Benefits(ベネフィッツ)、スティーヴ・アルビニへの追悼曲「The End of The Radio」を発表  James Adrian Brownとコラボレーション


2023年、英国のアートパンクグループ、Benefits(ベネフィッツ)は、Portishead(ポーティスヘッド)の中心人物、Jeff Barlow(ジェフ・バーロウ)の主宰するレーベル、Invada Records(インヴァダ・レコーズ)から鮮烈なデビューを果たした。


ベネフィッツは、ミドルスブラで結成され、ボーカル/フロントマンのキングズレー・ホールは大学卒業後、美術館に勤務したのち、ベネフィッツを立ち上げる。当初、彼等は、ジェフ・バーロウに才能を見出してもらいたく、Invadaの本拠であるブリストルから車で数時間をかけてギグを見に来てもらったというエピソードもある。キングスレーは当時のことについて、自分たちのアピールは多少、誇張的であったかもしれないと回想している。しかし、少なくとも、彼等はシングルのリリースを一つずつ積み重ねながら、着実にステップアップを図ってきたイメージがある。Invada Recordsとの契約は彼らが積み重ねきたものの先に訪れた当然の帰結でもあった。


今、考えると、ベネフィッツはどこにでもいるありきたりのパンクバンドではなかった。彼等は、デビュー当時から荒削りなポストパンクを発表してきた。英国の古典的な印象を込めたシングルのアートワークも、バンドの存在感を示すのに一役買った。彼等は徐々にポストパンクの中にノイズを追加するようになり、ミドルスブラの都市生活に見出されるインダストリアルノイズに触発され、ライフスタイルやカルチャーという観点から独自の音楽体系を構築するに至った。


デビューアルバムのリリースが発表された時、キングズレーさんはベネフィッツの音楽が”パンクではない”とファンに言われたことに対して不満を露わにしていた。しかし、おそらく彼等の考えるパンクとは、判で押したような形式にあるわけではない。時には、エレクトリックの中にも、スポークンワードの中にも、アンビエントの中にもパンクスピリットは偏在している。要するにパンクという性質は、ファッションに求められるのではなく、スタンスやアティテュードの中に内在する。


彼はそれをみずからの経験を活かし、ニューヨークの伝説的な現代美術家であるジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングさながらに、スポークンワードを画材とし、音楽という無形のキャンバスに打ち付ける。彼のリリックの中に整合性を求めるのは野暮である。それはポロックの絵画に''どのような意味があるか''という無益な問いを投げかけるようなもの。キングスレーは、その時々、ふさわしい言葉を駆使し、効果的なフロウを構築してゆく。喩えるなら、それは古典的な英国の詩人が時代を経て、相異なる表現者として生まれ変わったかのようだ。


『Nails』は、当サイトの週末のアルバムとしてご紹介しましたが、コアな音楽ファンの間で話題沸騰となり、ベネフィッツはClashが主催する教会でのギグへの出演したほか、結果的には、英国最大級の音楽フェス、グラストンベリーにも出演し、バンドとしての影響力を強める要因となった。ちょうど一年前、『Nails』を最初に聴いたときの衝撃を未だに忘れることが出来ない。そして、実際、今聞いても、あのときの最初の鮮烈かつ衝撃的なイメージがよみがえるかのようだ。


デビューアルバム『Nails』は以前に発表された単独のシングルをあらためてフルレングスのアルバムとして録音しなおし、複数の新曲を追加録音。この録音は、ベネフィッツの出発となった「Warhouse」、「Shit Britain」、「Empire」、「Traitors」を中心に、全収録曲がシングル曲のようなクオリティーを誇り、スタジオの鬼気迫る雰囲気をレコーディングという形で収録している。


一触即発の雰囲気があり、次に何が起こるかわからない、驚きに充ちた実験音楽が最初から最高まで続く。取り分け、圧巻なのはクローズ「Counsil Rust」であり、ベネフィッツはノイズアンビエントとスポークンワードを鋭く融合させ、未曾有のアヴァンギャルド音楽を生み落とした。キングスレーの怒りに充ちたボーカルは、ドラムフィルを集めたクラスターの録音、スポークンワードスタイルのラップ、エフェクターとモジュラーシンセの複合からもたらされる無尽蔵のインダストリアルノイズの応酬、さらには、New Order、Portisheadの次世代のバンドとしてのエレクトロニック等と掛け合わされて、孤高と言うべき唯一無二のサウンドを作り上げる。

 

春先にデビューアルバムをリリースしたあとも、ベネフィッツは順調に活躍しており、国内やヨーロッパでのギグを行いながら、忙しない日々を送っている。昨年10月には、元Pulled Apart By Horsesのギタリストでエレクトロニック・ミュージシャンに転身したJames Adrian Brown(ジェームス・エイドリアン・ブラウン)との共同名義でのリミックス「Council Rust」 を発表した。


2024年最初のリリースは、音楽界の巨匠であり、アーティスト、エンジニアでもあるスティーヴ・アルビニへの追悼曲である。先日のシカゴの名物エンジニアが死去したという訃報を受けてから数時間のうち、ベネフィッツのキングスレーは、James Adrian Brownとのコラボレーションを行うことを決めた。両者が計画したのは、アルビニの楽曲を自分たちのテイクで再録音すること。キングズレーとジェイムズによるShellacの名曲「The End of Radio」の新しい解釈は、ホールの挑発的で感動的なヴォーカルとブラウンのサウンドスケープを劇的に融合させたものである。ここには『Nails』を”fuckin cool"と絶賛したアルビニに対するリスペクトが凝縮されている。


このニュースとコラボレーションを振り返り、ジェームス・エイドリアン・ブラウンは次のように語っている。


「アルビニは10代の僕に道を切り開いてくれました。これほどサウンド的に心地よく、興味をそそるものを聴いたことがなかった。初めてShellacを聴いたときのことは忘れられません。キングズレーとカヴァーをするというアイデアは、基本的にセラピーのようなもの。彼の作品に万歳!! RIP、アルビニ」


一方、ベネフィッツのキングスレー・ホールはアルビニの死去について次のように回想している。


「彼の芸術性、エンジニアリング、音楽業界内外のナビゲートという点で、計り知れないインスピレーションを与えてくれた。彼がツイッターのいくつかの騒々しいビデオを通じて、ベネフィットを支え、励ます存在になったことは、予想外であったと同時に驚きだった。真の天才でした」


このカバーシングルのダウンロード・セールスの全収益は、スティーヴ・アルビニの妻の慈善団体である'Letters to Santa'に寄付されます。ぜひ、Bandcampでその詳細を確認してみて下さい。

 

 


James Adrian Brown featuring Benefits 「The End of The Radio」