音楽はしばしば自己発見、変容、時間の経過というテーマを探し、無垢から経験への変容の旅を強調します。

 

人生の刻々と変化する局面に直面したときの受け入れと回復力を示しています。これは私達自身が緑豊かな庭園の一部であるかのように、自分の魂や心を大切にしようという誘い。

 

 

3. 「Teenage Age Kingdom」 

 

カモン・ティグルのエレクトロからの影響が色濃く出た一曲で、彼らはそれらをファンクやサイケの観点から処理している。分厚いベースラインに加え、ポリフォニー的に加わるドラムの組み合わせの妙が光る。

 

ボーカルは、アークティック・モンキーズ/QOTSA(Queen of The Stone Age)のボーカリスト、アレックス・ターナー、ジョッシュ・ホーミの哀愁を想起させる。しかし、これらのロック的なアプローチに意外性を与えているのが、シャッフルを多用したジャズ・ドラムのリズム、ファンクに触発されたベースライン、女性コーラスワーク、そして、ノイズを加味したエレクトロニクスである。

 

これらの複雑性は十代の青年の苦悩を表しているという。そしてハードロック/サイケロック風に思えた曲は中盤から、サルサ/フォロのリズムを取り入れ、南米のポップスへと変化していく。南米のエキゾチズム、そして、そこから匂い立つ雰囲気が十分に堪能出来る。 


 

自分のアイデンティティを見つけるティーンエイジャーの普遍的な課題に取り組んだ一曲です。

 

現代ブラジル音楽を代表するサンパウロ出身の傑出した、クセニアフランカとのコラボにより、この曲は若者が達成不可能なモデルに適応しようとする際に直面せざるを得ないプレッシャーについても言及している。

  


4.「Sixty Four Seasons」 

 

アルバムの序盤の重要なハイライトとなりえる。同じようにアフロビート/アフロジャズの影響を取り入れ、それらをロックとして処理した一曲である。


ここでもループ/ミニマルの構造を持つ細かなギターラインを緻密に重ねていき、流動的なドラムのシャッフルのリズムを取り入れることで、ファンクロック/ハードロックからプログレッシヴ・ロックに近いアヴァンギャルドな音楽へと移行していく。

 

前曲と同じように、ボーカルがフレンチ・ホルンやトロンボーンと組み合わさり、ジャズロック風の画期的な音響性を生み出す。もうひとつ注目しておきたいのは、カモン・ティグレは極力洗練性を避け、ジャンク・ロック風の荒削りなグルーブを重視していること。この曲では、失望から立ち直ろうとする際の不思議な力について歌われているという。


すべてが崩れ落ちそうになったときに立ち上がる能力について語る曲です。

 

彼は心を高くもち、欠けている部分を集めることの重要性について語る。なぜなら私達が帰る場所、私達を安心させ、バランスを再構築する避難所がそこにあるから。ジェームス・ブラウンのスタイルにインスピレーションを得た、パンチの効いたリズムとファンクの要素がこの曲に付与されています。

 

この曲のドラムは、DRBとして、知られるダニー・レイ・バラガンに託されました。サンディエゴ出身のドラマーであり、1990年代のファンク/ソウルの特徴的なダーティーなドラミングを継承することに情熱を注いでいます。

 

 

 

 

 

5.「Nomad At Home」

 

アラビア風のエキゾチックなボーカルで始まり、その後、アフロジャズの王道のアプローチへと移行していく。

 

マリンバのリズムや音階の楽しさ、そして、ホーンセクションやシャッフルのドラム、ウッドベースのようなジャズのベース、そしてアラビア風のボーカルが組み合わされることで、千夜一夜物語の音楽版とも言うべき摩訶不思議な音像空間が構築されていく。エレクトロニックの効果はもちろん、マリンバ、フレンチホルン/トロンボーンの華やかさが光る。

 

「Nomad At Home」は自分の場所で外国人のように感じるというコンセプトを追求しました。ダークな雰囲気のあるエレクトロニックソングです。

 

ボコーダーを通して声は距離と疎外感を与え、どこにも帰属しえないという経験を増幅させる。ジャズの影響と中東のサウンドが絡み合い、勇気と絶望を反映する正確無比の軌跡を描く。日々、命の危険を冒してまで移動しつづける人々……。「Nomad At Home」は、現実の感情的な重さを描写し、我々全員に深く影響を与える問題に注意を向けようとしています。

 

 

6.「Odiame」

 

アルバムの収録曲の中で唯一、カバー曲である。エレクトロニックと南米音楽の哀愁が絶妙に溶け合い、映画的なモノローグ風のボーカルがフィルム・ノワールの世界に近い音楽観を生み出している。

 

そこにジャズのドラミングが加わることで、ライブのような雰囲気を帯びる。スペイン語の語感の持つ美しさ、そしてそのパトスが十二分に感じられる。


この曲はエクアドルの歌手、フリオ・ハラミージョによって彼の母国で有名になりました。私達はよりフォークロア的な伝統性を重んじ、それを別の場所に渡し、より普遍的なものにしたいと考えました。



7.「Sento Un Morso Dolce」

 

スペイン語で「甘い噛みつきを感じる」の意。アルバムの中で最もダンサンブルでアップテンポなナンバーによりリスナーに快感と刺激を与える。


ベースラインやイタロ・ディスコのような分厚いビートを背に、プエルトリコのラッパー、Bad Bunnyのようにスペイン語のラップ/スポークンワードが乗せられる。そのビートをサルサやサンバのリズムが強化している。ときに、その中にジャングルにまつわるフォークロアや、民族音楽のパーカッションが取り入れられる。

 

「Sento Un Morso Dolce」は、イタリアが誇る輝かしい現代作家、ジョヴァンニ・トゥルッピの言葉に託された詳細な精神分析のセッションです。騒がしく非友好的な電子機器を伴い、無意識への小さな旅へとあなたを連れて行く。繰り返しを理解することが鍵となるでしょう。

 


8. 「Na Danca Das Flores」

 

アフロビートの雑多性やアフリカ音楽の開放的な空気感に満ちあふれている。特にアフロジャズのアンサンブルに欠かすことのできないフルートの演奏が他の曲よりも押し出されている。フルートのソロの魅力を引き立てるのは、マリンバやドラム、ベースのリズム、そして断片的なコーラスワークである。

 

この曲も他の収録曲と同様に、アフロジャズの基礎的なアプローチを軸に置いているが、新鮮な印象をリスナーに与える。チルウェイブ/チルアウトの要素を加味することで、新鮮な音楽が誕生している。曲の終盤ではよりサンバへの傾倒を見せ、南米の気風を強く反映させていることにも注目しておきたい。

 

 

この曲は、わたしたちの家ではなく、誰かの家への招待状です。それは世界共通言語でのもてなしの祭典であり、世界の扉を開く優しさのジェスチャーでもある。自分の世界に他の人もアクセス出来るようにする手だてでもあるでしょう。この音楽はブラジルのルーツとエレクトロ・ポップを融合させ、リスナーを予期せぬ場所へと連れて行く。

 

9. 「Keep Watching Me」

 

アルバムのクローズを飾るのは、アート・リンゼイが参加した「Keep Watching Me」。リンゼイは、大貫妙子や坂本龍一の作品、さらに、当初、ブライアン・イーノがプロデュースを行った『No New York』にDNAとして参加し、その後、実験音楽の重要人物として知られるようになった。


この曲で、アート・リンゼイは、奇妙な緊張感と集中性のあるギターラインに、ボーカルという形で参加している。曲の中に満ち渡る空虚感、及び虚脱したかのような感覚は、かなりシュールである。

 

私達が敬愛してやまないアート・リンゼイの声がフィーチャーされています。彼はここに甘さと儚さをもたらしている。

 

私達が最も気に入っているのは、現代社会では、あらゆる些細なことを常に監視されているなど、冷酷で残酷なテーマについて、優しく驚きを持って話すことができたことです。

 

私達が日頃対処しなければいけない醜さのすべてにまだ汚染されていないのが、人類の目です。音楽的にはこのアルバムを最後を飾るにふさわしいエンディングと考えています。



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