New Album Review: Franz Ferdinand(フランツ・フェルディナンド) 『The Human Fear』

Franz Ferdinand 『The Human Fear』

Label: Domino

Release: 2025年1月10日


Review


スコットランドのフランツ・フェルディナンドは、2000年代からイギリスのロックシーンを牽引してきたリーダー的な存在であり、アークティック・モンキーズとデビューの時期が被っている。その両バンドが同レーベル、Dominoに所属しているというのは、なにかの奇縁としか言いようがない。フランツ・フェルディナンドは、ダンスロックという2000年代初頭のムーブメントを牽引したが、この最新アルバムでも、たとえ若干のメンバーチェンジがあったにせよ、彼らのアプローチには大きな変更はない。しかし、アレックス・カプラノスをはじめとするバンドメンバーの胸中には、アルバムのタイトルにあるように、恐怖という感情があったという。制作に関して、ビックネームのバンドにも、おそれという感情が湧き出るというのは驚きであるが、ある意味ではそれを乗り越えるためのアルバムではないかと思われる。

 

アルバムはドラムのカウント代わりに、アレックス・カプラノスの掛け声とともに始まり、ライブセッションのような感じで始まる。オープナーを飾る「Audacious」からフランツ節が炸裂し、軽快なディスコロック風のナンバーが繰り広げられる。まるで長年のモヤモヤした感覚を振り払うかのようなシンプルで親しみやすいロックソングによって新旧のロックファンの心を掴む。しかし、以前と大きく変わらないように見えるが、実際はサビにおいてスタジアムアンセムへと移行し、長らくライブ・バンドとしてのキャリアを歩んできたバンドとしての迫力を見せる。変拍子の展開を交えているが、シンプルでフックのある曲作りでシンガロングを誘発する。また、ロックソングの安心感やメロディアスという側面も今回のアルバムでは強調されている。「Everydaydremaer」ではやはりダンサンブルなロックソングの側面を押し出しているが、リバティーンズの最新作と同様に、バラード的な叙情性がボーカルから湧き上がり、それらがベースラインと絶妙に重なり合っている。また、バンドサウンドの側面でも工夫が凝らされ、メロトロン風のシンセとベースがボーカルの合間に入り、良い空気感を創り出している。

 

「The Doctor」は明らかに80年代のシンセ・ポップやポピュラー・ソングに根ざしていて、懐古的な雰囲気を漂わす。しかし、バンドサウンドとしては、モダンなロックサウンドを意識しており、タイトな楽曲に仕上がっている。特に続く「Hooked」はフランツ・フェルディナンドの復活を告げるハイライトである。サブベースの強いエレクトロサウンドをディスコのビートと組み合わせて軽快なロックソングに仕上げている。この曲には、アルバムのテーマである恐怖を打ち破るような力があり、聴いているだけで活力がみなぎってくるような効果がある。デビューアルバムの頃から培われたジプシー音楽のスケールを生かしたロックソングもある。「Built Up」において哀愁のある旋律性を活かし、アンセミックな楽曲性を強調する。同じく、「Night Or Day」ではハードロック風の楽曲のスタイルを選んでいるが、やはり南欧の哀愁のあるサウンドがシンプルな構成の中で個性的を雰囲気を醸成している。相変わらずカブラノスのボーカルはクールさとシニカルな印象を持つが、やはり彼らの音楽は不動のものという気がする。簡単に模倣出来るようでいて、そうではない唯一無二のサウンドが貫流している。

 

このアルバムは押しも押されぬフランツらしい作品として十分に楽しめるような内容となっている。しかし、新たに ポピュラー・ソングやワールド・ミュージックの要素が以前よりも色濃くなったという点を言及しておきたい、それは実際にアルバムを楽しむ上で、一度聴いただけでは掴み難い、渋さや奥深さという魅力にも成りえる可能性がある。例えば、前者は、「Tell Me What I Should Stay」では、Wham!を彷彿とさせる年代を問わず楽しめるポップソングとして、スコットランドのケルト民謡のリズムが登場する「Cats」では、電子音楽とは異なる民族音楽を要素がダンスミュージックの色合いを強調させ、心楽しいサウンドが立ち現れている。

 

また、アルバムの終盤でもワールド・ミュージックの要素が一つのキーポイントとなりそうだ。「Black Eyelashes」では奇妙なサーカスのようなサウンドが登場する。そしてそれらをフランツ・フェルディナンドはパブロックのような渋いロックサウンドと結びつける。ボーカルやバンドアンサンブルから立ち上る哀愁やペーソスのような感覚がこの曲を個性的にしている。最近、2000年代に登場したバンドは、ガレージロックを忘れつつあるが、フランツに関してはそうではなかった。「Bar Lonely」では、ガレージロックの風味をどこかに残しつつ、彼らの得意とするダンスロックのようなサウンドを織り交ぜ、それらを最終的ポピュラー的なフィルターに通している。ここにはやはり、ライブ・バンドとして名を馳せてきたバンドの真骨頂のようなものを見出すことも出来るかもしれない。意外とかっこいいと思ったのがクローズに収録されている「The Birds」である。70年代のThe Byrdsのサウンドを彷彿とさせるコアなハードロックソングは懐かしさとともに普遍性を感じとることが出来る。さまざまな角度から楽しめるロックアルバム。フランツは今なお良質なバンドであることを証明付けている。




76/100


 

 

Best Track 「The Hooked」