【Review】 Marmo  「Deaf Ears Are Sleeping」 ロンドンのダンスユニットの新作EP

 Marmo  「Deaf Ears Are Sleeping」EP

 

Label: area127

Release: 2024年8月28日

 

Review    ◾️ロンドンのダンスユニットの新作 リズムの組み替えからもたらされる新しいEDM


ロンドンの二人組、marco、dukaによるエレクトロニック・プロジェクト、MARMO(マルモ)は当初、メタルバンドのギタリストとボーカルによって結成された。おそらく両者とも、覆面アーティストであり、Burialのポスト世代のダンスユニットに位置付けられるが、まだまだ謎の多い存在である。


昨年、マルモはアンビエントとSEの効果音を融合させた近未来的なエレクトロニックアルバム『Epistolae』を発表し、ベースメントであるものの、ロンドンに新しいダンスミュージックが台頭したことを示唆していた。

 

『Deaf Ears Are Sleeping  EP』も新しいタイプのダンスミュージックで、聞き手に強いインパクトを及ぼすのは間違いない。三曲収録のEPで、逆向きに収録されたリミックスが並べられている。オリジナル曲との違いは、リミックスバージョンの方がよりディープ・ハウスに近いダンサンブルなナンバーとなっている。

 

当初、メタルバンドとして出発したこともあってか、Marmoの音楽はサブベースが強く、徹底して重低音が強調されている。それはヘヴィメタルから、ドラムンベースやフューチャーベース、ダブステップ等の現地のベースメントの音楽にアウトプット方法が変遷していったに過ぎないのかも知れない。しかし、ロンドンのダンスミュージックらしいエグさ、ドイツを始めとするヨーロッパのEDMを結びつけるという狙いは、前作よりもこの最新作の方が伝わりやすい。

 

「Inner System」は、ドイツのNils Frahm(ニルス・フラーム)の「All Armed」のベースラインの手法を、モジュラーシンセ等を用い、ダブステップのリズムと結びつけて、斬新なEDMを作り上げている。特に、Squarepusherの最初期からの影響があるのは歴然としており、それは、Aphex Twinのような細分化したハイハットやドリル、SE的なアンビエント風のシークエンスという形に反映されている。まさにロンドンのダンスミュージック文化の威信をかけて制作されたオープナーである。実際的に、ローエンドの強いバスドラム(キック)とMARMOの近未来的な音楽性が結び付けられるとき、ダンスミュージックの新奇な表現が産声を上げるというわけなのだ。

 

二曲目「Deaf Ears Are Sleeping」は、例えば1990年代のCLARKの『Turning Dragon』など、ドイツのゴアトランスに触発された癖の強いダンスミュージックだが、オープナーと同じようにSEの効果音を用いながら、オリジナリティ溢れる音楽を追求している。部分的には、最近のオンラインゲームのサウンドトラックのようなコンセプチュアルな音楽が、ダブステップのようなリズムと結び付けられ、近未来的なEDMが構築されている。


「Deaf Ears Are Sleeping」に発見できるのは、バーチャル(仮想空間)の時代の新しい形式のダンスミュージックであり、それらが一貫して重低音の強いベースやバスドラム、Spuarepusher(スクエアプッシャー)のようなアクの強いリズムと結び付けられている。さらに、モジュラー・シンセなのか、サンプラーで出力しているのかまでは判別出来ないが、ドローン風の効果音もトラック全体に独特なドライブ感と、映像的な音楽性を付け加えていることも付記すべきだろう。

 

3つのリミックスは、オリジナル曲をアシッドハウス、ゴアトランス寄りのミックスとして再構成されたものなので、説明は割愛したい。しかし、「Aztec Euphoria」は、ドラムンベースやフューチャーベースの次の新しいジャンルが誕生した、もしくは、その芽吹きが見えはじめたといっても差し支えないかも知れない。リズムが複合的で面白く、アンディ・ストットのようなリズムの重層的な構築に重点を置いたトラックとして楽しめる。また、ブラジルのSeputula(セパルトゥラ)が、民族音楽をヘヴィメタルに置き換えてみせたように、マルモは民族音楽のリズムを彼らの得意とするダンスミュージックの領域に持ち込んだと解釈することができる。


近年、どれもこれも似たり寄ったりなので、EDMは飽和状態に陥っているとばかり思っていたが、どうやら思い違いだったらしい。解決の糸口は思いもよらない別のジャンルにあるのかも知れない。少なくとも、アフリカの打楽器のような音をサンプラーとして処理し、ドラムンベース、ダブステップ、フューチャーベースとして解釈するというマルモの手法は、まったく未曾有のもので、ロンドンのアンダーグラウンドから興味深い音楽が台頭したことの証ともなりえる。

 

例えば、Killing Jokeは、かつてイギリスに固有の音楽が存在しないことを悩んでいたが、彼らの場合は、すでに存在するリズムを複雑に組み替えることで、新しいイギリスの音楽(複合的なリズム)の形式を確立させた。これは、Gang Of Fourはもちろん、Slitsのようなグループを見ても同様だ。新しい音楽が出来ないと嘆くことはなく、すでにあるものに小さな改良を加えたり、工夫をほどこすだけで、従来に存在しなかったものが生み出される場合がある。Killing Jokeのようなポスト・パンクの代名詞的なグループは、歴史的にこのことを立派に実証している。ロンドンのMarmoもまたこれらの系譜に属する先鋭的かつ前衛的なダンスユニットなのである。
 



85/100