METZ 『Up On Gravity Hill』
Label: Sub Pop
Release: 2024/04/12
Review
Metzは2012年のセルフタイトルで名物的なパンクバンドとしてカナダのシーンに登場した。サブ・ポップの古株といえ、ガレージロック、オルトロック、ポストパンク等をごった煮にしたサウンドで多くのリスナーを魅了してきた。『Up On The Gravity Hill』はデラックスアルバムを発表したからとはいえ、依然としてバンドが創造性を失ったわけではないことを表している。
シューゲイズ風の轟音ギターを絡めたオープニング「No Reservation/ Loves Comes Crashing」を聴けば分かる通り、本作は近未来のテイストを持つオルタナティブロックサウンドが展開される。
ボーカルのフレーズにはエモーショナルな雰囲気が漂い、バンドの年代としては珍しくエバーグリーンな空気感を作り出すことに成功している。その中に、UKの現行のポスト・パンクに類するオルタナネイトなスケール、ノイズ、不協和音が縦横無尽に散りばめられる。もちろん、バンドがそういったサウンドを志向していないのは瞭然であるが、抽象的なギターのフレージングと合わせて、オルト・ロックの無限のサイケデリアに誘う。少なくともこのオープニングは、本作のリスニングに際して、相応に良いイメージを与えるものと思われる。
同じく、エモとまではいかないけれども、「Entwined(Street Light Buzz)」においてオルタナティヴの源流を形作るカレッジロックやグランジの魅力を再訪し、上記のオープナーと同じように、トライトーンを用いたスケール、ノイズ、協和音の中に織り交ぜられる不協和音という形で痛快なインディーロックを展開させる。また、Nirvanaの「Love Buzz」のクリス・ノヴォセリックに対するオマージュが含まれていて、それはオーバードライブを掛けたベースラインという形で、この曲にパンチとフックをもたらす。上記の2曲は、道標のないオルタナの無限の砂漠に迷い込んだリスナーにとってオアシスのような意味を持つ。また、この曲には、わずかにメタリックな香りが漂い、それは80年代後半のグランジロックがヘヴィメタルの後に始まった音楽であることを思い出させる。Mother Love Bone、Green Riverあたりが好きなリスナーにとってはストライクとなるだろう。
グランジサウンドに舵をとったかと思えば、ジョン・ライドン擁するP.I.Lのような70年代後半のニューウェイブサウンドが繰り広げられる場合もある。「Superior Mirage」は、P.I.LやDEVO、Talking Headsが実践したように、テクノサウンドとパンクサウンドの融合というポストパンクの原点に立ち帰っている。問題は、IDLESのような圧倒的な説得力があるわけではなく、サウンドがやや曇りがちになっている。「Would Tight」では、パール・ジャムを思わせるUSロックとグランジの融合に重点を置いているが、この曲もセルフタイトルアルバムのような精細感に乏しい。数時間放置した炭酸の抜けたコーラのような感じで、ちょっとだけ物足りなさを覚えてしまう。
ただ、METZのメンバーが新しいカタチの''ポスト・オルト''とも称すべき実験的なサウンドをアルバムで追求していることは注目しておくべきだろう。例えば「Never Still Again」ではギターサウンドの核心にポイントを置き、変則的なチューニングを交えながら、オルタナティヴに新風を吹き込もうと試みる。アルバムのクローズ「Light Your Way Home」ではカナダのミュージックシーンを象徴づけるポストシューゲイズサウンドに挑む。これらはMetzによる、Softcult、Bodywashといったカナダのミュージックシーンの新星に捧げられたさり気ないリスペクトなのかもしれない。
「No Reservation/ Loves Comes Crashing」