Review : STONE 『Fear Life For A Lifetime』  リバプールの四人組 STONEの鮮烈なデビューアルバム

 STONE 『Fear Life For A Lifetime』

 


Label: Polydor

Release: 2024年7月12日

 

 

Review   


リバプールの四人組 STONEの鮮烈なデビューアルバム

 


リバプールの四人組、STONEは2022年頃からイギリス国内の注目のライブ・バンドとしてファンベースを着実に拡大させてきた。シングル「Money」 、デビューEP「Punkadonk」などバンドの最初期の必須アイテムはもちろん、OASIS、Verveの次世代のUKロックバンドとしての存在感を見せつけてきた。四人組は、記念すべきデビューアルバムをポリドールからリリースする。彼らのファンやイギリスの複数の音楽メディアにとっては、このアルバムがそれなりのスマッシュヒットを記録したとしても、さほど大きな驚きはないかもしれない。彼らは上記のシングルやEPで他のインディーロックバンドとは異なる力や影響力を対外的に示してきたのだから。


エネルギッシュで痛快なロックというのがリバプールのストーンの最大の持ち味である。青臭さや拙さは、実際的なライブアクトで培われた演奏技術、そして、ポリドールの高水準の録音技術によって弱点となるどころか、むしろエバーグリーンな感覚を引き立てている。ストーンのロックソングは、ポスト・ブリットポップに位置づけられるが、商業的な音楽性とベースメントのロックが混在している。このデビュー・アルバムは、"STONEとは何者か?"ということを対外的に示すにとどまらず、イギリス国外にも彼らの名を轟かせる機会になってもおかしくない。

 

 

曲は青春物語として展開され、若者時代の激動の経験を掘り下げている。リッチ・コスティのプロデュースによるこのアルバムは、愛、野心、自信喪失、帰属意識など、さまざまなテーマに取り組んでいる。いわば、ロイル・カーナーが持つテーマをオルタナティヴロックバンドとしてストーンは探求している。すでに言ったように、音楽をそれほど知り尽くしていないことは長所となる場合があり、まだ見ぬ地点に向けてストーンは肩を組みながら歩き始めたところだ。

  

デビュー当時のアークティック・モンキーズのように、ヒップホップやポストパンク、それからブリットポップ、それ以前のマンチェスターサウンドの影響を交えながら、彼らは挨拶代わりのタイトルトラック「Fear Life For A Lifetime」で壮大なSEを背景にスポークンワードを吐露する。内的な告白のようでいて、勇敢で自負がある。彼らは、この曲がデビューアルバムの始まりを飾ることを自覚している。それは稀に、実際的な音楽以上の迫力とダイナミックさをもたらす。無謀であること……、これはデビューを果たすバンドのみに許された特権でもあり、恐れ知らずが多くのオーディエンスの人気を獲得する場合がある。かつてのカサビアンのように。

 

もちろん、それはデビューバンドが陥りがちな罠、無謀さが傲慢さに繋がる恐れがあるが、少なくともストーンのファーストアルバムには、そういったものがほとんど感じられない。 彼らの音楽から読み取れるのは、実直さとひたむきさである。90年代のブリット・ポップの熱狂的な雰囲気を収めた「My Thoughts Go」は、確かにバンガー的なものを狙っているが、純粋なエネルギーが放出されている。これはライブ・バンドとして出発したストーンが地元のコミュニティやファンに支えられてきたことへの報恩、あるいは感謝を示しているのではないだろうか。


確かに、Smith,Stone Roses,OASIS、Verveといった80、90年代前後のUKロックの象徴的なサウンド、ボーカル、ギターを彼らは継承している。しかし、ステレオタイプのロックであろうとも形骸化せず、サビのコーラスに入ると、口ずさませるものがある。そして、サビに続いてドライブ感のある痛快なサウンドがUKロックらしい哀愁を漂わせる。デビュー当時のカサビアンのようなエキゾチックなシンセを交え、スタジアム級のアンセムナンバーを作り上げる。彼らにはすでに目に浮かんでいるのかもしれない。この曲で多くの観客がシンガロングする姿が。


「My Thoughts Go」- Best Track


「Roses」、「Train」を聴くと、ストーンがどれほどUKロックをこよなく愛しているのか手に取るように伝わってくる。しかし、スタンダードな2曲を挟んだ後、彼らはオルタナティヴなロックソングを選んでいる。


内省的な感覚を織り交ぜたギターロック「Say It Out Loud」はストーンのエネルギッシュなロックバンドとは異なるアンニュイでセンチメンタルな一面を示している。これらは、バンドとして手の内をすべて明かしておらず、曲の引き出しやバリエーションを持つことの証しとなるかもしれない。


丹念に作り込まれたローファイ寄りのギターロックは、80年代以降のブリット・ポップの潜在的な音楽性を暗示している。彼らはリバプールの現代的な若者の声や生き方を反映させ、それらを現代的なオルトロックに組み替える。同レーベルのサム・フェンダーのソングライティングに近い。つまりストーンは、この曲を通じて傷んだ若者の肩を支えるような共感性をもたらす。

 

少なくとも、ストーンは高い場所から歌をうたったりするのではなく、他の若者と同じ目線で歌をうたう。彼らは、国内のライブで人気を獲得しても自分たちを特別視したり神聖化することはない。それは地元のファンや近郊のファンに支えられていることを理解しているからなのか。

 

1970年から2020年の音楽シーンの流れを見ると、商業的に売れるロックアルバムを制作する上で重要なことは、バンガー的な理解しやすいアンセミックな曲と、バンドが心からやりたい曲を共存させることかもしれない。

 

アルバムの序盤でバンガーをバンドは提供した後、ストーンは、新人バンドとしてただならぬ才覚を見せつける。「Save Me」のハスキーなボーカルとガレージ・ロック/ストーナーロックの系譜にあるアグレッシヴなサウンドは、力感がありすぎたり気負いがあるけれど、デビューバンドとして絶妙な領域にとどまっている。オルタネイトなバンドであるべきか、それともメインストリームにあるバンドであるべきか? それらの戸惑いを示したロックソングと言える。これらの苦悩を元にした力強いパンキッシュなロックソングこそ、イギリスの音楽ファンの共感を誘うものとなるだろう。ストーンは、サム・フェンダーと同じように、若者の苦悩の代弁者となり、ヘヴィーなグルーヴを擁する痛快なビートに乗せ、丹念に歌をうたいこんでいる。この曲にはデビュー作に持ちうるすべてを詰め込もうというバンドの心意気が感じられる。 


それは最終的に現代のトレンドであるポスト・パンク、メタル、スクリーモ、エモ、ミクスチャーロックと、その時々に形を変えながら移ろい変わっていく。ヤングブラッドのような掴みがある素晴らしい一曲であるが、ストーンの武器はそれだけにとどまらない。英国のティーンネイジャーの多感さ、そして気持ちの移ろいの早さ、絶えず揺れ動く国内の政変の中、たくましく生きていこうとする若者の生き方が、この曲に体現されているとしてもふしぎではないのだ。

 


アルバムの後半でも聴き逃がせない曲がある。着目すべきは、曲のタイトルがそのままバンドからのメッセージとなっていて、シンプルでわかりやすい内容となっている。実際、タイトルと曲の雰囲気も合致していて、ストーンはファンの期待を裏切ることはない。オルタネイトなバンドでありながらバンガーも書けるという点では、要注目のバンドであることに疑いはない。

 

「Never Gonna Die」は、アンフィールドのアンセム「You'll Never Walk Alone」を思い起こさせ、FCリバプールに対する地元愛が示されているのかもしれない。実際的には、Underworld、New Orderの系譜、あるいは、Killersの次世代に位置づけられる痛快なダンスロックナンバーを提供している。この曲は、「My Thoughts Go」「Save Me」といったトラックと合わせてライブの定番になりそうだ。他にも現代的なスポークンワードとパンクの融合というトレンドの形を踏まえ、「Sold My Soul」というファイトスピリット満載のアンセムナンバーを作り上げている。そしてストーンは、他のバンドよりもライブスペースで映えるソングライティングを意識しているように思える。これらの曲がより大きめの会場でどのように聞こえるのか楽しみにしたい。

 

「Hotel」では、Bad Bunnyの系譜にあるプエルトリコのラップからの影響を活かしている。それが最終的にアートワークに象徴づけられるような癒やしと開放感を生み出す。やはり、ストーンは、同年代の若者に対して同じ目線で歌をうたい、「Save Yourself」ではラップを絡めたオルトフォーク風のサウンドで本作を締めくくっている。しかし、ストーンの歌詞はパワフルであり、言葉が上滑りしたりすることがない。彼らの曲は偽りがなくて、誠実な感覚を感じさせる。

 

ストーンの曲は生きているかのようにエネルギッシュに躍動することがある。もちろんボーカルにもリアルな言葉の力がある。それがポップソングそのものの説得力に加えて、彼らの年齢からは想像しえない渋く円熟味のある音楽性をもたらす場合がある。


現時点では、音楽のジャンルにこだわらず、その時々に音楽を選んでいるような感じがあるため、自由な気風に充ちたアルバムとして楽しめるはず。収録曲にはストーンの今後の飛躍のヒントになりそうな"ダイヤモンドの原石"が隠されている。それを見つけるという楽しみもありそうだ。

 


 

86/100

 

  

 

STONE-『Fear Life For A Lifetime』はポリドールから7月12日にリリース。ストリーミングはこちら