Review : Queen Of Jeans- All Again   フィラデルフィアの四人組の純粋な輝き

Queen Of Jeans 『All Again』

 


 

Label: Memory Music

Release: 2024年6月28日


Review

 

フィラデルフィアの四人組のオルトポップバンド、Queen of Jeans(クイーン・オブ・ジーンズ)は、2018年のデビュー作から、60年代のクラシカルなポップ、そしてケイト・ルボンの系譜にあるアートポップと作風を変更してきた。


3作目のアルバム「Allagain」ではプロデューサーのWill Yipと共同制作を行い、デボラ(ボーカル/ギター)、マテソン・グラス(リードギター、ピアノ)、ドラマーのパトリック・ウィール、ベースのアンドリュー・ニッツを含めた2015年以来初めてとなるフルバンド編成でスタジオアルバムの録音に臨んだ。Yipと協力し、話し合いを重ねながら曲のアレンジを行い、明確なビジョンを持ってスタジオ入りした。

 

アルバムでは人間関係に焦点が絞られ、それが時間の経過と併行し、どのように移ろうのかを制作で振り返っている。「私達は一般的な人間関係を振り返るときの物語を語ろうとしている。そのことについて、年月が経ち、熟考すればするほど事実は曖昧になる。私達はそれで遊んでみたかった」とマテソン・グラスは言う。一方のボーカルのデボラは、「これらはブックエンドで始まり終わる」という。


より詳細に言えば、アルバムの曲の多くは半架空の物語についてであり、再文脈化されているという。しかし、実際的には、幻想的な音楽とも決めつけがたい何かがあり、底流には現実性が織り込まれている。それが最終的には、ドリーム・ポップ風のインディーロックというクイーンズ・オブ・ジーンズらしい形で置き換えられる。それほど真新しいとも言えないにせよ、新旧の音楽的なアウトプットを綯い交ぜにした淡い感覚を持つポップソングが生み出されている。

 

QOJのインディーロックのスタイルは、ラット・ボーイズ、キシシッピ、ペタルというふうにフィラデルフィアらしい純粋さがある。分かりやすい特性を挙げるとするなら、ドリーム・ポップに近いデボラのボーカルである。これらの要素に合わせて、フローレンス・ウェルチ、デル・レイ、大物歌手のオルタナティヴな解釈が付け加えられる。


もちろん、上記のシンガーともにその出発点はメインストリームではなく、オルタナティヴにあることが依然として人気が高い要因でもある。


いずれにせよ、フルバンドで挑んだこのアルバムは、ソロシンガーとしてのデボラの個性を背後からしっかり支えるバンドという絶妙なバランス感覚によって成立している。ある意味では、シンガーとしての独立を許すバンドの懐深さがものをいうバンドなのである。

 

 遠くにいる恋人への思いを綴った「All My Firends」は、ドリーム・ポップ風のギターラインに支えられるようにし、デボラのドリーミーなボーカルが紡がれる。ただ、どういった音楽性を志向しているのかを、ギタリストのグラスが良く理解しているため、彼はボーカルの風味や性質を引き立てる役割を果たす。ドラムやベースのパトリックとアンドリューも同様で、ソロボーカリストとしての性質を背後から引き立てる演奏をレコーディングにおいて重視している。そして、普段は、派手な音作りや演奏を控えめにしているが、ボーカルのフレーズがアンセミックな段階に差し掛かると、ディストーションを掛けボリュームの音量を上げたり、そしてドラムのダイナミクスを高めたりと、曲のフェーズに従って、演奏のスタイルを変化させている。


現時点では、バンガーと呼ぶべき瞬間が現れる瞬間は稀有だが、「Horny Hangover」では、シンガロングを誘発するアンセミックなワンカットを作り出すことに成功している。ただ、最初から見え透いた即刻性を意識するのではなく、静かなバラードやワルツ風の品格のある立ち上がりから、徐々にアンセムを出現させる。そのムードを引き立てているのが、フィラデルフィアのバンドらしい素朴なメロディーと温和な空気感である。さらに言えば、クイーン・オブ・ジーンズのオルトロックのスタイルには、ギザギザした感覚やエッジという概念はほとんどない。いわば、聞いているうち、じわりじわりと心に染み入るような味わい深いロックソングである。序盤には温和なインディーロックソングが収録されていて、「Karaoke」でもそれは同様だ。


一見すると、派手さに欠けるように思えるかもしれない。けれども、中盤にはハイライトとなる曲が収録されている。「Enough To Go Around」ではバラードをインディーポップ風に解釈し、デル・レイ風の優雅なアートポップの感覚を瞬間的に引き出している。メインストリームではなく、インディーズバンドとしてのポピュラー性の範囲にとどめている。映画的なポップスといえば大げさかもしれないが、現行のシネマ・ポップに近い手法をバンドという形で体現している。


その他にも、80年代のケイト・ブッシュのようなポピュラー性を踏まえ、「Neighbor」は、ニューロマンティックのようなポピュラー性、このジャンルの系譜にあるドリームポップ/シンセポップを巧緻に再現させる。ただ、ニューヨークのアーバンなシンセポップとは少しだけ異なり、フィラデルフィアのバンドらしい素朴な抒情性が含まれている。これらの多角的なポップネスは稀にルボンのようなアートポップに近づく場合もある。それほど先鋭的とも言えないにせよ、「Let Me Forget」はシャロン・ヴァン・エッテン/オルセンのソングライティングーーロック/ポップ/フォークの中間に位置づけられる抽象的なアートポップーーを思わせるものがある。

 

それ以後もインディーポップを基調とした、抽象的で淡い感覚のナンバーが続く。それらは例えば、コクトー・ツインズやペール・セインツほどにはアーティスティックな領域には至ることはない。デボラのボーカルは依然として、背後のアンビバレントなサウンドからクリアに浮かび上がり、それらの明確なサウンドをドラムが引き立てる。結果的には、明快なインディーロックソングが作り出され、「Books In Bed」、「Bitter Pill」でも、エバーグリーンな感覚を擁するセンチメンタルなナンバーが中盤のハイライトを形作る。中盤では健康的なロックソングが続く。しかし、Queens Of Jeansのエモからのさりげないフィードバックが純粋な感覚を呼び覚ます。


穏やかなインディーロックソングは終盤も続き、表面上の印象とは異なり、バラードソングに近い形で琴線に触れる場合がある。しかし、それは一瞬のまたたきのようなものであり、その輝きを捉えようとすると、次のサウンドへ移ろってしまう。いわば、それほど後腐れのない淡白なサウンドが現在のバンドの魅力なのだ。形式がシンプルであるからか、心を惹かれる時がある。


本作のクローズはフィルターを掛けたデモソングのようなラフな曲を収録している。 現時点ではブレイクポイントを迎えたといえば誇張になるはず。けれども、現代のインディーロック/ポップシーンの渦中にあり、都会性に毒されぬピュアなサウンドが個性的な魅力を放ってやまない。

 

 

 

75/100

 



 

 

 

Queen Of Jeansによる新作アルバムは6月28日にMemory Musicから発売。日本国内ではTobira Recordsで販売中。