Meat Puppets 『Out My Way』
Label: Self ReleaseRelease: 2024年11月15日 (オリジナルは1986年にSSTからリリース)
Review
アリゾナの伝説的なサイケロックバンド、Meat Puppetsは1980年代にデビューし、当初はカオティック・ハードコアバンドとしてミュージック・シーンに登場した。しかし、オルタナティヴロックの隠れた名盤『Ⅱ』では、サイケロックやアメリカーナ、メキシカーナを組み合わせた独創的なロックバンドへと転身を果たした。Nirvanaのカート・コバーンがこよなく彼らの楽曲を愛したのは周知の通りで、MTV Unpuggedでは実際にメンバーと一緒に、「Lake Of Fire」を演奏した。このアンプラグド・ライブの映像は、Youtubeなどでも視聴出来る。
その後、バンドは驚くべきことに、メジャーレーベルと契約し、「Backwater」等の代表曲を持つようになった。90年代にはインディーズバンドの多くがメジャーとライセンス契約を交わし、オルタナティヴロックそのものがメジャー化していったが、ミート・パペッツもその流れに乗ったのである。ということで、1990年代は商業的なハードロックソングを中心に制作したバンドだったが、 その後はリリースがまばらになり、2010年に『Lollipop』を発表した後、ライブ・アルバムこそ発表していたが、新作アルバムからはしばらく遠ざかっていた印象を受ける。
今作は1986年のバンドの駆け出しの頃のアルバムの再発となる。 そして長年、最初期のアルバムを聴いていて不思議なエキゾチズムを感じていたのだったが、ハードロックの性質を押し出した『Out My Way』でミート・パペッツの本質的な魅力が明らかになったような気がした。それは名声や野望といった表面的な鎧のようなものが剥がれ落ち、その正体があらわになったとも言える。彼らの制作するロックソングはお世辞にも時流に乗っているとは言い難いかもしれないが、このアルバムには普遍的なロックソングの魅力が満載であり、また、カッティングギターを元にしたギターロックにサイケデリックなテイストが添えられている。実際的には、アルバムのいくつかの収録曲には、アリゾナのバンドのロックに対する愛情が滲んでいるのである。
最初期にはカントリーとパンクを融合させ、独創的なソングライティングを行っていたが、今作でもそれらのカントリーの要素が含まれている。「Not Swimming Ground」では、ロカビリー風のギターの運びにカントリーの歌を乗せている。当初は雑多的な音楽性で知られていたバンドであるが、むしろ普遍的なアメリカン・ロックに近づいたという印象を受けた。また、先述した通り、野心的な思いは薄れ、シンプルに楽しもうという姿勢が軽快なロックソングにはうかがえる。実際的に、ロックの醍醐味といっては大げさになるが、その魅力の一端に触れることができるはず。また、最初期のMPのようなロカビリーに触発されたパンキッシュなナンバー「Mountain Lion」を聴くと、「これぞアメリカのロック!」と唸りたくなる。また、カート・コバーンが彼らのボーカルのスタイルに影響を受けたのは明らかである。ピッチのよれたヴォーカル、そして、くるくるとモードを変更させるロカビリースタイルのギター、またそれを補うリズム・セクションなど、バンドアンサンブルの純粋な魅力に満ち溢れている。録音の完成度とはまったく指針の異なり、好きな音楽を徹底した追求するという姿勢が素晴らしい。
その他にも、時代不明の懐かしきハードロックが展開され、Grand Funk Railroad、ZZ Top、Bad Companyの系譜にある渋いロックソングが満載である。しかし、それらの古典的なハードロックの楽曲も、Meat Puppetsの手にかかると、魔法が掛けられたようにサイケのテイストを漂わせる。「I Just Want to Make Love With You」はタイトルがMuddy Watersのようでぎょっとさせるが、耳をつんざくようなUSハードロックの原初的な魅力を体験することができる。その後に続く「On The Move」では同じようにノスタルジックなロックソングを楽しめる。
続く「Burn The Honky Tonky Down」では奥深いフォーク・ソングのルーツに迫っている。曲を聴いていると、アラバマやミシシッピが歌詞の中に登場しそうな雰囲気だ。三拍子の軽快なリズムに合わせて、ホンキートンクやフォークソングを通じて南部のルーツに迫っている。その後は米国南部のロックであるサザンロックの性質が強まる。ジョニー・ウィンターやオールマン・ブラザーズ・バンドといった南部の素晴らしい音楽を継承し、軽快なロックソングとして昇華している。
実験的なロックのアプローチも取り入れられている。「Backwards Drums」は、ミニマル・ミュージックの要素を取り入れ、アリゾナの民俗学的な音楽の要素を取り入れ、新鮮なロックミュージックに仕上げている。「Everything Is Green」ではインストバンドのバンドの一面が表される。この曲では、スタジオミュージシャン顔負けの楽しげなライブセッションが繰り広げられている。小さなスタジオでラフなジャムを録音したかのような即興的なインストゥルメンタル。しかし、作り込まれた高水準のクオリティーを誇るロックソングよりも魅力的だ。クローズ「Other Kinds of Love #2」ではアリゾナの幻想的な雰囲気をローファイなロックとして収めている。
68/100