Cola - The Gloss : Review

 Cola  『The Gloss』

 

Label: Fire Talk

Release: 2024/06/14



Review

 

Colaは、ジャズ・フェスティバルに象徴されるモントリオールのシーンから必然的に登場したバンドである。Oughtの元メンバー、Tim Darcy(ティム)とBen Stidworthy(ベン)によって結成され、U.S.ガールズやブロディ・ウェストなどトロントの活気あるジャズ/エクスペリメンタル・シーンでセッション・ミュージシャンとして活躍。以降、エヴァン・カートライトが2019年の初練習後に加入。モダン・ジャズからの影響はエクスペリメンタルロック/マスロックとして昇華され、細やかな変拍子による曲構成が織りなす極めてハイレベルな演奏力が特徴である。

 

ColaはワシントンDCのディスコード・レコードからの影響を挙げている。これらはFugaziのような1980年代のパンクシーンのイマジネーション溢れるエクスペリメンタルロックを踏襲していることを象徴付けている。しかし、そういったキャッチフレーズを見ると、ハードなサウンドを想像してしまうが、Colaのサウンドはものすごく分かりやすく、耳にスムーズに飛び込んでくる。


確かにプレイの側面では、マスロック/エクスペリメンタルロックの系譜にある数学的な変拍子を取り入れている。しかし、その一方で、Strokesのシンプルかつスタイリッシュな構成が織りなすガレージ・ロックの影響が立ち現れる。つまり、バンド側から見ると、とてつもなくハイレベルな演奏なのだけれど、表向きのサウンドについてはキャッチーなサウンドが繰り広げられる。


ティム・ダーシーのボーカルに関しては、Strokesのジュリアン・カサブランカス、Televisionのヴァーレンの系譜にあり、インテリジェンスとクールさを兼ね備えている。例えば、ストロークスの最初期は、同音反復の多いミニマルの構成を持つアルバート・ハモンドJr.のシンプルなギターとカサブランカスのスタイリッシュなボーカル、それを背後からガッチリと支えるシンプルなリズムセクションが2000年代のロックのリスナーの需要とピタリと合致したのだった。


ある意味、モントリオールのColaは、ガレージロックのリバイバルサウンドの核心を聡く捉えている。しかし、問題点は、ミニマルな構成を持つギターロックを続けていると、演奏側としては飽きが来るという懸念にある。その後、ストロークスは、RCAからのリリースの時代、ガレージ・ロックからR&Bを踏襲した渋さのあるロックサウンドにシフトチェンジしたのだった。


そのところをColaはよく考えていて、彼らは、構成の中に変拍子というリズム的な側面からエフェクトを及ぼすことによって、バリエーションのあるサウンドに昇華している。これは、録音のマスタリングでエフェクトをかけるという固定観念を逆手に取り、ライブセッションを通じて編集的なロックサウンドとは何かを探求した作品と言える。ここには、モントリオールのジャズカルチャーのライブセッションを通じて音楽性を突き詰めるという考えが反映されている。

 

現在は、ひとしなみにロックといっても様々なスタイルがあり、また、あまりにも細分化されすぎているので、リスナーとしても本当に理想的なロックとは何かがよくわからなくなることがある。よく聞いている人ほど抱える悩み。しかし、どれほど細分化したとしても、理想的なロックとは何かと言えば、音を聴いてかっこいいか、痺れるか、ということに尽きるのかもしれない。最もクールな何かを端的に示したバンドが次世代のロックアイコンの座を掴むはずだ。少なくとも、モントリオールのColaは、時代の象徴にはならないかもしれないが、アンダーグラウンドレベルでは、かなりクールなサウンドを追求している。それは、三人組がジャズやパンクのような音楽に触発されながらも、ロックというシンプルなスタイルにこだわってきたことを意味する。


挨拶代わりの「Tracing Hallmarks」はフックのあるナンバー。Televisionの系譜にあるパンクもあるし、最初期のルー・リードのような斜に構えた感性をひけらかすこともある。ただ、それはロックミュージシャンに許される特権ともいえ、彼らのスノビズムは不思議なほど嫌味がない。実際的には、パンクでアクの強いロックサウンドが敷き詰められる。ベースのルート進行とギターのミニマルな構成、これらの融合は、ポエトリーな響きを持つカサブランカスの影響下にあるティム・ダーシーのボーカルによって強固なイマジネーションをもたらす。

 

同じようにルート進行をベースにしたストロークスの系譜にあるガレージロックの曲が続く。「Pulling Quotes」は、バンドの演奏に加わるボーカルがエモーションを漂わせる。これぞまさしくストロークスのデビューアルバムにあった革新性だ。つまり背後の同音反復から浮かび上がってくるハーモニーの温和さがトリオのソングライティングの醍醐味になっている。ギターの演奏も無駄を削ぎ落とし、裏拍を強調したスケール進行が爽快な印象を形作る。バンドはガレージロック・リバイバルのサウンドに加えて、QOTSAの初期のストーナー、Black Keysのブギーを吸収し、「Pallor Tricks」では硬派なロックとして吐き出す。リズム自体は裏拍が強調され、ギターリフは、不協和音をもとに構成されている。いわば、Rodan、Helmet、MOBの系譜にあるアヴァンギャルドなポストパンク/ポストロックの尖った印象が表情をのぞかせる。

 

「Albatoross」もまた不協和音を突き出したギターサウンドが際立つ。しかし、その中にはピチョトー/マッケイが追求していた不協和音の中に潜む偶発的な協和音が立ち表れ、80年代のエモーショナル・ハードコアやニューヨークのTelevisionの最初期のプロト・パンクのようにしぶとく、ざらついた硬質なサウンドを生み出す。表向きには無愛想であるのに、その裏側には温かさが滲む。この二律背反に位置するロックサウンドがColaの魅力なのかもしれない。マニアックでニッチだけど、なぜか聞き入らせる何かがあるのが不思議でならない。

 

そんなふうにして聴いていると、いつの間にか不思議な魅力に取りつかれている。「Down To Size」でも、何かリスナーを食ってかかるようなパンキッシュな迫力、そして前のめりな感覚を持つロックソングが続く。この曲は、アルバムの序盤で最もポスト・パンクの性質が強く、尖りまくっている。ティム・ダーシーのボーカルが、Talking Headsのデヴィッド・バーンの系譜にあるのを伺わせる。しかし、不協和音を表面的には押し出しつつも、必ず協和音のポイントを設けている。これが人好きのしない無愛想なロックの気配を醸し出しながらも、意外にも親しみやすさを感じさせる理由なのだろう。それはもしかすると、聴くたびに意外な印象がもたげるかもしれない。


Colaのサウンドには、その他にも、Black Keys、Spoonのような古典的なロックの影響、ローリング・ストーンズのリフをエクスペリメンタルロック風に解釈したものまで極めて幅広い。しかし、編集的なサウンドでなく、ライブセッションの中から音楽が作り出されているという点に信頼感を覚える。

 

それは「Keys Down If You Stay」のように、やや泥臭い感覚をもって心を鷲掴みにする場合がある。この曲は、ニューヨークのGeeseのようなリバイバルロックに近い空気感に縁取られている。その他にも、ローファイやチルウェイブと古典的なロックを融合させた「Nice Try」なども良い味を出している。これらのシンプルなギターロックは、現行の複雑化しすぎたポストパンクへ一石を投じるような意味があるかもしれない。ただ、彼らのサウンドが単なる懐古主義でないことは、続く「Bell Wheel」を聴くと明らかである。ここでは、Squidのような先鋭的なロンドンのポストパンクに近いニュアンスが感じられ、なおかつプログレッシヴ・ロックの系譜を踏まえて異質なサウンドを作り上げている。ひねりのあるボーカルも、ややUKのテイストを漂わせる。

 

正直、現時点ではブレイクポイントを迎えたとまでは言いがたい。しかし、モントリオールから清新なロックのウェイブが沸き起こりつつあるようだ。そのことを印象づけるのがColaの台頭なのである。アルバムのクローズ「Bitter Melon」は、ジャズセッションのような実験性があり、興味をひかれる。今後、どのようなバンドになるのかがさっぱり分からないのがとても魅力的だ。

 

 

85/100

 

 

 

「Bell Wheel」