Khruangbin: A LA SALA - Review

Khruangbin 『A LA SALA』



Label: Dead Oceans

Release: 2024/04/05


 

Review


ヒューストンのR&Bグループ、クルアンビンはCoachellaへの出演を控えている。『A LA SALA』はアルバムのオープナーで示されるように、シンプルに言えば、安らぎに満ちたアルバムである。

 

2021年頃から多くのバンドに散見されたケースは、バンドアンサンブルの一体感を失いつつあった。しかし、徐々にであるが、それらの分離的な感覚も解消されつつあり、バンドらしい息の取れたサウンドが出てくるはずだ。


その手始めとなるのが、クルアンビンの『A LA SALA」となるかもしれない。クルアンビンのサウンドは全般的にはアフロソウルの範疇にあり、トミー・ゲレーロ(Tommy Guerro)のサウンドを彷彿とさせる。


もちろん、それだけではなく、レゲエ/ダブに近いギターサウンドやリズム、ヨットロックに比する安らいだトロピカルなサウンドというように、単一のジャンルでは語り尽くせないものがある。月並みな言い方になってしまうが、クロスオーバーサウンドの代表例となりえる。しかし、最新作に共通したサウンドの特徴があるとすれば、ホリー・クックの主要な楽曲に見出されるような”リゾート的な雰囲気を帯びたダブ/レゲエ・サウンド”と言えるかもしれない。ただ、クルアンビンはバンドであるので、スタジオのライブセッションの妙味に重点が置かれている。

 

アルバムで抑えておきたい曲を挙げるとすれば、3曲目の「May Ninth」がその筆頭となりそうか。ダブ風のスネアの一打から始まり、反復的なベースラインとフュージョンジャズに基軸をおいたギターサウンドがしなやかなグルーブ感を生み出す。そこに心地よいボーカルが合わさり、メロウなムードを生み出す。


クルアンビンのトリオが重視するのは曲の構成やロジカルではなく、スタジオのライブセッションから作り出されるリアルな心地良さ。ムード感とも言えるが、シンプルなスネアドラムとベースライン、フランジャーの印象が強いギターは見事な融合をみせ、アフロソウルを基調とする唯一無二のサウンドを丹念に作り上げていく。ライブセッションでの間の取り方やリズムの合わせ方など、演奏面では目を瞠るものがあり、それらはリゾート的な雰囲気を越えて、Architecture In Helsinkiの名曲「Need To Shout」のように天国の空気感にたどり着く場合がある。

 


前のアルバムがどうだったのかは定かではないが、アフロソウルやフュージョンの要素に加え最新作ではレゲエ/ダブのサウンドが強い印象を放つ。「Todavia Viva」はスネアのリムショットで心地よいリズムを生み出し、淡いダブサウンドを追求する。「Juegos y Nubes」は、Trojan時代のボブ・マーリーの古典的なレゲエをベースに、ライブセッションを通じて、心地よい音を探ろうとしている。


やはり「May Ninth」と同じように、ムード感が重視されていて、コンフォタブルな感覚を味わうことができる。正確な年代こそ不明であるが、60年代、70年代のファンクソウルをベースにした「Hold Me Up」はヴィンテージソウルに対する彼らの最大の賛辞代わりである。アルバムの終盤に収録されている「A Love International」では、セッションのリアルな空気感とスリリングな音の運びを楽しむことができる。この曲でもフュージョン・ジャズに焦点が置かれている。

 

アルバムの中にダンスフロアのクールダウンのような形で導入されているトラックが複数ある。例えば、「Farolim de Felguriras」では、ダブやアフロソウルをニューエイジやアンビエントのような形に置き換えていて面白い。その他、「Caja de la Sala」ではギターのリバーブやディレイのエッフェクトを元に、ニューエイジ/ヒーリングミュージックに近い質感を作り出している。


アルバムの終盤は、やはりトミー・ゲレーロを彷彿とさせるジャズとアフロソウルの中間に位置するコアなアプローチ。ただ、ライブセッションを重視している中でも、曲の起伏のようなものが設けられている点が今作の最大の特徴である。これはリスニングの際にもユニークさが感じられるかもしれない。アフロソウルをサティのフランスの近代和声と組み合わせたクローズ「Les Petis Gris」は新しい気風があり、ちょっとしたエスプリみたいなものを感じる。

 

このアルバムはムードや空気感やライブセッションの心地よさが追求されている。その点では、聴くごとに渋さが出てくるような作品と言えるかもしれない。 ソウルというより、レゲエやダブ、そしてフュージョンジャズに近いアルバムで、たしかにビンテージな感覚に満ちている。

 

 

78/100
 

 

 「May Ninth」