【Review】 Kitty Craft 『I Got Rulez』 長らく入手困難だった96、97年の音源の再発

 Kitty Craft 『I Got Rulez』

Label; Takotsubo Records

Release: 2024年8月30日

 

Review

 

LAのプロデューサー、Pamela Valfer(パメーラ・ヴァルファー)は、最初期のローファイポップを形成する重要な制作者であるとともに、ベッドルームポップの先駆者のアーティストでもある。


Kitty Craftは、原初的なブレイクビーツのスタイルに、夢想的なドリーム・ポップの要素を加え、ホーム・レコーディングにおける理想的なサウンドプロダクションを探求してきた。特に、カットアップ・コラージュのように細かなマテリアルを組み合わせて、文字通り、「ハンドクラフトのインディーポップ」を構築する。オルタナティブポップやベッドルームポップなどという言葉が流行る以前の1990年代から、Palmela Valferは独力でそれらの音楽を作っていた。それがKity Craftが独自に体系づけた音楽ジャンル「Kitchen Pop」の正体なのかも知れない。

 

『I Got Rulez』は長らく入手困難だった96,97年の音源の再発である。そして、Palmelaの音楽制作とは、最初期のヒップホップに近いものであり、ターンテーブルのような音のディレイ等を活かし、ループサウンドとなるビートをトラックの背景に敷き詰め、ラップの代わりにインディーポップ風のさらりとしたボーカルを歌う。淡白な音作りなのは事実だが、聴いていると妙に癖になるものがありはしないか。ブレイクビーツの影響を絡めた音楽は、男性の音楽のように血気盛んになることはなく、午後の白昼夢さながらにほんわかとしていて、安らいだ空気感に縁取られている。これが、ローファイとしてのドリーム・ポップに近づくことがある。

 

「I Got Rulez」は、インディーロックのギター、レトロで安価なシンセ、サンプラーをブレイクビーツのドラムに乗せ、それらにThrowing Musesのようなファンシーなボーカルを乗せる。時々、気の抜けたようなコーラスが加えられる。これらの適度に脱力したサウンドが、ニッチなローファイの魅力を呼び覚まし、テープ音楽のプリミティヴな音の質感を呼び起こす。デジタルリマスターを掛けても、音のラフさや荒削りさは立ち消えにならず、良いウェイブを生み出す。また、ヴィンテージのアナログレコードのようなあたたかな質感を呼び起こすこともある。

 

Pamela Valferは、絵本のような童話的な世界を作り出すことで知られているが、「Alice」はまさしくこのアーティストの代名詞となるようなトラックである。90年代頃のインディーロックを参考にしたような音楽だが、レトロでチープなシンセがファンシーな感覚を生み出している。そして、Palmela Valferのボーカルは、ボソボソと小声で歌われ、ドラム、ギター(ベース)の演奏の間が取れていないこともあるが、それらの演奏の違和感もむしろ長所のように聞こえてくる。そして、音作りもへったくれもないギターは、曲の最後になって良い雰囲気を生み出す。アマチュア志向のサウンドであるが、完成度の高い作品よりも聴きやすさあるのは不思議だ。

 

「Find Out」では、90年代のYo La Tengoの作風をベースにし、ブレイクビーツのドラムを背景に一気呵成に録音し、ドリーム・ポップやインディーポップの音楽性で縁取っている。MTRで録音したような素人臭さがあるのだが、結局、やはり前の二曲と同じように、それらの荒削りなプロダクションの向こうから、Palmela Valferのボーカルが立ち上ると、独特な空気感を呼び覚ます。 

 

アルバムのクローズ「Wuite Clear」では、サイケデリック風のグワングワンなギターが聞き手の頭を掻き回す。最初期のガレージロックやグランジのような荒削りなギター、The Vaselines,Violent Femmesのように破天荒で破れかぶれな感覚、これらすべての食材をボウルの中で混ぜ込み、夢想的な音楽という形で提供している。放課後にガレージで録音したようなアルバム。やはり、既存の音楽に似ているようでいて、どれにも似ていないのが、Kitty Craftの音楽の凄さなのだ。



76/100