【Review】 Dehd -Poetry  シカゴのオルタナティヴロックトリオの快作

 Dehd 『Poetry』




Label: Fat Possum 

Release:05/10/2024

 

 

Review シカゴのオルタナティヴロックトリオの快作

 

三人組のシカゴのオルタナティヴロックバンド、DehdはBeach Fossils、Real Estate、DIIVのフォロワー的な存在と言えるかもしれない。彼らのインディーロックのニュアンスは現在のUSスタイルに合致しており、Packs、Why Bonnie、Wednesdayといった良質なオルタナティヴの系譜にある。

 

端的に言えば、サーフミュージックをオルタナティブロックに絡めるというスタイルは、ビーチ・フォッシルズのデビュー当時の音楽性を想起させることがある。特に、伝説的なギタリストDick Daleの影響を思わせる古典的なサーフミュージックの性質は、稀に、ダン・キャリーが手がけるWet LegやRoyal Otisのようなライトで緩い感じのポストパンクに近くなる瞬間があって素晴らしい。超越性や完璧性を追求するのではなく、少し砕けた感じのオルタナティヴロックに親近感を持つリスナーは少なくないはず。古臭いといえばそれまでだけど、オープナー「Dog Days」には三人組のほとばしるような青さが親しみやすいロックソングという形で展開される。

 

Dehdの作り出すインディーロックソングはどことなくノスタルジックな気分に浸らせてくれる。続く「Hard To Love」、「Mood Ring」はアルバムの序盤のハイライトで、シンガロングのフレーズとエバーグリーンな感じが掛け合わされ、軽快なイメージを持つロックソングが作り出される。


Dehdのギターサウンドは、ごく稀に轟音のフィードバックを活かしたシューゲイズのディストーション/ファズに縁取られることがある。「Necklace」は、それらをちょっとルーズな感じのアメリカーナと融合させている。ダウナーなボーカルも表面的なイメージとは異なり、渋みと深みを生み出す。ボーカルにはLou Reedからの影響が感じられ、アメリカのオルタナティヴの原点を思い出させる。それらが、Real Estate,Beach Fossilsが2010年代頃に確立したアルトフォークやサーフミュージックからの影響を絡めたロックソングを継承するような形で展開される。


もう一つのDehdの長所としては、曲ごとにメインボーカルが切り替わり、そのことが作風にバラエティ性をもたらしていること。「Alien」ではボーカルがアンセミックに掛け合わされ、バンドの一体感を生み出される。これがより強固なイメージを持つ音楽となれば理想的かもしれない。


続く「Light On」は、Violent Femmesを彷彿とさせるコアな音楽的なプローチを選び、ルーズかつ緩い感じのロックソングへと昇華させている。サビでのアンセミックなフレーズは親しみやすさがあり、それらの音楽的なストラクチャーを乾いた質感のあるシンプルなドラミングが補佐している。バンドのきらめきを感じさせるのは、ボーカルのフレーズにディストーションギターが溶け合い、純粋なエモーションを生み出す時だろう。さらに「Dist B」では、表向きから見えづらい形でボーカルのちょっとキュートなイメージが醸し出される。そこには、バンドによるセンチメンタルなエモーションの奔流を捉えることが出来る。拙さや弱さ、あるいは音楽が未完成であることは、時にバンドの強みになることがある。これらのマイナスの側面から生み出される純粋さは、経験豊富なベテランバンドにはなかなか生み出しがたい空気感でもある。

 

もしかすると、音楽的な知識の豊富さ、実際的な演奏技法の多彩さ、アウトプットの広範な選択肢を持ち合わせているかどうかは、Dehdの少しだけ斜に構えたクールな音楽を聴くかぎり、良い音楽を制作する際にそれほど重要なことではないのかもしれない。つまり、彼らは、対外的に言うべき言葉を内側に持っていて、ロックソングに乗せてシンプルに吐露しているに過ぎない。また、そういったもどかしい感じは若い年代のロックバンドを聴く時の醍醐味でもある。


「Knife」、「So Good」では、ややアヴァン・ポップのような音楽性が見え隠れしており、こういった音楽性が今後どのように変化していくのか、楽しみにしていきたい。しかし、中盤を過ぎても、相変わらず、Dehdは少し緩く着崩した''洒脱''ともいうべき軽妙な感覚に充ちたロックソングを提示している。「Don't Look Down」では、ビーチフォッシルズの最初期のライトな質感を持つ爽やかなロックが古典的なサーフミュージックと融合を果たす。そしてやはりシンプルなギターのアルペジオの合間を縫うようにして歌われるエバーグリーンなボーカルが穏和な雰囲気を生み出す。それに加わるビーチ・ボーイズ風の純粋なコーラスワークも良い感じ。歌詞についても、「下を向かないで/愛はあなたの周りにあるのだから……」という温かいビネットが心に残る。

 

ひとつ難点を挙げるとするなら、多少、これらの曲は終盤において少しバラエティの乏しさや作り込みの甘さを露呈する瞬間もあること。ただ、ローファイな質感を持つ「Magician」は彼らの魅力の一端が表れていると言える。いちばん興味を惹かれるのは、クローズトラックにおいて、瞑想的な響きを持つサーフ音楽をベースに新しいオルトロックのスタイルを構築していること。また、トリオの音楽にはスケーターパンクからのフィードバックを感じるときがある。

 

 

 

76/100

 
 
 

 Best Track-「Don’t Look Down」