Softcult 『Heaven』
Label: Easy Life Recordings
Release; 2024/05/24
Review
カナダの双子のシューゲイザーデュオ、ソフトカルトは、基本的にデビュー当時からシングルを中心に発表してきた。デュオの編成とは思えないほどの重厚なギターサウンドがプロジェクトの特徴となっている。
シューゲイザーというのは、My Bloody Valentineのケヴィン・シールズが述べているように、独立した音楽のジャンルを意味するのではなく、轟音のフィードバックノイズから発生するギターサウンドの抽象的な響きを示唆する。つまり、これは、ギターサウンドの特徴を音楽評論の側面から定義付けたものに過ぎない。
ソフトカルトのギターにはサウンドデザインのような要素が含まれており、また、苛烈なディストーション/ファズ・ギターからもたらされる音像に関しては、ドゥームメタルやアンビエントに近似するものがある。
ただ、デュオが''Riot Shoegaze''というジャンルを掲げて活動していることからも分かる通り、ソフトカルトの音楽性の中に、パンキッシュな性質が含まれていることは、ファンであればご承知のことと思われる。それらがアブストラクト、要するに抽象的なポップサウンドという形で最終的にアウトプットされる。パンクの影響下にあるシンプルなボーカルのフレーズは、近年、日本公演を行っていることからも分かる通り、実は大型のライブスポット向けの音楽でもある。
デュオの音楽には明確にフィードバックノイズを多用したシューゲイズのサウンドがある。それは90年代のMBV、RIDE、Slowdiveの次のポスト世代の音楽性の範疇にある。
例えば、Amusement Parks On Fire、Radio Dept.もしくはDIIVの最初期のようなポスト世代のシューゲイズサウンド。それに加えてソフトカルトのボーカルの最大の特徴は、Mewのような北欧のエレクトロポップの影響を受けた甘美的な雰囲気にある。ソフトカルトの音楽の魅力は厳密に言えば、スケールの進行やボーカルの旋律進行の巧みさにあるのではなく、ノイズアンビエントのような抽象性にあるというわけなのだ。
オープナーを飾る「Haunt You Still」は、Amusement Parks On Fireの「In Flight」のようなサウンドを彷彿とさせる。ドリーム・ポップの甘美的な雰囲気はコクトー・ツインズを彷彿とさせることもある。
「One Of The Pack」は姉妹が掲げるライオット・ガールという考えが上手く体現されており、ライブなどではかなりスリリングな熱狂を呼び起こしそう。 しかし、一方でそういった清冽なイメージは、ライトなポップネスやEvanescenesのようなニューメタルの後追いのようなサウンドに至ると、とたんに鮮烈なイメージが薄れて、旧態依然としたサウンドの中に絡め取られてしまう。プレスリリース等で、ラディカルな政治的な発言、政治信条、クイア・コミュニティに関するステートメントを率先して発信してきたソフトカルトだが、意外にも音楽的な側面では”保守的なバンド”に位置づけられる。
ただ、意外にも、実質的なデビューEPの最大の魅力は、シューゲイズとは異なる箇所に表れている。例えば、「Spiralling Out」のフェーザーをかけたグランジ風のギターは現在のオルタナティヴロックの中ではかなり良い線を行っていると思うし、それらがデュオの持つ独特な清涼感のあるボーカルのコーラスと溶け合った時、ようやくこのデュオが双子であったことを思い出させる。
そして、続く「9 Circle」では、Sigur Rosのようなポストロック/音響派の影響を感じさせるイントロに続いて、シャリッとしたギターが入ってくる瞬間はクールな雰囲気がある。その後のミステリアスな音楽的な効果、そして、サイレンスからラウドへとダイナミックに移り変わる瞬間も、ソフトカルトの抜群のセンスが滲み出ていると言える。しかし、これらのサウンドは、インクを水で薄めたような印象があり、オルタナティヴの核心にはいまだ至っていない。これはもしかすると、デュオという編成の弱点を埋めようとして重厚なサウンドを作り込んだ結果、落とし穴に入り込んだようにも感じられる。最近では、チープな音楽性を生かしたポストパンクバンドもそれなりに出てきているので、少し工夫すべき点が残されているかも知れない。
そんな中でも良質なメロディーを追求しようとする姿勢が、続く「Shortest Fuse」で花開いている。デュオの作り出すボーカルのハーモニーの美しさはメタルと結びついて、他のどのバンドにも求めがたいスペシャリティーに変容している。それらが少しゴシックの影響を受けたシューゲイズサウンドとして昇華される。特異なのは暗鬱なイメージから切ない情感が引き出されることである。
EPのタイトル曲「Heaven」は、デュオの描くユートピアのイメージが体現される。この曲にもデュオの抜群のメロディーセンスが繊細なハーモニーを生み出す。ダークアンビエント、ニューメタル、ポストロック/音響派、エモ、ドリームポップというように、複合的な要素を織り交ぜ、甘美的な音楽とは何かを示している。次作にも期待してます!!
Best Track- 「Shortest Fuse」