Interview: Kenji Kihara  アンビエント制作について解き明かす  地域コミュニティへの還元を重視する姿勢

Interview:  Kenji Kihara  アンビエント制作について語る  地域コミュニティへの還元を重視する姿勢

Kenji Kihara アーティスト様からのご提供
 

Kenji Kihara(木原 健児)は、日本のエレクトロニックプロデューサー。現在、伊豆を拠点に活動しています。アンビエント、環境音楽、BGMの制作を得意とし、ソロ名義での電子音楽を中心に発表しています。『Hayama Ambient』、『Izu Ambient』、『Soothe & Sleep』を始めとする代表作を擁する。

 

また、ソロ活動の傍ら、宮内遊里との共同プロジェクト、”BGM LAB.”に取り組んでいます。このプロジェクトでは、よりBGMに重点を置いたサウンドを追求。その他、CM音楽や館内BGMなど、他の媒体に向けて音楽を制作している。

 

今回、アンビエント制作全般について、『Izu Ambient』を始めとするシリーズ、さらにフィールドレコーディングに関して、貴重なご意見を伺うことが出来ました。 制作者は地域のコミュニティへの還元を重視し、従来のミュージシャンとは異なる概念を活動を通じて提示する。ミュージシャンが社会的にどのような存在であるべきか、彼は模範的な姿勢を示そうとしています。


 

ーーまずはじめに、アンビエントというジャンルに興味を持ったきっかけについて、お聞かせください。



キハラ・ケンジ:  きっかけは定かではないのですが、しいて言うのであれば、「Mother2」の「eight melodies」という曲が私の中のアンビエント作品として今もベースになっている気がします。(正確にはアンビエントではないと思いますが......)あとは、Aphex Twinの『Ambient Works』にはとても影響を受けました。「アンビエント」という名前を意識したきっかけだったかもしれません。


ーー「Mother」シリーズ(編注1)は、高木正勝さんも影響を受けたそうなんですが、電子音楽を制作するためのヒントのようなものが何かあるのでしょうか。


キハラ・ケンジ:  今でも「Mother」の音楽は聴くのですが、なんでこんなにも魅力的なのかよく考えます。まだ、私の中では答えが出ていないですね。



ーー木原さんの作品の中には「Hayama Ambient」というシリーズがありますね。葉山は、三浦半島の風光明媚な美しい町ですが、この土地とのつながりについて教えていただければと思います。



キハラ・ケンジ:  結婚を機に葉山に住みはじめました。現在は伊豆に居を移しましたが、今でも時々訪れています。思い出も多くとても好きな町です。そこでフィールド・レコーディングをするのがライフワークのような形になりました。



ーー全般的な作風を見た上で、木原さんのアンビエントはヒーリング・ミュージックに近い音楽性を感じますが、こういった作風に至った経緯について教えていただけますか。



キハラ・ケンジ:  アンビエント以外のジャンル全てにおいてですが、「穏やかで、心地よく、風通しの良い音楽」をコンセプトに楽曲を制作しています。心地よくいられる音楽を作っていたら、ヒーリングミュージックに近づいていったかもしれません。


ーー「ハヤマ・アンビエント」と合わせて「Soothe & Sleep」というシリーズにも取り組まれています。この作品のコンセプトや指針はどういった点にありますか。


キハラ・ケンジ:  タイトルの通り、眠る時や心を落ち着かせる時のために使う音楽を目的に制作しています。例えば、Bandcampでは、30分ほどかけて、音をゆっくりと変化させる作りになっています。心の移り変わりを感じたり、ときには、睡眠導入の一助になればと思っています。



ーー楽曲の最初のインスピレーションはどこからやってきますか。制作がどのように始まり、完成に近づいていくのか、ぜひお聞きしたいです。



キハラ・ケンジ:  自然やその時の天気だったり、身の回りの環境からインスピレーションを得ます。その時々ですが、フィールドレコーディングの音や、そのときに爪弾いたキーボードだったりギターの音などを起点とすることが多いですね。


制作に向かう時の自分の中の状態や周りの環境にあわせて、たとえば、心をゆっくり落ち着けたい時は「SOOTHE & SLEEP」シリーズのような曲、晴れて気持ちの良い時、その逆に曇りが続いて憂鬱な気分を変えたい時は、異なるアプローチから始まります。そんな形でスケッチした曲が大量にあって、ふとした時に曲が完成します。


ーーフィールド・レコーディングを行うときの楽しみについてはどうですか?


キハラ・ケンジ:  音の風景を切り取っているという感覚でしょうか。その時々、その場所に実際にあったものや事柄に思いを馳せることができるといいますか………。人それぞれ、思い思いに聴くこともできますし、「記憶」に直結している感覚。そういうのがとても面白いですね。



ーー木原さんは、これまでに、ご自身のプロジェクトの作曲のほか、CM制作や館内BGMも手掛けていらっしゃいます。映像音楽や環境音楽を制作する上でどのような点を重視していますか?



キハラ・ケンジ:  なるべく、こういう風に聴いて欲しい。といったような自分の想いは入れないよう心掛けています。



ーーほかにも、宮内優里さんとのプロジェクト「Music Lab」の活動に取り組んでいらっしゃいます。このプロジェクトを始めた理由は何でしょう?



キハラ・ケンジ:  ”BGM LAB.”は、BGM(背景音楽)のための音楽研究室として2016年から活動しています。


日常のBGMが、いわゆる普段聴いているような「聴くため」の音楽ではなく、例えば、お香を焚き、その場の空間が少し変わるような、道具としての音楽をつくれたらということで始まりました。日常をより日常として充実させる手助けが出来る道具として、”BGM LAB.”はそんな音楽を目指しています。



ーー直近では「Izu Ambient(イズ・アンビエント)」もリリースされました。この曲には、波の音、鳥の声のフィールド・レコーディングが入っていて、かなり癒されました。この作品について、くわしく教えていただけますか。日本の名所シリーズは今後も続けていく感じでしょうか?



キハラ・ケンジ:  フィールド・レコーディングは、特別ではない日々の営みの音を切り取る、そんな感覚が好きで日々の記録としておこなっています。(ちょっとした趣味みたいなものです)
  

私は、海や山といった自然に近い場所に住んでいるのですが、その自然やそこで暮らす生き物などの営みに日々インスピレーションを受けて楽曲制作することが多いです。そこから受けたものを、どうにかしてその「場所」にお返しできないか、音楽を通じて何かできないか......。ということを考えていました。


いわゆる”地産地消”(編注2)といったようなものを、自分の作った音楽で表現できたらと......。そのため、シリーズの売上はすべて、伊豆でスモールビジネスを営むお店や場所などで使用しています。そして、その場所で「イズ・アンビエント」を制作することによって循環が生まれたら良いなと思っています。



今後も同じような感覚で、訪れた先でのフィールド・レコーディングを通した作品を制作する予定です。



編注1 :「Mother」: 1989年に任天堂から発売された日本のゲーム。コピーライターの糸井重里さんがゲームデザインを手がけた。オリジナル・バージョンの音楽を担当したのは、鈴木慶一さん。「Mother 2」は1994年に発売された。音楽は''たなかひろかず''さんが手掛けた。たなかさんは、その他にも、アーケード版「ドンキーコング」、「マリオブラザーズ」の音楽を手掛けている。


編注2:   地産地消:  地域生産・地域消費の略語で、地域で生産された様々な生産物や資源をその地域で消費すること。



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