Review: High Vis 『Guided Tour』  ロンドンのポストパンクバンドの快作

High Vis 『Guided Tour』

 

Label: Dais

Release: 2024年10月18日


Review


あまり元気がないときに聴くと、エナジーが出てくる曲がある。それは実は、明るく温和な曲ばかりとは限らず、少し憂愁に溢れたロックソングである場合が多い。憂いは憂いによって同化され、吹き飛ばせるとも言える。この点において、ロンドンのポスト・ハードコアバンド、High Visの新作アルバム『Guided Tour』は天候不順や曇りがちの日々を見事に吹き飛ばす力がある。

 

High Visは、傷んだ兄弟や未知のパンクスのためにエナジーに満ち溢れたハードコアを提供する。当初彼らは今作で聴こえるよりも遥かに無骨なハードコアソングを特徴としていたが、『Guided Tour』はややエモーショナル・ハードコアに近い作風である。詳細に指摘すると、DiscordのワシントンDCのパンク、Minor Threat、One Last Wishのような最初期のポスト・ハードコアを基底にし、そこからJoy Divisionのような静謐なポスト・パンク性を抽出する。ロンドン的な都会性とマンチェスターの古き良き港湾都市の雰囲気を併せ持っている。

 

このアルバムのハードコアソングは表面的にはパンキッシュであるが、聴き方によったら、すごくナイーヴにも思えるかもしれない。しかし、そのナイーヴな感覚が癒やしの瞬間に変化するときがある。アルバムの冒頭を飾るタイトル曲「Guided Tour」、そして最初の先行シングルとしてリリースされた「Mind's A Lie」等を聴くと、彼らが何をやろうとしているのかつかめるはずだ。そして、なぜ痛みをストレートに吐き出しつつも、それが都会の夕暮れの切なさや、何か情景的なセンチメンタルなイメージを呼び覚ますのかといえば、ボーカルが公明正大で、その声がエナジーとともに吐露される時に、心に何の曇りもないからである。これらのクリアで透徹した感覚は、歌詞や表現に何らかの遠慮や偽りがあるとなしえない。そして音楽的には、イアン・マッケイの系譜にあるストレートなボーカルに、メロディアスなギターラインが特徴的である。これがバンドのサウンドに色彩的なイメージを添えることがある。

 

 

もう一つ、High Visの主要なハードコア・パンクソングの中には、古き良きUKハードコアの影響が含まれている。それはGBH,Dischargeを筆頭とする無骨で硬派なパンクバンドである。そしてこれらの80年代のバンドがそうだったように、ヘヴィメタル寄りの重力のあるギターやベース、そしてシンプルなドラムが特徴となっている。というのも、GBH等のバンドはヘヴィ・メタルを演奏しようとしたが、演奏力が巧緻ではなかったために、ああいったドタバタのサウンドになった。 けれども、多くの実力派のギタリストが言うように、「テクニックより表現したいことがある」ということが良い演奏者になるための近道となるかもしれない。High Visの場合も同じように、英国の古典的なハードコアバンクを受け継ぎ、現代の若者として何を表現したいのか、つまり、そういった一家言のようなものをしたたかに持ち合わせている。

 

特に、このアルバムではそれらは洗練されたモダンなポスト・パンクとして昇華される場合がある。「Worth The Wait」、「Fill The Gap」では、バックバンドの演奏自体はオルタナティヴロックであるが、ボーカルだけが硬派なハードコアスタイルという複合的な音楽を探求していることが分かる。

 

歌詞に関しても一家言があり、例えば、「Mob DLA」等では脳に障害を負う兄弟のために歌っている。結局のところ、彼らのパンクサウンドは、満たされた人々ではなく、憂いを抱える人々の心を揺さぶり、それらに勇気をもたらすために存在している。もちろん、そういったマジョリティとは距離をおいたパンクソングは、いかなる時代であろうとも貴重なのだ。今作の最大の成果は、別のアーティストからトラック提供を受けた「Mind's A Lie」のようなアンセミックなパンクソングを制作したことに加えて、「Untethered」のようなポストハードコアの静謐なサウンドの側面を示したことにあるだろう。そしてポスト・ハードコアはどちらかと言えば、ハードコア・パンクにおける激しさや過激さは控えめで、きわめて静謐な印象をもたらすのである。その中には隠された知性も含まれている。


High Visのパンクロックソングは、必ずしも一般的なものとは言いがたいかもしれない。しかし、彼らが今作で示したのはUKハードコアの新機軸であり、それは先にも述べたように「別ジャンルとのクロスオーバー」に求められる。今回のアルバムでは、EDMのダンスミュージックとの融合という側面を捉えることが出来る。このアルバム全般には、内的な痛みがあり、それはむしろ誰もが持ちうることがあるからこそ、カタルシスのような癒やされる瞬間に変わる。最後にそれは清々しさに変化する。

 




78/100

 

 

 


「Deserve It」