【Review】  I Love Your Lifestyle 「Summerland (Torpa or Nothing)」

 I Love Your Lifestyle 「Summerland(Torpa or Nothing)」

 


 Label: Counter Instuitive  

 Release: 2024年8月2日


Review


スウェーデンのI Love Your Lifestyleは、いわゆる「ポストエモ/リバイバルエモ」として名高いバンド。


これらのジャンルは、2010年前後、Snowing、Algernon Cadwallader、Midwest Penpalsといった米国の中西部周辺の先駆的なバンドが中心となり、「Twinkle Emo」というベースメントの奥深いパンクブームになった。速弾きのギターアルペジオ、メロディックハードコア、スクリーモの作風を反映させたドライブ感のあるパンクで、ジャンルのファンの心を見事に捉えることに。これはメロディックパンク/メタル/エモの中間にある音楽として親しまれた経緯があり、スクリーモのネクスト・ジェネレーションに当たる。たが、オーバーグラウンドでは流行らなかった。

 

ただ、中西部の系譜が完全に断ち切られたというわけではなさそうだ。ここ10年ほど、フランス、イタリア、スウェーデンのアンダーグランドシーンで、エモ/ポストハードコアバンドが多数活躍し、スタジオライブや小さなライブスポットでパンクファンの期待に応えてきた経緯を見る限り、I Love Your Lifestyleがスウェーデンから2010年代に登場したのは自然な成り行きだった。


『Summerland (Torpa or Nothing)』は、妙な言い方になるかもしれないが、ストレートなポストエモのアルバム。2010年代のトゥインクルエモの後継的な作品として楽しめよう。ただ、今作で彼らは現地語で歌詞を部分的に歌っているため、北欧のバンドとしてのスペシャリティが含まれている。


例えば、日本のリスナーがデンマーク語の音楽を聴く時、エキゾチックな魅力を覚えるのと同様に、『Summerland (Torpa or Nothing)』の序盤ではスウェーデン語の持つさわやかな響きがアップテンポなパンクソングと合致している。


ギターアルペジオのタッピング(ライトハンド奏法)、つまり、ヘヴィメタルの影響を伺わせる収録曲もあるが、どちらかというなら、ロック的な響きを持つパンクが多いため、コアなリスナーでなくても取っ付きやすさを覚えるのではないか。本作全般を通してボーカルやコーラスを用いてシンガロング必須のフレーズを組み上げ、言葉の持つ力でタイトル「夏の楽園」の雰囲気を作り出す。パンクバンドでありながら、彼らは言葉の持つパワーを心から信じ切っている。

 

オープナーを飾る「Torpa」はインディーロックの延長線上にあり、スウェーデン語の巻き舌の発音を交えて個性的な空気感を作り出す。シンプルな構成だが、ギターの細やかなフレーズを重ね合わせ、対旋律的なベースがエモの雰囲気を生み出す。バンドアンサンブルならではの連携の取れたサウンドで、時々、変拍子を交え、穏やかな雰囲気を持つエモサウンドへ昇華させる。


特に、ボーカルやコーラスの重ね方にフックがあり、ライブではシンガロングを誘発しそうだ。曲の途中に入るツインギターにはThin Lizzyのようなメタリックな叙情性がある。Get Up Kids、Reggie and the Full Effectからの影響もあり、ムーグシンセがその中に可愛らしい印象をもたらす。

 

続く、「Givet」ではスウェーデン語としてのエキゾチックなパンク性が味わえる。このサウンドは、Perspective, A Lovely Hand To Holdの系譜にあるスポーティーなイメージを持つドライブ感のある性急なポスト・エモであるが、彼らは、スウェーデン語の他言語と異なる独特な発音を元に、米国のパンクバンドとはひと味異なるスペシャリティをもたらす。一般的に北欧の言語は、さわやかな響きが込められているが、これがコーラスの要素と合致し、エバーグリーンな印象を付与する。サビでは高いトーンのボーカルを披露し、曲全体の若々しさに拍車を掛ける。その後、ディストーションギターを一つの起点とし、この曲はメタリックな激情性を持つポストハードコアへと移行していく。取り分け、コントラストという側面において目を瞠らせるものがあり、ギターラインとボーカルの対比からエモーショナルな感覚が呼び覚まされる。

 

 

彼らの音楽のエバーグリーンな感覚は続く「Barnapsgatan」で最高潮に達する。クリーントーンを用いたギターが牽引するこの曲では、トゥインクルエモの代名詞であるギターアルペジオが際立っている。アメリカン・フットボールの系譜にあるミニマルな構成を持つエモをよりパワフルなサウンドに置き換えている。この曲はCap ’N Jazzの系譜にあるエモのルーツを辿っている。


しかし、I Love Your Lifestyleの場合は、シカゴの伝説的なバンドの代表曲「Little League」、「In The Clear」に象徴されるポストハードコアを踏襲、スウェーデン国内のポップスやフォーク音楽へ組み替えている。つまり、北欧のバンドならではの試みが用意されているというわけだ。


同じように「Dunkehalla」は、Cap ’N Jazzの系譜にあるナンバーだが、これにスウェーデンのポピュラー音楽の要素を付け加えている。ここでは、メインボーカルとコーラスの対比によって、このジャンル特有の熱狂性を呼び起こそうとしている。 それと同時に、バンドはこの曲で北欧のポップ・パンクという、これまで一般的に知られなかった音楽を対外的に紹介している。

 

Rodan、Helmetの系譜にある最初期のポストロック/マスロックの影響下にある「Lucking Out」ではバンドの意外な音楽的な要素を捉えられる。ただ、彼らのサウンドは一貫してポピュラーなパンクに重点が置かれている。コーラスでは、女性ボーカルのコーラスを導入してバリエーションをもたらす。これらは、Taking Back Sunday、Saves The Day等を中心とする2000年代の黄金時代のアメリカのインディーロックからの影響も込められているようだ。ただ、それらはバンドの陽気な感覚により鮮明なイメージをもたらすことがある。同じように、ミレニアム年代の米国のインディーロックバンドの音楽性を反映させたポストエモ/リバイバルエモの曲が続く。

 

「Fickle Minds」はファンにとってはお約束のようなナンバーであるが、オルタネイトなコードを対比的に導入することで、従来のI Love Your Lifestyleとは少し異なるサウンドが作り出されている。しかし、バンドサウンドはマニアックになりすぎることはなく、ストレートなパンクスピリットに縁取られている。同曲を聴き、Promise Ring、Jimmy Eat World、Get Up Kidsといった、黄金世代のエモを思い浮かべる人も少なくないと思われる。興味深いのは、曲の後半にはジャングルポップ/パワーポップに近いメロディーが含まれ、甘酸っぱい空気感が漂うことである。

 

アルバムのクローズは、エバーグリーンなパンクソングで締めくくられている。 「Plot Twist」はメロディック・パンク/メロディック・ハードコアの系譜にある。デビューから10年後に、こういった若々しくエネルギッシュなパンクを制作することは簡単なことではない。ジャンルを問わず、バンドを組んだ当初の熱狂性を長い間維持しつづけるのは容易くないものと思われる。


I Love Your Lifestyleの最新作『Summerland(Torpa or Nothing)』は、EPに近いシンプルな構成を擁しているため聞きやすい。同時に、パンクバンドとしてのパッションやパトスを捉えられる。曲構成はコンパクトなサウンドを重視しているが、その反面、バンドとしてはスケールの大きさを感じる。何よりパンクロックの純粋な楽しさが凝視されているのが本当に素晴らしい点だ。

 

 

82/100