【Review】 Los Bitchos 『Talkie Talkie』  ロンドンのロス・ビッチョスのセカンドアルバム

 Los Bitchos 『Talkie Talkie』


Label: City Slang

Release: 2024年8月30日

 

Review

 

ロンドンの四人組、Los Bitchosのセカンド・アルバムは、カッティングギターでダンサンブルなミュージックを構築し、そしてダンスフロアのような熱狂を巻き起こす。オーストラリア等、移民を中心に構成されるバンドは、演奏における純粋な楽しみや、彼らの音楽的なモチーフ、クンビアをバレアリック等のダンス・ミュージックと絡めて、エンターテインメント性をもたらす。

 

ロス・ビッチョスのサウンドはテキサスのクルアンビンに近く、カッティングギターはサイケデリックなテイストに縁取られる。それほど難しく考えず、体を揺らすためのダンスミュージックとして楽しめるが、 これらのサウンドは薄まり過ぎて、ライト過ぎる印象を受けなくもない。アルバムのオープニングから、「Hi」という掛け声とともに軽快なダンスミュージックが始まる、それは時々、ファンカデリックのようなP-Funkに依拠したサウンドを呼び起こすこともあるが、オリジネーターのようなコアなファンクサウンドには接近出来ていない。軽やかさという点は利点であり、大きな長所であるが、これらのサウンドは薄められすぎている気もする。


確かに、「Talkie Talkie, Charlie Charlie」では、カッティングギターが軽快なグルーブを呼び覚ましている。ただ、このサウンドも70年代の音楽の焼き増しか後追いに過ぎず、いまいち新奇性に乏しい。AORとクンビアのような民族音楽をかけ合わせた「Don't Change」は、ロス・ビッチョスの持ち味であるトロピカルなテイストと、ダンサンブルな熱狂を呼び起こすことに成功している。ただ、ボーカルなしのインストであるため、飽きの来るサウンドであるのが気がかりである。また、曲の盛り上がりにも欠け、非常に平坦なサウンドであるのも難点である。

 

ただ、アルバムの一つのポイントとしては、ロス・ビッチョスの持ち味であるラテン音楽の影響が本作に個性味を与えることがある。「Kiki, You Complete Me」では、ラテン音楽の旋律とリズムが、バンドサウンドとしてエキゾチズムをもたらす。 ただ、難点としては、クルアンビンのようなセッションとしての白熱した感覚や、ライブのような雰囲気を形づくるまでには至っていない。このサウンドでボーカルなしというのは、少し間が持たないため、飽きてしまうのだ。

 

方や、サウンドの中に変化をもたらそうという工夫が随所に見受けられるのも事実である。ワウサウンドを絡めたギターロック「1K!」は、クルアンビンのようなサイケ性とリゾート的な感覚に縁取られ、それらがファニーな印象を形づくることがある。ただ、スケールとして同じような進行が多いため、どうしても音階的、及びリズム的にマンネリ化しているのが懸念事項である。


「La Bomba」は、アルバムの中では最も勢いを感じさせ、ライブパフォーマンスの期待を盛り上げてくれるが、やはりスケール進行として単調な印象をおぼえざるを得ず、音楽的なバリエーションやひらめきに乏しい。それに加えて、70年代の後追いのようなサウンドであるため、目を引くものがないように思える。アルバムジャケットの派手なイメージは良いけれども、それが実際のサウンドと比べると、あまりにも落差が大きいように思える。楽しいライブサウンドを期待してアルバムを聴くと、少しだけ落胆してしまうかもしれない。これはこの「Talkie Talkie」がレコーディング作品の範疇から一歩飛び出すような冒険心が乏しいことに起因する。

 

アルバムの終盤でもほとんどサウンド的な変化が見受けられず、その中には眠気を誘うものもある。また、ボーカルがなく、インスト中心なのもちょっと寂しく、色気にかけるという気がする。ギターやベースの音作りへのこだわりはたしかに見受けられるが、サウンドチェックの段階で終わってしまっている気がする。つまり、これらの曲は曲にすらなっておらず、それ以前で録音され、パッケージ化されたものに過ぎない。だから世に出た時、既に形骸化している。

 

唯一、終盤に収録されている「Tango & Twirl」ではアルゼンチンタンゴの音楽性が登場するが、果たして、ピアソラが築いたアルゼンチンの文化がこのように軽薄な内容であると考えることは妥当と言えるのだろうか。アルバム全体に感じるのは、ヨーロッパ主義から見た他の地域の文化に対する奇妙な優越感と搾取的な軽視である。その点ははっきり言えば、容認することが出来ない。音楽の表現は自由であるべきだが、表現における放埒と自由性はまったく意味が異なる。最大の問題は、他地域の文化圏に対する敬意が欠如していることである。このアルバムを手に取るくらいなら、クルアンビンの最新作「A La Sala」を先に聴くことをおすすめする。

 

 

 

68/100