【Jazz Age】Vol.2  John Coltrane(ジョン・コルトレーン)  稀代のサクスフォン奏者

 John Coltrane 稀代のサクスフォン奏者  コルトレーンの代表作



ジョン・コルトレーンは、いかなる分野であれ、天才的な人物は驚くほど早く世を去ることがあるという、歴史的に惜しむべき事実を明確に反映している。他の人が気づいたときには、そういった人物は、普通の人々のはるか先を歩いているものだ。一般的な人々がその人を追いかけ始はじめた時、その人は踵を返し、別の道を歩み出す。そして一般の人々がそのことに注目するようになると、全然違うことを始める。だから、一般的な人々の理解に及ばない部分がある。


コルトレーンの十年のジャズの作曲法、及び、主要な演奏法には、古典的なものから、対象的に、まったく以前の形式とは異なる前衛的なものまで幅広いスタイルが含まれている。ハード・バップからモード奏法へのこだわりなど...。もちろん、前衛的な演奏法についても、アリス・コルトレーンと併せて称賛されて然るべきだが、サクスフォン奏者としては、ブルー・ジャズにこそ彼のプレイの醍醐味がある。ミュート奏法を用いたコルトレーンの演奏は、ブレスに神妙な味わいがあり、トランペットに近い深みのある音響性をもたらすことがある。


セロニアス・モンクとのコラボレーションでは、前衛的な奏法にも挑戦しているコルトレーン。それと同時に、彼はまた、スタンダードジャズの普及に多大なる貢献を果たした演奏家でもあった。特に、現代的なサクスフォニストとは異なり、彼の演奏の核心には、メロウなサックスというテーマを発見できる。コルトレーンは、無名の時代が長く、有名になったのは十年ほどであったという。それは、彼が従来のハード・バップから離れ、前衛的なジャズを探訪していたからである。ではなぜ、後世に名を馳せたかを推察してみると、彼の演奏は、それ以後、新しい形式を捉えつつも、「古典性の継承」という重要なサブテーマを掲げていたからである。もしかりに、コルトレーンの演奏法が前衛性だけに焦点を絞っていたとするなら、「ジャズの巨匠」と呼ばれるまでには至らなかったのではないだろうか.......。そして、いついかなる時代のコルトレーンの演奏についても、彼の演奏には慎み深さがある。要するに、音楽に対する一歩引いた感覚があり、音楽をいつも主体とし、多彩なサックスの演奏を披露するのである。

 

つまり、それがセロニアス・モンクやマイルス・デイヴィス、ビル・エヴァンスといった数々の名だたるプレイヤーとのコラボレーションでも重要な役割を果たす要因ともなった。もし、彼が存在感を出しすぎたり、プレイヤーとしての自分自身のキャラクター性を重要視するような演奏家であったなら、どうなっていただろう。もしかすると、数々の共同制作の名盤は秀作の域にとどまっていた可能性もあるかもしれない。コルトレーンは、前に出たり、後ろに退いたり、いつも柔軟性のあるスタンスを取っている。だから、彼の演奏は作品ごとにまったくその印象が異なる。古典的であるかと思えば、前衛的。前衛的かと思えば、古典的。そして、脇役かと思えば、主人公になる。主役になったかと思えば、名脇役にもなる。つまり、彼は10年に及ぶジャズの系譜において、自分の演奏者としての立ち位置を固定したことは一度もなかったのだ。

 

ジョン・コルトレーンの演奏はたいてい、レコーディングであれ、ライブであれ、その空間に鳴っている音楽に対して謙虚で慎ましい姿勢を堅持している。それが音楽としての心地良さをもたらし、このプレイヤーしか持ち得ない霊妙な感覚、そして、人々を陶酔させるジャズを構築したのである。

 

クラシックであれ、ジャズであれ、超一流の音楽家はプレイスタイルを持つようでいて持たない。いつも、彼らは苦心して築き上げたものを見放し、ときには壊してしまう。世に傑出した芸術家はたいてい、自分の築き上げたものが「砂上の楼閣」に過ぎぬか、「現実の影」に留まると認識しているのである。こういった「天才」と称される人々は、一つのやり方に固執することはほとんどなく、変幻自在な性質を持つことを特徴としている。しかしながら、同時に、 演奏や作曲性に関しては、その人物しか持ち得ないスペシャリティ(特性)が出現することがある。

 

その作品を見れば、制作者の人となりが手に取るように分かる。同じように、演奏についても表現者の人柄を鏡のごとく鮮明に映し出す。残酷なまでに.......。不世出のサクスフォニスト、ジョン・コルトレーンは、薬物問題に絡め取られることもありながら、紳士性を重んじ、何より敬虔なる人物であったと推察される。それがゆえ、ジャズの未来を塗り替えることが出来たのだ。また、だからこそ、彼の演奏は時代を越えて、多くの聞き手を魅了しつづけるのだろう。

 

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・「Blue Train」/ Blue Note 1958

 

マイルス・デイヴィス・クインテットを1957年に離脱したジョン・コルトレーンがその翌年に発表したアルバム。3管編成で録音。タイトル曲には、モード奏法からのフィードバックも含まれている。コルトレーンは、この作品において、作曲全体の規律性を重視し、ジャズの概念を現代的に洗練させている。ただ、「Lady Bird」に代表付けられるように、従来の自由度の高いベースに支えられるハードバップに重点が置かれている。また、「I'm Old Fashioned」には、古典派への回帰という、以後の時代の重要な主題も発見できることにも着目したい。

 

 

 

・「Giant Steps」/ Atlantic  1960

 

 

「Love Supreme」、「Bluetrane」、「My Favorite Things」等、名盤に事欠かないコルトレーン。しかし、ジャズそのものの多彩さ、音楽の幅広さを楽しめるという点において「Giant Steps」を度外視することは難しい。このアルバムは「Blue Train」と並び、稀代のジャズの名盤として名高い。

 

本作は、中期に向けての変遷期に録音。チャーリー・パーカーのビバップの形式を元に、「コルトレーン・ジャズ」という代名詞を作り上げた作品でもある。演奏法を見ると、70年代のフリー・ジャズを予見したアルバムと称せる。ただ、ジョン・コルトレーンの演奏法が従来のスケールや和音に束縛されていないとしても、全体的な作曲はスタンダード・ジャズを意識している。これが自由で開放的な気風を感じさせるとともに、聞きやすい理由である。現在のブルーノートのライブハウスで聴けるようなジャズグループの演奏の基礎が集約され、ジャズ・ライブでお馴染みのコール・アンド・レスポンスの演奏も含まれている。世紀の傑作「Blue Train」と並んで、「ジャズの教科書」として見なされるのには、相応の理由があるわけなのだ。

 

 

 

・「Ballads」/ Impulse!  1963



コルトレーンがハード・バップ/ビバップから脱却を試みた作品。そして、次なる形式は「古典性への回帰」によって生み出されることに。現在のスタンダードジャズの基本的な形式の基礎は、このアルバムに全て凝縮されている。また、以降の時代の多くのサックス奏者の演奏法の礎を確立した作品でもある。「Ballads」では、ニューオリンズの「ブルー・ジャズ」の古典性に回帰しながら、モード奏法を異なる形に洗練させている。もちろん、遊び心もある。「All Or Nothing At All」では、アフリカのリズムを織り交ぜ、率先してアフロ・ジャズに取り組んでいる。彼の代表的なナンバー「Say It(Over and Over Again)」はジャズ・スタンダードとして名高い。


ジョン・コルトレーンは、新しい形式を生み出すために、古典に回帰する必要があることを明示している。これはデイヴィスが教会旋法からモード奏法を考案したことにヒントを得たと考えられる。(モード奏法は、ドリア、フリギア、リディア、ミクソリディアという旋法の基礎からもたらされた)さらに、現行の米国のミュージシャンが取り組む「古典性の継承」というテーマ、それはすでに1963年にジョン・コルトレーンが先んじて試みていたことであった。

 

 


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